審決取消請求事件 » 平成28年(行ケ)第10092号「分散組成物及びスキンケア用化粧料並びに分散組成物の製造方法」事件

名称:「分散組成物及びスキンケア用化粧料並びに分散組成物の製造方法」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成28年(行ケ)第10092号 判決日:平成29年10月25日
判決:請求棄却
特許法29条2項、
キーワード:進歩性、刊行物、判断基準日、頒布日、ウェブページ
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/204/087204_hanrei.pdf

[概要]
ウェブページの開示からは本件発明に係る発明特定事項の全てが、本件出願日前に、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったもの認められない、として進歩性を肯定した審決が維持された事例。
スキンケア用化粧料において、pHに係る相違点が技術常識であるとしても、当該技術常識を非特許文献に記載の化粧品の原料である「乳化液組成物」に直ちに当てはめることはできない、として進歩性を肯定した審決が維持された事例。
非特許文献に記載の「製造年月」「印刷日」の記載からは頒布日を認定できない、として進歩性を肯定した審決が維持された事例。

[事件の経緯] 被告は、特許第5046756号の特許権者である。
本件特許について、原告が、請求項1~4に係る発明について特許無効審判請求(無効2015-800026号)をしたところ、特許庁は請求は成り立たない旨の審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本件発明]
【請求項1】
(a)アスタキサンチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びリン脂質又はその誘導体を含むエマルジョン粒子;
(b)リン酸アスコルビルマグネシウム、及びリン酸アスコルビルナトリウムから選ばれる少なくとも1種のアスコルビン酸誘導体;並びに
(c)pH調整剤
を含有する、pHが5.0~7.5のスキンケア用化粧料。

[取消事由]
取消事由1:「甲1ウェブページ」に記載された発明(引用発明1)に基づく容易想到性の判断の誤り
取消事由2:「アスタキサンチン ver.1.0 SM」カタログ(オリザ油化株式会社、2006年5月25日制定 「製品名:アスタキサンチン-LSC1、化粧品」)に記載された発明(引用発明5)に基づく容易想到性の判断の誤り
取消事由3:バイオジェニック株式会社販売の「Astabio AW0.5」製品のラベル(2006年9月製造)(甲9の1)及び「Astabio」のパンフレット(バイオジェニック株式会社)2007年5月10日(甲9の2)に記載された発明(引用発明9の1)に基づく容易想到性の判断の誤り

