審決取消請求事件 » 平成27年(行ケ)第10256号「逆流防止装置」事件

名称:「逆流防止装置」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成27年(行ケ)第10256号 判決日:平成29年4月12日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:動機付け
判決文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/704/086704_hanrei.pdf

[概要]
多くの文献に本件発明の記載に相当する位置に対応する要素が配置されていたとしても、各配置位置に関する技術的意義はそれぞれに異なるものであるというべきであるから、技術的意義を捨象して配置位置のみを技術上の共通点として抽出することは相当ではないとされた事例。

[事件の経緯]
被告は、特許第3845031号(以下、「本件特許」)の特許権者である。
原告が、本件特許を無効とする無効審判(無効2014-800182号)を請求し、被告が訂正を請求したところ、特許庁が訂正を認めた上で本件審判の請求は成り立たないとの審決をしたため、原告はその取り消しを求める訴訟(本件)を提起した。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本件訂正発明]
【請求項1】
給湯管から浴槽への配管の途中に設けられて前記浴槽から上水道への汚水の逆流を防止する逆流防止装置であって、
前記給湯管から前記浴槽へ向かう水の流れを開放または遮断する電磁弁と、
開弁方向に付勢するためのスプリングを有し、前記上水道の圧力低下に応動して前記電磁弁より前記浴槽の側の前記配管内の水を大気に放出するよう開閉動作する一方、前記上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つ大気開放弁と、
を備えた逆流防止装置において、
前記大気開放弁から前記浴槽へ向かう前記配管内に一つのみ配置されて前記浴槽から前記大気開放弁の方向への流れを阻止する第1の逆止弁と、
前記電磁弁と前記大気開放弁との間に一つのみ配置され、前記大気開放弁が前記上水道の圧力低下に応動して大気開放したときに、前記大気開放弁を介して大気に放出される水および吸い込まれた大気が前記上水道の圧力低下によって前記電磁弁の方向に流れてしまうのを阻止する第2の逆止弁と、
を備えていることを特徴とする逆流防止装置。

[審決の要旨]
本件訂正発明は、特開2000-304144号公報(甲1)に記載された発明(甲1発明)ではなく、また、甲1発明に基づき、又は、甲1発明及び実願昭59-197302号(実開昭61-112166号)のマイクロフィルム(甲2)に記載された発明(甲2発明)に基づいて、当業者が容易に発明することができたものということはできない。
本件訂正発明は、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基づき、又は、甲2発明及び甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものということはできない。

[審決で認定された相違点]
相違点1: 本件訂正発明では、大気開放弁から浴槽へ向かう配管内に一つのみ配置されて前記浴槽から前記大気開放弁の方向への流れを阻止する第1の逆止弁と、電磁弁と前記大気開放弁との間に一つのみ配置され、前記大気開放弁が上水道の圧力低下に応動して大気開放したときに、前記大気開放弁を介して大気に放出される水および吸い込まれた大気が前記上水道の圧力低下によって前記電磁弁の方向に流れてしまうのを阻止する第2の逆止弁とを備えているのに対し、
甲1発明では、給湯部21側からふろへのお湯はり経路において、電磁弁22後に縁切り装置23を取り付けその後に2個の逆止弁24が取り付けたものであるが、縁切り装置23は逆止弁の後でも良いとされている点。

相違点2: 本件訂正発明では、大気開放弁は、上水道の圧力低下に応動して電磁弁より浴槽の側の前記配管内の水を大気に放出するよう開閉動作する一方、前記上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保ち、前記大気開放弁が前記上水道の圧力低下に応動して大気開放したときに、前記大気開放弁を介して大気に放出される水および吸い込まれた大気が前記上水道の圧力低下によって前記電磁弁の方向に流れてしまうのを阻止するとされているのに対し、
甲2発明では、遮断装置(16)は、正常な運転状態では、湯の上流側圧力がパイロット室(26)に導かれ、ダイヤフラム(21)はばね(22)の力に抗して押込められ、これにより弁(23)が閉じられ、ドレン路(18)は水路(5)(下流側水路(5b))から遮断され、例えば運転時(水電磁弁(7)が開いている時)において給水源(4)としての上水道が断水する場合、給水源(4)の水圧が低下することにより、パイロット室(26)に導かれている圧力も低下し、これによりダイヤフラム(21)はばね(22)の力により押出され、弁(23)が開かれ、この結果ドレン路(18)は水路(5)(下流側水路(5b))に接続され、従って逆止弁(15)が故障した場合等において、該逆止弁(15)を通過してしまう逆流はドレン路(18)に排出されて上流側水路(5a)に到ることはないとされている点。

[取消事由]
取消事由1. 相違点1(本件訂正発明と甲1発明の相違点)に関する新規性判断の誤り
取消事由2. 相違点2(本件訂正発明と甲2発明の相違点)の認定の誤り
取消事由3. 相違点2に関する新規性判断の誤り
取消事由4. 相違点1に関する容易想到性判断の誤り
取消事由5. 相違点2に関する容易想到性判断の誤り

