審決取消請求事件 » 平成29年(行ケ)第10037号「電子カルテ画面構成システム」事件

名称:「電子カルテ画面構成システム」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成29年(行ケ)第10037号 判決日:平成30年2月5日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:用語の意義、一致点の認定
判決文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/427/087427_hanrei.pdf

[概要]
請求項に記載されている用語の意義を明細書の記載も参酌して解釈すると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は審決が認定したとおりであり、審決の相違点の判断にも誤りはないとして、新規性及び進歩性を否定した審決が維持された事例。

[事件の経緯]
原告が、特許出願(特願2015-229249号)に係る拒絶査定不服審判(不服2016-8990号)を請求したところ、特許庁(被告)が、請求不成立の拒絶審決をしたため、原告は、その取消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本件発明]
【請求項1】医療や介護上の文書を記録する電子カルテシステムにおいて、文書を構成する個々のデータを記録するデータ記録場所を備え、以下(1)から(4)を備えることにより個々のデータの入力及び出力を複数の画面構成系列を用いて可能とし、さらに複数の異なる文書種類から、それぞれの構成要素の読み出し参照・編集を可能としていることを特徴とする電子カルテ画面構成システム。
(1) 複数の画面構成系列を設定する画面構成系列設定手段と、前記複数の画面構成系列の内から使用する画面構成系列を指定する画面構成系列指定手段を備え、
(2) 前記画面構成系列設定手段は、当該画面構成系列に属する複数の画面構成を設定する個別画面構成設定手段を備え、
(3) 前記個別画面構成手段は、画面を構成する個々の画面構成要素を設定する画面構成要素設定手段を備え、
(4) 前記画面構成要素設定手段は、表示位置、大きさ、見出しを含む構成要素表示条件設定手段を備え、さらに、
a) データの入力や、入力済みデータの出力を行うデータ入出力要素においては、当該データの記録場所を指定するデータ記録場所設定手段、
b)別の画面への遷移を行うナビゲーション要素においては、画面の遷移先を指定する画面遷移先指定手段、
c)表示データに対して処理を行うデータ処理要素においては処理内容を設定する処理内容設定手段、
以上a)からc)の内、少なくとも一つを備えている。