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
2 取消事由1(引用発明1に基づく容易想到性の判断の誤り)について
『(1)甲1ウェブページについて
・・・(略)・・・・
甲1ウェブページには、前記アのとおり、「以下の商品の全成分リストと類似性があります」との記載に続いて、「アスタリフト エッセンス(フジフイルム)」、「アスタリフト ローション(フジフイルム)」及び「アスタリフト クリーム(フジフイルム)」との商品名が記載されているところ、証拠(乙1の1、2、乙4、5)及び弁論の全趣旨によれば、上記各商品は、いずれも、平成19年7月10日にニュースリリースされ、同年9月12日に発売が開始されたものであること、甲1ウェブページに記載された上記各商品の情報は、「Cosmetic-Info.jp」内に登録された情報(発売された市販品及び公開された成分情報)に基づいて作成されていることが認められる。そうすると、甲1ウェブページには、本件出願日である平成19年6月27日よりも後にニュースリリース及び発売された商品が掲載されていることになるから、甲1ウェブページの「エフ スクエア アイ」の全成分について記載された部分が、甲1ウェブページにより、本件出願日前に、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものと認めることはできない。
ウ 原告の主張について
(ア)原告は、甲1ウェブページの最下行の記載から、甲1ウェブページが、「Cosmetic-Info.jp」と題するウェブサイトを、インターネットアーカイブのWayback Machineというサービスが複製したウェブページの写しであり、その複製元のウェブページは、久光工房のウェブサイト(乙1の1)における平成19年1月15日に発売された「エフ スクエア アイ」の全成分を表示したページであるから、久光工房によって遅くとも平成19年6月14日までにインターネットに公開されていたものであると主張する。
しかしながら、甲1ウェブページには、本件出願日より後にニュースリリース及び発売された商品が掲載されており、甲1ウェブページ自体は、本件出願日前に、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものということはできないのは、前記認定のとおりである。そして、その他、甲1ウェブページの「エフ スクエア アイ」の全成分について記載された部分が、甲1ウェブページ自体が電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったときよりも前に、電気通信回線を通じて公衆に利用可能であったことを推認させるような記載は、甲1ウェブページにはない。そうすると、甲1ウェブページの「エフ スクエア アイ」の全成分について記載された部分が、本件出願日前に、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものということもできない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(イ)原告は、「えふくん応援します ~お試しコスメ日記~」と題するブログの平成19年1月17日付けの「インフィルトレートセラムってどんなの?」と題する記事(甲58)、及び「@COSME」と題するウェブサイトの平成19年1月27日付けのクチコミ(甲59)に、甲1ウェブページと同じく「エフ スクエア アイ」の全成分が掲載されており、また、平成13年薬事法改正により化粧品の全成分表示が義務付けられたため(甲60)、「エフ スクエア アイ」の全成分の情報は、その発売日である平成19年1月15日(甲1、2)以降、インターネット上で広く利用可能となっていたといえるから、甲1ウェブページに記載された引用発明1は、本件出願日前に、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていたものであると主張する。
しかしながら、上記各ウェブページ(甲58、59)が本件出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていたものであったとしても、このことは、上記各ウェブページに記載された内容が本件出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能であったことを示すにとどまるものであり、上記と同内容が甲1ウェブページに記載されていたとしても、甲1ウェブページにおける「エフ スクエア アイ」の成分についての記載部分が、本件出願日前に、甲1ウェブページにより電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものということはできない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。』

3 取消事由2(引用発明5に基づく容易想到性の判断の誤り)について
『(2) 本件発明1と引用発明5との一致点及び相違点
・・・(略)・・・・
イ 相違点
本件発明1と引用発明5を対比すると、以下の点で相違するものと認められる。
(ア)相違点2
本件発明1は「pH調整剤」を含み「pHが5.0~7.5」であるのに対して、引用発明5はかかる事項を発明特定事項としない点。
・・・(略)・・・・
(エ)相違点5
本件発明1は「スキンケア用化粧料」であるのに対して、引用発明5は「化粧品用途の乳化液組成物」である点。
なお、原告は、審決が認定した相違点5についても、本件発明1と引用発明5の相違点ではないと主張する。
しかしながら、・・・(略)・・・・、甲5文献に記載された「アスタキサンチン-LSC1」という化粧品用途の乳化液に係る発明は、単独で化粧品として用いられるものではなく、化粧品の原料として用いられる乳化液組成物であるといえ、審決も、引用発明5が化粧品の原料として用いられるものであることを前提に各相違点の容易想到性の判断をしているものと解される。
・・・(略)・・・・
(3) 相違点に関する判断について
・・・(略)・・・・
そうすると、スキンケア用化粧料において、pHを弱酸性~弱アルカリ性の範囲の値とすること(甲3の1~6)が技術常識であるとしても、甲5文献に開示されているのは化粧品の原料としての「乳化液組成物」であって、引用発明5は、スキンケア用化粧料そのものではないから、上記技術常識を引用発明5に直ちに当てはめることはできないといわざるを得ない(化粧品の原料としての「乳化液組成物」において、そのpHを弱酸性~弱アルカリ性の値とすることが技術常識であることを認めるに足りる証拠はない。)。したがって、引用発明5において、相違点2に係る本件発明1の構成を採用する動機付けがあるとはいい難い。
・・・(略)・・・・
以上によれば、引用発明5において、リン酸アスコルビルマグネシウムを添加し(相違点3)、pH5.0~7.5程度に調整し(相違点2)、乳化剤をポリグリセリン脂肪酸エステルに限定する(相違点4)ことで、スキンケア用化粧料とすること(相違点5)は、それらの構成を採用することに動機付けがなく、したがって、当業者が容易になし得たこととはいえない、との審決の相違点の判断に誤りはないということができる。』

