審決取消請求事件 » 平成28年(行ケ)第10265号「盗難防止タグ」事件

名称:「盗難防止タグ」事件

審決取消請求事件

知的財産高等裁判所:平成28年(行ケ)第10265号 判決日:平成29年10月3日

判決:審決取消

特許法29条2項、134条の2第9項、126条7項

キーワード:容易想到性、訂正の許否

判決文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/104/087104_hanrei.pdf

 

[概要]

 主引用発明に副引用発明を適用するに当たり、副引用発明の構成を変更することの動機付けについて慎重に検討すべきとして、主・副引用発明の目的効果の達成に関連しない周知技術を適用する動機付けは認められないとした事例。

 

[事件の経緯]

 原告は、特許第3099107号の特許権者である。

 被告が、当該特許の請求項1~4、6及び7に係る発明についての特許を無効とする無効審判(2015-800016号)を請求し、原告が訂正を請求したところ、特許庁が、当該訂正を認めずに当該特許を無効とする審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。

 知財高裁は、原告の請求を認容し、審決を取り消した。

 

[本件訂正発明](下線は、訂正箇所)

【請求項1】盗難防止対象物に対する取り付け状態及び取り外し状態を検出する検出手段と、非接触で信号を受信する受信手段と、前記検出手段が取り外し状態を検出したとき及び前記受信手段が所定信号を受信したときに、警報を出力する警報出力手段とを備えた複数の指示信号を受信する盗難防止タグにおいて、

前記受信手段は、前記警報出力手段が作動可能である状態及び警報出力状態の解除を指示す

る、暗号コードを一部に含む解除指示信号を受信することを可能とする一方、

前記受信手段が受信した前記所定信号及び前記解除指示信号を識別する識別手段と、 暗号コードを予め記憶する暗号記憶手段と、前記識別手段が識別した解除指示信号に含まれる暗号コード及び前記暗号記憶手段が記憶する暗号コードが一致するか否かを判定する一致判定手段と、該一致判定手段が一致すると判定したときは、前記警報出力手段が作動可能である状態及び警報出力状態を解除する解除手段とを備えることを特徴とする盗難防止タグ。

 

[審決]

(1)本件訂正前の特許請求の範囲請求項1ないし9は一群の請求項であるところ、特許無効審判の請求がされていない請求項に係る本件訂正発明8及び9は、いずれも、引用例1に記載された、盗難防止タグ1を含む盗難防止装置に関する発明(引用発明A)、引用例1ないし3に記載された事項、並びに周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであり、独立して特許を受けることができないから、本件訂正を認めない。

(2)本件発明1ないし4、6及び7は、いずれも、引用例1に記載された、盗難防止タグ1に関する発明B(引用発明B)、及び引用例1ないし3に記載された事項や周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであり、進歩性を欠くから、これらの発明についての本件特許は無効にすべきである。

(相違点2)

 本件訂正発明8では、盗難防止タグが「複数の指示信号を受信」し、「前記受信手段が受信した前記所定信号及び前記解除指示信号を識別する識別手段」を備え、解除指示信号が「暗号コードを一部に含」み、一致判定手段が「前記識別手段が識別した解除指示信号に含まれる」暗号コードが一致するか否かを判定するのに対し、

 引用発明Aでは、タグ1が「コード信号を受信」し、「前記アンテナ51が前記所定の周波数の電波を受信したと判定し及び前記付設されたアンテナが前記コード信号を受信したと判定するCPU55」を備える点。

※裁判では、請求項1の訂正と共通する暗号コードの態様と判定手段の相違について争われた。

 

[主な取消事由]

(1)訂正の可否の判断の誤り(取消事由1)

ア 本件訂正発明8に係る進歩性(相違点2)の判断の誤り

イ 本件訂正発明9に係る進歩性(相違点2、5及び6)の判断の誤り

 

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)

1.取消事由1(訂正の可否の判断の誤り)について

『エ 引用例3事項を適用した引用発明Aの構成

 (ア)本件訂正発明8において、・・・(略)・・・識別手段による解除指示信号の識別に用いられるコードと、一致判定手段による暗号コードの一致判定に用いられるコードとは無関係なものということができる。また、本件明細書に記載された実施例(【図7】)では、・・・(略)・・・リセットコードであることを示すデータコード「0、0」と、暗号である4桁のデータコードとは無関係なものとして記載されているということができる。

(イ)一方、引用発明Aにおいて、タグ1は、警報動作を解除するに当たり、「コード信号」(警報動作を終了させる電波信号)の受信を判定する。そして、引用例3事項のメッセージデコーダ116は、受信した「それぞれ異なるメッセージを含む信号」から「終了メッセージを含む信号」(警報動作を終了させる電波信号)を解読するものである。・・・(略)・・・

(ウ)そうすると、警報動作を終了させるに当たり、本件訂正発明8の盗難防止タグは、解除信号の一部に含まれる、解除指示信号の識別とは無関係な「暗号コード」と、記憶された暗号コードとの一致判定を行うのに対し、引用例3事項を適用した引用発明Aのタグは、解除信号である「コード信号」と、記憶された「それぞれ異なるメッセージを含む信号」中の「コード信号」との一致判定を行うものである。したがって、引用発明Aに引用例3事項を適用しても、相違点2に係る本件訂正発明8の構成に至らないというべきである。

