審決取消請求事件 » 平成28(行ケ)第10279号「NK細胞活性化剤」事件

名称:「NK細胞活性化剤」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成28(行ケ)第10279号 判決日:平成29年11月30日
判決:請求棄却
特許法41条第2項、同法30条第4項
キーワード:国内優先権の主張を伴う出願に係る新規性喪失の例外の手続き

[概要]
国内優先権の主張を伴う出願の時に、新規性喪失の例外の適用を受けるための書面を提出しなかった出願の孫分割出願に係る発明が、その新規性喪失に係る刊行物により新規性が否定され、当該出願が拒絶審決されたことに対する審決取消請求が棄却された事例。

[事件の経緯]
(1)平成15年12月12日、特願2003-414258号(「基礎出願X」)をした。
平成23年改正前特許法30条4項所定の同条「第1項…の規定の適用を受けようとする…旨を記載した書面」を特許庁長官に提出し(基礎出願Xの願書に【特記事項】として記載した。)、出願日から30日以内に、同条4項所定の同条「第1項…の規定の適用を受けることができる発明であることを証明する書面」(いわゆる新規性の喪失の例外証明書)として、刊行物Aを特許庁長官に提出した。
(2)平成16年7月9日「NK細胞活性化剤」に係る優先権主張出願(特願2004-203601号(「出願A」)をした。
原告は、その出願Aと同時に、同条4項所定の同条「第1項…の規定の適用を受けようとする…旨を記載した書面」を特許庁長官に提出しなかった。
(3)平成22年10月13日、出願Aの分割出願(特願2010-230889号(「本願の原出願」)をした。
(4)平成25年3月18日、本願の原出願の分割出願(特願2013-55183号(「本願」)をし、平成27年2月23日、本願について拒絶査定を受けた。
(5)平成27年6月3日、拒絶査定不服審判請求をした(不服2015-10465号)。
(6)平成28年11月22日、特許庁は「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。
(7)原告がその審決の取消を求めたことに対して、知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本件発明]
【請求項1】
酸性多糖類を有効成分として含有することを特徴とするNK細胞活性化剤。

[刊行物A]
「NK活性上昇作用を有する、Lactbacillus bulgaricus OLL1073R-1 株が産生する酸性多糖体を有効成分とする機能性食品素材」の発明