4 取消事由3(引用発明9の1に基づく容易想到性の判断の誤り)について
『(1) 甲9の1文献に記載された事項
・・・(略)・・・・
製造年月 2006年9月・・・
品質保証期限 製造後6ヶ月・・・
使用上の注意・・・
・・・(略)・・・・
(2) 検討
ア 甲9の1文献は、「Astabio AW0.5」製品の未使用のラベルであって、前記(1)のとおりの記載はあるものの、甲9の1文献には、甲9の1文献自体が頒布された日を推認することができる事項は何ら記載されていない。また、当該ラベルが貼付された製品が実際に製造販売されたか否かも全く不明である。そして、その他、甲9の1文献自体が頒布された日を推認することができる事情は見当たらないから、甲9の1文献が、本件出願日前に、頒布された刊行物であるということは困難である。
イ 原告の主張について
原告は、甲9の1文献は、「製造年月 2006年9月」との記載から、2006年(平成18年)9月に製造された製品に貼付され、遅くとも本件出願日前に頒布されたものと認められるべきであるし、甲9の2文献は甲9の1文献が付された製品のパンフレットであるところ、「Printed in Japan/2007.05.10NiC」との記載から、製造販売中の製品のパンフレットとして、遅くとも本件出願日前に頒布されたと認められるべきであると主張する。
しかしながら、甲9の1文献の「製造年月 2006年9月」との記載は、甲9の1文献自体が頒布された時期を直接示すものではない。また、甲9の2文献の「Printed in Japan/2007.05.10NiC」との記載からは、甲9の2文献が2007年(平成19年)5月10日を印刷日とすることが推認することができるにとどまり、その日に甲9の2文献が頒布されたことまでを推認することはできない。そうである以上、甲9の2文献の上記記載から、甲9の1文献自体が頒布された時期を推認することができるとはいえないから、甲9の1文献が遅くとも本件出願日(平成19年6月27日)前に頒布されたものと認めることはできない。』

[コメント]
本判決の取消事由1乃至3ではいずれも非特許文献に記載された発明を主引用発明とする、原告の進歩性欠如の主張が否定されている。
取消事由1ではウェブページの日付について、本件出願日後にニュースリリース及び発売された商品が掲載されていると認定されて、本件出願日前に、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものと認められていない。また、原告はWayback Machineによる日付の認定についても主張しているが、証拠が十分ではないことが指摘されている。また、取消事由3では「製造年月」「印刷日」の記載からは非特許文献の頒布日を認定できないとされている。非特許文献に記載された発明を認定するに基準日は、それぞれの文献によってそれぞれに判断される。特許文献に記載された発明に基づいて新規性、進歩性を主張するに際しては、非特許文献に記載された発明を認定するに基準日(または頒布日)が客観的に認められる理由、証拠を確保、証明しておくことの重要性が分かる判決である。
一方、取消事由2では非特許文献に記載された発明(主引用発明)と本件発明の多数の相違点について、技術常識を考慮したとしても、多数の相違点についての想到容易性の主張が否定されている。取消事由2については、多数の相違点が認定されていたこともあるが、非特許文献では、特許文献のような課題、効果の記載、発明の適用等についての記載がなく(または少なく)、進歩性を否定するための主引用発明として採用することの難しさが窺える。
なお、同一特許権に係る平成27年(ワ)23129号、その控訴審である平成28年(ネ)10093号の特許権侵害差止等請求事件では、被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するとの認定がなされたものの、無効の抗弁において、本件とは異なるウェブページを主引用発明とする進歩性欠如の理由により、差止等は認められなかった。
以上
(担当弁理士:光吉 利之)