[取消事由]
(1)一致点の認定の誤り及び相違点の看過
(2)相違点の判断の誤り

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『3 取消事由(本願発明の容易想到性の判断の誤り)について
(1) 一致点の認定について
ア 「データ記録場所」について
・・・(略)・・・
(ア) 「データ記録場所」の意義
請求項1の「データ記録場所」とは、文理上、「データ」を記録するための「場所」であると理解するのが自然である。
この点、原告は、「データ記録場所」は、データが特定の領域に格納され、その場所からデータをスムーズに出し入れすることを可能とするために設けられた概念であると主張する。
しかし、請求項1には、データが格納される領域についての具体的な記載はない。また、本願明細書の・・・(略)・・・との記載を参酌しても、データ入出力構成要素と記録場所とを対応付けることが記載されているのみで、データを記録する領域についての詳細な記載があるわけではない。
よって、原告の主張は採用できない。
(イ) 引用発明との対比
引用発明の「診察日や患者名などの基本情報、診察情報、病歴、レセプト、投薬情報などの電子カルテに必須の情報」は、本願発明の「医療や介護上の文書」を「構成する個々のデータ」に相当するところ、引用発明の「診察日や患者名などの基本情報、診察情報、病歴、レセプト、投薬情報などの電子カルテに必須の情報を蓄積する病院内のDB119」は、かかるデータを記録するためのデータベースであるから、本願発明の、医療や介護上の文書を記録する電子カルテシステムにおいて、文書を構成する個々のデータを記録する「データ記録場所」に相当する。
・・・(略)・・・
(ウ) 小括
以上によれば、本件審決が、「データ記録場所を備え」ている点を一致点と認定したことに誤りはない。
イ 「さらに複数の異なる文書種類から、それぞれの構成要素の読み出し参照を可能としていることを特徴とする電子カルテ画面構成システム」について
・・・(略)・・・
(ア) 「構成要素」の意義
請求項1の「複数の異なる文書種類から、それぞれの構成要素の読み出し参照を可能としている」との記載からは、1つの「文書種類」に複数の「構成要素」が含まれることが把握できるものの、「構成要素」が「文書種類」をどの程度細分化したものであるのかは、一義的に明らかではない。
本願明細書の・・・(略)・・・との記載によれば、「文書種類」とは、例えば、「医師記事」のように、各画面構成において表示される文書の種類であると解される。
そして、・・・(略)・・・によれば、「構成要素」とは、例えば「医師記事」における「訴え」、「所見」、「診断」、「処方」のそれぞれに対応するものであり、「文書種類」の内容を構成する要素であると解される。
これに対して、原告は、「訴え」、「所見」、「診断」、「処方」の各欄に表示された個別の項目が「構成要素」であると主張するが、本願明細書には、例えば、「医師記事」の「訴え」がさらに複数の要素に細分化されることの記載はなく、そのような示唆もないから、採用できない。
(イ) 「複数の異なる文書種類から、それぞれの構成要素の読み出し参照を可能としている」の意義
請求項1の「複数の異なる文書種類から、それぞれの構成要素の読み出し参照を可能としている」との記載からは、構成要素の読み出し参照の具体的態様は、一義的に明らかではない。
本願明細書の・・・(略)・・・との記載によれば、複数存在する文書種類のうちのある文書種類(医師記事)を通じて、記録場所からそれぞれの構成要素(「訴え」、「所見」等)を読み出して、図2のように表示して参照することを可能とするとともに、他の文書種類を通じても、それぞれの構成要素を読み出して参照することを可能とするものであると解される。
(ウ) 引用発明との対比
・・・(略)・・・、引用発明の「A:病歴、B:処置処方、C:処方調剤内容、D:シェーマ、E:レセプトの各々のコンテンツ(コンテナ)」は、本願発明の「画面を構成する個々の構成要素」に相当する。
引用例には、・・・(略)・・・が記載されていることによれば、引用発明は、コンテナのレイアウトが相関関係テーブルに基づいて決定されるものであり、主表示コンテンツとして選択されたコンテナによって特定される相関関係テーブルの行のセルの数値に基づいて、副表示コンテンツを表示するコンテナの表示の有無及び表示比率が設定され、これにしたがって電子カルテの表示画面のレイアウトが行われるものであると解される。
そして、引用例には、・・・(略)・・・の記載があるところ(【0129】、図31、図32)、図31に示された2つのレイアウト、図32に示された2つのレイアウトは、いずれも、それぞれの画面のレイアウトが異なるので、「複数の異なる画面構成」である。
医師用のAを主表示とするレイアウト画面には、「病歴」、「処置処方」、シェーマ、「処方調剤」が表示されるのに対し、Cを主表示とするレイアウト画面では、「処置処方」、「処方調剤」、「レセプト」が表示されており、両者は表示される文書としての内容が異なるから、Aを主表示とするレイアウト画面と、Cを主表示とするレイアウト画面は、「複数の異なる文書種類」である。・・・(略)・・・。