[争点]
(1)平成23年改正前特許法30条1項の規定の適用を受けられるか否か

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『基礎出願Xにおいて、平成23年改正前特許法30条4項所定の手続が履践されているものの、これを基礎出願とする国内優先権主張出願である出願Aにおいて、同項所定の手続が履践されていないから、出願Aの分割出願である本願の原出願をさらに分割出願した本願は、刊行物Aについて同条1項の適用を受けることはできず、本願発明は、刊行物Aに記載された発明であるか、同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると判断する。・・・(略)・・・国内優先権主張出願について、平成23年改正前特許法30条4項の適用を除外するか、同項所定の手続的要件を履践することを免除する格別の規定がない限り、国内優先権主張出願に係る発明について同条1項の適用を受けるためには、同条4項所定の手続的要件として、所定期間内に4項書面及び4項証明書を提出することが必要である。・・・(略)・・・国内優先権主張出願について、平成23年改正前特許法30条4項の適用を除外するか、同項所定の手続的要件を履践することを免除する格別の規定があるかどうかについて検討すると、まず、分割出願については、平成18年改正前特許法44条4項が原出願について提出された4項書面及び4項証明書は分割出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなす旨を定めているが、国内優先権主張出願については、これに相当する規定はない。
また、平成16年改正前特許法41条2項は、国内優先権主張出願に係る発明のうち基礎出願の当初明細書等に記載された発明についての平成23年改正前特許法30条1項の適用については、国内優先権主張出願に係る出願は基礎出願の時にされたものとみなす旨を定めているが、これは、同項が適用される場合には、同項中の「その該当するに至った日から6月以内にその者がした特許出願」にいう「特許出願」については、国内優先権主張出願の出願日ではなく、基礎出願の出願日を基準とする旨を規定するに止まるものである。平成16年改正前特許法41条2項の文理に照らし、同項を根拠として、基礎出願において平成23年改正前特許法30条4項所定の手続を履践している場合には、国内優先権主張出願において同項所定の手続を履践したか否かにかかわらず、基礎出願の当初明細書等に記載された発明については同条1項が適用されると解釈することはできない。
・・・(略)・・・平成16年改正前特許法41条2項が平成23年改正前特許法30条1項の適用について規定していることは、その趣旨に照らしても、上記規定が適用された場合には、国内優先権主張出願の日ではなく基礎出願の日を基準とする旨を規定するに止まり、これをもって、同条1項の適用について、基礎出願の当初明細書等に記載された発明については、基礎出願において手続的要件を具備していれば、国内優先権主張出願において改めて手続的要件を具備しなくても、上記規定の適用が受けられるとすることはできない。
以上によると、国内優先権主張出願に係る発明(基礎出願の当初明細書等に記載された発明を含む。)について、平成23年改正前特許法30条1項の適用を受けるためには、同条4項所定の手続的要件として、所定期間内に4項書面及び4項証明書を提出することが必要であり、基礎出願において提出した4項書面及び4項証明書を提出したことをもって、これに代えることはできないというべきである。
本願は、出願Aの分割出願である本願の原出願をさらに分割出願したものであるところ、分割出願については、原出願について提出された4項書面及び4項証明書は分割出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなす旨の定めがあるが、原告は、出願Aにおいて、その出願と同時に、4項書面を特許庁長官に提出しなかったのであるから、本願は、平成23年改正前特許法30条1項の適用を受けることはできない。
・・・(略)・・・原告は、国内優先権制度における優先権の発生時期は、パリ条約4条Bに規定される優先権の発生時期から類推して、先の出願がされた時である、基礎出願において平成23年改正前特許法30条4項所定の手続をした場合の国内優先権主張出願については、国内優先権の本質からみて、基礎出願の当初明細書等に記載された発明について優先権が発生し、平成16年改正前特許法41条4項の手続をすることにより、上記発明に係る特許法29条、平成23年改正前特許法30条1項~3項等の適用については基礎出願の時にされたものとみなされる効果が発生するが、新規性・進歩性についての規定(特許法29条)の適用に係る前記効果については、基礎出願において平成23年改正前特許法30条4項所定の手続をしている場合には、新規性喪失の例外規定(同法30条1項~3項)に係る前記効果についても発生しているから、この効果をも含む上記発明の新規性についての優先権の主張の効果が発生するというべきであるなどと主張する。
しかし、平成16年改正前特許法41条1項の「優先権」(国内優先権)の主張の効果は、同条2項に規定されたものであり、パリ条約の規定を類推することによって定まると解することはできない。また、既に判示した平成16年改正前特許法41条2項の文言及び同項の趣旨に照らすと、同項は、国内優先権主張出願に係る発明のうち、基礎出願の当初明細書等に記載された発明について、特許法29条を適用する際には、同条中の「特許出願前に」にいう「特許出願」は基礎出願時にされたものとみなし、平成23年改正前特許法30条1項を適用する際には、同項中の「その該当するに至った日から6月以内にその者がした出願」にいう「特許出願」は基礎出願時にされたものとみなすことを規定するものであり、新規性喪失の例外規定(同法30条1項)と新規性・進歩性についての規定(同法29条)とを一体として取り扱うべきことは、平成16年改正前特許法41条2項の文理上はもとより、その趣旨からも導くことはできない。
・・・(略)・・・原告は、平成23年改正前特許法30条4項が、基礎出願の際に既に同項所定の手続を履践した国内優先権主張出願に際し、同主張出願における平成16年改正前特許法41条2項に規定の発明について同項で列挙された所定の条項の規定の適用につき、改めてその手続を履践させるための規定でもあるとすると、それは単なる重複手続のための規定であって、法がそのようなことを求めていると解することはできないなどと主張する。
しかし、平成23年改正前特許法30条4項がその対象となる「特許出願」から、基礎出願において同項所定の手続を履践している国内優先権主張出願において、基礎出願の当初明細書等に記載された発明について同条1項の適用を求める場合の当該国内優先権主張出願を除外していると解することができないことは、前記1~4のとおりであって、原告の主張は、法令上の根拠がなく、理由がない。
原告は、基礎出願において新規性喪失の例外規定が適用された発明に基づいて国内優先権を主張する場合、出願人が敢えて、国内優先権主張出願では上記発明について新規性喪失の例外規定の適用を受けないことは通常考えにくいから、国内優先権主張出願の際に改めて新規性喪失の例外適用申請の意思を確認する必要はないし、また、国内優先権主張出願の願書には必ず基礎出願の番号を記載していることなどの事情から、出願人にとっても第三者にとっても、国内優先権主張出願において新規性喪失の例外適用のための書面等を再度提出する必要性は何ら存在しないなどと主張する。
しかし、基礎出願において平成23年改正前特許法30条4項所定の手続を履践している国内優先権主張出願において、基礎出願の当初明細書等に記載された発明について同条1項又は3項の適用を求める場合の同条4項所定の手続の履践の必要性について、仮に原告主張のような見方が成り立つとしても、立法論としてはともかく、同項の解釈として、同項がその対象となる「特許出願」から、基礎出願において同項所定の手続を履践している国内優先権主張出願を除外していると解することは、法令上の根拠がなく、できないことは、前記1~4のとおりである。・・・(略)・・・』

[コメント]
国内優先権主張出願の願書の【特記事項】に新規性喪失の例外の適用を受ける旨を記載しなかったために出願が拒絶されてしまった事例であり、特許実務担当者として留意すべきであろう。また、新規性喪失の例外適用においては他にも留意すべき点がある。平成28年(ワ)第298号および第2610号事件では、新規性の喪失の例外証明書において販売店Aのみが記載されていたが、販売店Aと実質的に同一の販売行為とみることができるような密接に関連するものとは認められない販売店Bがその例外証明書に記載されていなかったことで公然実施により新規性を欠く無効理由があると判断されている。
以上
(担当弁理士:丹野 寿典)