取消事由1、3~5を記載する。
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
1.取消事由1に対して
『甲1文献には、段落【0033】及び図14の他に「逆止弁24」に関する記載はなく、「逆止弁の後でも良い。」との示唆に従ったとしても、縁切り装置23の前後に逆止弁を1個ずつ配置する構成とはならない。・・・(略)・・・当業者が、甲1文献の上記記載から、縁切り装置23の前後に逆止弁を1個ずつ配置するとの構成を読み取ることはできないから、縁切り装置の前後に逆止弁を1個ずつ配置したものが甲1文献の記載から自明であって記載されているに等しいということはできない。』
『原告は、引用発明の認定の際には当業者の技術常識を参酌することができるところ、・・・(略)・・・甲1発明において縁切り装置23を2個の逆止弁24の間に配置したものは、「縁切り装置23は逆止弁の後でも良い。」との記載から本件特許の出願時における技術常識を参酌することにより当業者が導き出せる事項である旨主張する。
しかしながら、多くの公知文献に記載された逆流防止装置において、本件訂正発明の「第1の逆止弁」及び「第2の逆止弁」に相当する位置に逆止弁が配置されているとしても(2個の逆止弁の間に大気開放口を有する構成)、各配置位置に関する技術的意義はそれぞれに異なるものというべきであるから、これらを捨象して形式的に同配置位置のみを技術上の共通点として抽出することは相当ではない。また、仮に、このような形式的配置位置のみを抽出して甲1発明に適用したとしても、本件訂正発明のように、上水道の圧力低下に応動して大気開放弁を大気開放した場合に、放出される水の一部及び吸い込まれた大気が逆流する事態が生じるという課題があることが知られていない以上、直ちに、この課題が解決されることを認識することができるわけではなく、したがって、これらの水及び大気の逆流を阻止する(第2の)逆止弁の構成を具備しているものと認定することはできない。』

2.取消事由3に対して
『・・・(略)・・・甲2発明の「弁(23)」は、上水道の圧力低下がない状態においても、「水電磁弁(7)」を閉じるたびに開き、「水電磁弁(7)」を開くたびに閉じるものである・・・(略)・・・から 、本件訂正発明のように「前記上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つ大気開放弁」であるとはいえない。
したがって、本件訂正発明と甲2発明は、少なくとも、本件訂正発明の「大気開放弁」が「前記上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つ」ものであるのに対し、甲2発明の「弁(23)」は、上水道の圧力低下がない状態においても、「水電磁弁(7)」を閉じるたびに開き、「水電磁弁(7)」を開くたびに閉じるものである点で相違するから、本件訂正発明は、甲2発明であるということはできない。』

3.取消事由4に対して
『本件訂正発明は、電磁弁と大気開放弁との間に第2の逆止弁を設け、同逆止弁が、通常の逆止弁の機能に加え、水密不良の状態にあるときも、オリフィスとしての機能により、オーバーフロー口から吸い込まれる大気の流量を減少させることによって、上水道の圧力低下に応動して大気開放弁を大気開放した場合に、放出される水の一部及び吸い込まれた大気が逆流する事態が生じるという本件特許の出願前に当業者に知られていなかった・・・(略)・・・課題を解決するものであるところ、甲1文献において、第2の逆止弁の構成を想到する動機付けとなる記載や示唆があるとは認められない。』
『そして、甲1発明に係る逆流防止装置の「給水源の水圧と縁切りしたい水である逆流水の水圧との圧力バランスにより前記逆流水を排水し縁切りする縁切り装置」の前後に逆止弁を1個ずつ配置することが周知技術又は技術常識であると認めることはできないから、甲1発明において、相違点1に係る本件訂正発明の構成を備えるようにすることが、周知技術の単なる適用であるなどということはできない』

4.取消事由5に対して
『・・・(略)・・・甲2発明に係る逆流防止装置において、パイロット室(26)を上流側水路(5a)に連通させる代わりに給水源に接続することが周知技術であることを認めるに足りる証拠はない。』
『・・・(略)・・・甲2発明は、水電磁弁(7)を閉じているときに弁(23)を開いて縁切りし、さらに断水時において弁(23)を開き逆流をドレン路に排出することにより逆流防止を確実なものとすることを目的としたものであり、甲2発明の遮断装置(16)は、パイロット室への流路を含めて一体の装置として形成されているものであると認められるから、甲2発明を上水道の圧力が低下したときだけ弁(23)が開閉動作し縁切りが行われるものに変更することは、上水道の圧力低下の有無にかかわらず縁切りが行われるものであるという甲2発明の主要な部分に反するものといえる。甲2発明において、弁(23)が上水道の圧力低下がない状態においても水電磁弁(7)を閉じるたびに開き、水電磁弁(7)を開くたびに閉じるものであることについて、当業者において、何らかの不都合(解決すべき課題)があると認識されていたと認めるに足りる証拠もないから、当業者にとって、甲2発明の弁(23)を、上水道の圧力低下がない状態においては閉じた状態を保つものに変更する動機付けは認め難い。』

[コメント]
主引例発明に対する相違点に相当する要素が、他の文献(副引例)に開示されているとしても、当該副引例発明における該当要素の技術的意義と、本件特許発明における技術的意義が異なっており、且つ、本件特許発明の課題が新規である場合には、本件特許発明は、主引例発明と副引例発明との組み合わせによって当業者が容易に想到し得たものとはいえない。審決及び裁判所の判断は妥当である。
以上
(担当弁理士:佐伯 直人)