前記アのとおり、引用発明は、「診察日や患者名などの基本情報、診察情報、病歴、レセプト、投薬情報などの電子カルテに必須の情報を蓄積する病院内のDB119」を備えており、「病歴」、「処置処方」等の各「構成要素」に対応する「データ」はDB119に蓄積されるから、複数存在する文書種類のうちのある文書種類を通じて、DB119から読み出したそれぞれの構成要素を参照することが可能とされていると解され、引用発明は、「複数の異なる文書種類から、それぞれの構成要素の読み出し参照を可能」とするものである。
(エ) 原告の主張について
・・・(略)・・・
(オ) 小括
以上によれば、本件審決が、「さらに複数の異なる文書種類から、それぞれの構成要素の読み出し参照を可能としていることを特徴とする電子カルテ画面構成システム」との点を一致点と認定したことに、誤りはない。
ウ 「画面構成系列設定手段」、「画面構成系列指定手段」及び「個別画面構成設定手段」について
・・・(略)・・・
(エ) 原告の主張について
原告は、本願発明は、データの検索場所が「データ記録場所」一か所に集約され、そこから、「個別画面構成設定手段」を初めとする各手段によって、データの取り出しと記録を行うのに対し、引用発明では、「データ記録場所」を採用していないので、「相関関係テーブル」が機能せず、これを使用しても本願発明と同様の効果を実現することはできないから、「相関関係テーブル」は、「画面構成系列設定手段」、「画面構成系列指定手段」及び「個別画面構成設定手段」に相当するものではないと主張する。
しかし、請求項1には、データの検索場所が「データ記録場所」一か所に集約されるとの記載はなく、「文書を構成する個々のデータを記録するデータ記録場所を備え、」、「個々のデータの入力及び出力を複数の画面構成系列を用いて可能とし」との特定事項を備えていることをもって、データの検索場所が「データ記録場所」一か所に集約することが可能になると理解することもできない。本願明細書にも、「データ記録場所」の具体的構成についての記載はなく、図4の「記録場所」が記録媒体においてどのように実現されているかは明らかではない上、データの検索場所が「データ記録場所」一か所に集約されるとの記載や示唆はない。
また、原告は、引用発明の「相関関係テーブル」では、必要なデータを取得するために、カスタマイズを実行するプログラムが、各スタッフに係るデータベース全てのフォルダを巡回する等が必要となる旨主張するが、引用例には、そのような記載も示唆もなく、そのように解すべき根拠はない。
したがって、原告の主張は採用できない。
(オ) 小括
以上によれば、本件審決が、「画面構成系列設定手段」、「画面構成系列指定手段」及び「個別画面構成設定手段」を一致点と認定したことに誤りはない。
エ まとめ
よって、本件審決には一致点の認定の誤り及び相違点の看過はないから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、本件審決が認定したとおり(前記第2の3⑵イ、ウ)であると認められる。
(2) 相違点の判断の誤りについて
ア 原告は、引用発明は、「構成要素」は読み出していないから、「構成要素」単位で編集することはできないところ、本願発明は、「構成要素」単位で参照・編集を可能とするもので、顕著な効果を奏するから、本件審決の相違点の判断は誤りであると主張する。
しかし、前記(1)イのとおり、引用発明は、「病歴」、「処置処方」等の各「構成要素」を参照することが可能とされている。
また、引用発明は、・・・(略)・・・、参照した構成要素の編集は可能であると解されるから、「構成要素」単位で編集を可能とするとの効果も、引用発明から予測し得る範囲のものである。
したがって、「構成要素」単位で参照・編集できることは、本願発明の顕著な効果とはいえない。
イ また、原告は、本願発明では、文書の中から必要な構成要素を単位として抽出表示させているので、複数の異なる文書種類から自己に必要な文書のみをピックアップして表示させることができる、データの検索場所がデータ記録場所一か所に集約されるため、データがいかに膨大になっても対応可能である、との顕著な作用効果を奏するのに、本件審決がこれらの効果を看過していることが誤りであるとも主張する。
しかし、文書の中から必要な構成要素を単位として抽出表示させているので、複数の異なる文書種類から自己に必要な文書のみをピックアップして表示させることができるとの効果は、引用発明の構成から自明のものであり、本願発明の顕著な効果ではない。
さらに、前記(1)ウのとおり、本願発明は、データの検索場所がデータ記録場所一か所に集約されるとの構成を備えているとは認められない以上、かかる構成に由来する、データがいかに膨大になっても対応可能であるとの効果があるとは認められず、この点も本願発明の顕著な効果ではない。
ウ 小括
以上によれば、本件審決の相違点の判断に誤りはない。』

[コメント]
原告は、本願発明の「データ記録場所」は、データが特定の領域に格納され、その場所からデータをスムーズに出し入れすることを可能とするために設けられた概念であり、単なるデータ記録媒体である引用発明の「DB119」とは異なると主張した。また、原告は、本願発明では、データの検索場所がデータ記録場所一か所に集約される点が引用発明と異なると主張した。しかし、これらの主張は、特許請求の範囲の記載に基かないものであり、本願明細書に記載も示唆もないため、原告の主張を採用しなかった裁判所の判断は妥当であろう。
以上
(担当弁理士:吉田 秀幸)