審決取消請求事件 » 平成29年(行ケ)第10083号「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米」事件

名称:「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成29年(行ケ)第10083号 判決日:平成29年12月21日
判決:審決取消
特許法36条6項2号
キーワード:明確性要件、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム
判決文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/337/087337_hanrei.pdf

[概要]
請求項1に製造方法が記載されているとしても、本件発明に係る無洗米のどのような構造又は特性を表しているのかは、特許請求の範囲及び本件明細書の記載から一義的に明らかであり、請求項1の記載が明確性要件違反に該当するということはできないと判断された事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第4708059号の特許権者である。
被告が、本件特許を無効とする無効審判(無効2015-800173号)を請求し、原告が訂正を請求したところ、特許庁が該訂正を認めた上で、本件特許を無効とする審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、審決を取り消した。

[本件発明]
【請求項1(訂正後)】
外から順に、表皮(1)、果皮(2)、種皮(3)、糊粉細胞層(4)と、澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され、該表層部の内側は、前記糊粉細胞層(4)に接して、一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と、該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の、純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において、
前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で、摩擦式精米機により搗精され、表層部から糊粉細胞層(4)までが除去された、該一層の、マルトオリゴ糖類や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)が米粒の表面に露出しており、且つ米粒の50%以上に『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』または『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部が削り取られた基底部である胚盤(9)』が残っており、
更に無洗米機(21)にて、前記糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ、その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している『肌ヌカ』のみが分離除去されてなることを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米。

[取消事由]
明確性要件に係る判断の誤り

[被告の主張]
本件訂正後の特許請求の範囲請求項1は、玄米粒、搗精処理された精白米、無洗米処理された無洗米と、明らかに時の経過を伴う製造プロセスを含んだ記載によって無洗米を特定しており、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームとなっている。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『ウ 製造方法の記載の有無
・・・(略)・・・請求項1における「摩擦式精米機により搗精され」という記載は、本件発明に係る無洗米の前段階である、玄米粒の表層部から糊粉細胞層までが除去され、亜糊粉細胞層が米粒の表面に露出しており、米粒の50%以上に「胚芽の表面部を削りとられた胚芽」又は「胚盤」が残っている米の製造方法を記載したものと解するのが相当である。また、請求項1における「無洗米機(21)にて」とは、上記無洗米の前段階である米から、糊粉細胞層の中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している「肌ヌカ」のみが分離除去された、本件発明に係る無洗米を製造する方法を記載したものと解するのが相当である。
以上のような特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載によれば、請求項1は全体として、物の発明である「無洗米」を特定する事項の一部に製造方法が記載されているということができる。』
『(3)本件発明の明確性
ア 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合)において、当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号700頁参照)。しかるに、原告は、本件特許の出願時において上記「無洗米」をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在することについて、主張立証しない。
イ 他方、前記最高裁判決が、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると判示した趣旨は、特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合の技術的範囲は、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として確定されるが、そのような特許請求の範囲の記載は、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であり、権利範囲についての予測可能性を奪う結果となることから、これを無制約に許すのではなく、前記事情が存するときに限って認めるとした点にある。そうすると、特許請求の範囲に物の製造方法が記載されている場合であっても、上記一般的な場合と異なり、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から一義的に明らかな場合には、第三者の利益が不当に害されることはないから、明確性要件違反には当たらない。』
『ウ そこで検討するに、本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載は、前記第2の2のとおりであり、本件発明は、玄米粒において、(a)表層部から糊粉細胞層までが除去され亜糊粉細胞層が米粒の表面に露出しており、(b)米粒の50%以上に「胚芽の表面部を削りとられた胚芽」又は「胚盤」が残っており、(c)糊粉細胞層の中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している「肌ヌカ」のみが分離除去されてなることを特徴とする、旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の発明であることが記載されている。
・・・(略)・・・
他方、本件明細書には、本件発明に係る無洗米の前段階である前記ウ(a)(b)の米を製造するために摩擦式精米機により搗精し、かかる米から前記ウ(c)の本件発明に係る無洗米を製造するために無洗米機を用いるということのほかに、摩擦式精米機により搗精される米が前記ウ(a)(b)以外の構造又は特性を有することや、かかる米を無洗米機により無洗米としたものが、前記ウ(c)以外の構造又は特性を有することをうかがわせる記載は存在しない。
オ 以上のような特許請求の範囲及び本件明細書の記載によれば、本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の「摩擦式精米機により搗精され」という記載は、本件発明に係る無洗米の前段階である前記ウ(a)(b)の構造又は特性を有する精白米を製造する際に摩擦式精米機を用いることを意味するものであり、「無洗米機(21)にて」という記載は、上記精白米から前記ウ(c)の構造又は特性を有する無洗米を製造する際に無洗米機を用いることを意味するものであって、前記ウ(a)ないし(c)のほかに本件発明に係る無洗米の構造又は特性を表すものではないと解するのが相当である。
そして、本件発明に係る無洗米とは、玄米粒の表層部から糊粉細胞層までが除去され、亜糊粉細胞層が米粒の表面に露出し、米粒の50%以上に「胚芽の表面部を削りとられた胚芽」又は「胚盤」が残っており、糊粉細胞層の中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している「肌ヌカ」が分離除去された米であるといえる。
そうすると、請求項1に「摩擦式精米機により搗精され」及び「無洗米機(21)にて」という製造方法が記載されているとしても、本件発明に係る無洗米のどのような構造又は特性を表しているのかは、特許請求の範囲及び本件明細書の記載から一義的に明らかである。よって、請求項1の上記記載が明確性要件に違反するということはできない。』

[コメント]
裁判所は、本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載が、PBPクレームに該当すると判断したが、本件発明に係る無洗米のどのような構造又は特性を表しているのかは、特許請求の範囲及び本件明細書の記載から一義的に明らかであり、請求項1の記載が明確性要件に違反するということはできないと判断した。かかる判断を考慮すると、本件発明はPBPクレームで記載しなくとも、単に、「玄米粒において、(a)表層部から糊粉細胞層までが除去され亜糊粉細胞層が米粒の表面に露出しており、(b)米粒の50%以上に「胚芽の表面部を削りとられた胚芽」又は「胚盤」が残っており、(c)糊粉細胞層の中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している「肌ヌカ」のみが分離除去されてなることを特徴とする、旨み成分と栄養成分を保持した無洗米」と記載するのみで足りたと思われる。そうすると本件発明では、製法的記載は不要であって、敢えて記載したに過ぎないから「不可能・非実際的事情」が示されなくても明確性要件違反に該当しないと判断されたのではないかと思われる。
なお、本原告の「旨み成分と栄養成分を保持した精白米または無洗米の製造装置」に係る特許(特許第5306571号)については、審決取消訴訟(平成28年(行ケ)第10236号 )において、明細書の記載や技術常識を考慮しても、当該物(製造装置)を特定することができないから不明確と判断されている。
以上
(担当弁理士:山下 篤)