オ 本件審決の判断について

 (ア)本件審決は、・・・(略)・・・「信号が設定可能なコードを一部に含み、一致判定手段が前記信号に含まれる前記コードが一致するか否かを判定する」という周知技術(以下「審決認定周知技術」という。)が認められるから、引用例3事項を適用するに当たって、引用例3事項の「終了メッセージを含む信号」を、設定機能によって所望に設定できるコードを一部に含み、引用発明Aの一致判定手段において信号に含まれるコードが一致するか否かを判定するように構成することは、当業者にとって格別困難ではないと判断した。

 (イ)・・・(略)・・・しかしながら、前記エのとおり、引用発明Aに引用例3事項を適用しても、相違点2に係る本件訂正発明8の構成に至らないところ、さらに周知技術を考慮して引用例3事項を変更することには格別の努力が必要であるし、後記(ウ)のとおり、引用例3事項を適用するに当たり、これを変更する動機付けも認められない。主引用発明に副引用発明を適用するに当たり、当該副引用発明の構成を変更することは、通常容易なものではなく、仮にそのように容易想到性を判断する際には、副引用発明の構成を変更することの動機付けについて慎重に検討すべきであるから、本件審決の上記判断は、直ちに採用できるものではない。

(ウ) 引用例3事項の変更について

a 審決認定周知技術は、一致判定手段が、信号の一部に含まれるコードと、あらかじめ記憶されたコードとの一致判定を行うものであり、信号の具体的構成として、信号の一部に一致判定のためのコードが含まれるものである。

 一方、引用発明Aが記載された引用例1には、「コード信号」の構成について、「なお、上記実施例では、コード信号を予め定められたものとして扱っているが、・・・(略)・・・所望のコード信号を設定できるようにしても構わない。・・・(略)・・・と記載されているにとどまる。引用例1には、「コード信号」(審決認定周知技術における「信号」に相当する。)の具体的な構成をどのようなものにするかについては記載も示唆もされていない。

 また、引用例3には「終了警報信号のためのメッセージ・パターンは…10011である。」と記載され(8頁右欄7行~9行)、「終了メッセージ」(審決認定周知技術における「信号」に相当する。)を変更することについての示唆はない。引用例3の付け札が、信号が送信されるごとに物品識別及び価格付けデータが変更されるものであったとしても・・・(略)・・・その信号の意味が異なるから、後者の変更をもって、前者を変更することについて示唆があるということはできない。このように、引用発明Aにも引用例3にも、審決認定周知技術を適用する示唆はないから、仮に審決認定周知技術が認められたとしても、引用発明Aに引用例3事項を適用するに当たり、審決認定周知技術を前提に、引用例3事項の構成を変更しようとは考えないというべきである。

b 引用発明A及び引用例3事項の目的効果

・・・(略)・・・引用発明Aにおける所望のものに設定可能な「コード信号」について、審決認定周知技術のように、その一部に一致判定のためのコードを含ませることによって、さらに、何らかの効果が得られるかは不明である。前記1(3)に記載した本件各訂正発明が解決しようとする課題が、仮に周知であったとしても、引用発明Aのタグは、既に当該課題の解決手段を有するものである。

 また、引用例3は、「電子物表監視システムにおける拡張された作動能力を提供すること」を目的とするものであり(4頁左欄28行~31行)、引用例3事項の「終了メッセージを含む信号」における信号の構成を変更しても、この目的を達成することにはならない。

 このように、引用発明A及び引用例3事項に、審決認定周知技術を適用しても、その目的とする効果が変わるものということはできないから、仮に審決認定周知技術が認められたとしても、引用発明Aに引用例3事項を適用するに当たり、審決認定周知技術を前提に、あえて引用例3事項の構成を変更しようとは考えないというべきである。

 (エ)よって、仮に審決認定周知技術が認められたとしても、引用発明Aに引用例3事項を適用するに当たって、引用例3事項の「終了メッセージを含む信号」を、設定機能によって所望に設定できるコードを一部に含み、引用発明Aの一致判定手段において信号に含まれるコードが一致するか否かを判定するように構成することを、当業者は容易に想到することができるものとはいえない。』

 

[コメント]

 本判決においては、主引用発明に副引用発明(公知技術)を適用した上で、さらに周知技術を適用して発明の構成を変更するためには『変更することの動機付けについて慎重に検討すべき』とし、周知技術を前提に構成を変更することの動機付けについて、①各引用発明での記載・示唆があるか、②各引用発明に周知技術を適用することでそれぞれの目的とする効果が変わるものか、を判断材料として用いている。本論点は、「平底幅広浚渫グラブバケット」事件(知財高判平成27年(行ケ)第10149号)で判示された、主引用発明から課題が認識できるか否か、と併せて、実務上有用である。

 なお、弊所裁判例研究会では、本件特許の無効審判の請求がされていない請求項8等については、審判時に独立請求項とする訂正を請求しておけば、審理がスムーズに進む利点があったのではとの指摘があった。

以上

(担当弁理士:小林 隆嗣)