審決取消請求事件 » 平成28年(行ケ)第10212号「接触端子」事件

名称:「接触端子」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成28年(行ケ)第10212号 判決日:平成29年4月18日
判決:請求棄却
特許法44条1項、同条2項
キーワード:分割要件
判決文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/701/086701_hanrei.pdf

[概要]
本件発明1は、絶縁球を備えない接触端子という、本件原出願の明細書等に記載されていない発明を含むものであるから、本件特許出願は分割出願の要件を満たさない、と判断された事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第5449597号(以下、「本件特許」)の特許権者である。本件特許出願は、原告による特許出願(以下、「本件原出願」)の分割出願である。
被告が、本件特許の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無効2015-800030号)を請求し、原告が訂正(以下、「本件訂正」)を請求したところ、特許庁が、本件訂正を認めた上で本件特許を無効とする審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本件発明(本件訂正後)](下線は、訂正箇所)
【請求項1】(文中の「/」は原文の改行箇所を示す)
管状の本体ケース内に収容されたプランジャーピンの該本体ケースからの突出端部を対象部位に接触させて電気的接続を得るための接触端子であって、/前記プランジャーピンは前記突出端部を含む小径部及び前記本体ケースの管状内周面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部を有する段付き丸棒であり、前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体ケースから突出するように前記本体ケースの管状内部に収容した絶縁体被膜を有するコイルバネで付勢し、/前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に、球の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し、前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付けることを特徴とする接触端子。
【請求項2】
・・・(略)・・・を特徴とし、/前記押付部材は絶縁表面を有する絶縁球からなることを特徴とする接触端子。

[審決]
本件発明1の「球の球状面からなる球状部」は、絶縁球のみならず導電球を含むものであり、本件原出願の願書に添付した明細書(以下、「原出願明細書」)、特許請求の範囲及び図面の記載に新たな技術的事項を導入したものであるから、本件特許出願は、特許法44条1項の規定する要件を満たしていない。
本件発明は、本件原出願の公開特許公報に記載された発明であり、特許法29条1項3号の規定(新規性)により特許を受けることができない。

[取消事由]
本件特許出願の分割要件に係る判断の誤り

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
1 本願発明1について
『・・・(略)・・・「球の球状面からなる球状部」については、それが絶縁性のものか導電性のものかは特定されていない。・・・(略)・・・本件発明1においては、コイルバネが絶縁体被膜を有することから、コイルバネに電流を流さないようにするために、プランジャーピンの大径部とコイルバネとの間にある「球の球状面からなる球状部」が絶縁性を有することは、必須ではない。
したがって、本件発明1には、プランジャーピンの大径部とコイルバネとの間にあって、プランジャーピンの大径部の外側面を本体ケースの内周面に押し付ける「球の球状面からなる球状部」が導電性を有するものであり、絶縁球を備えない接触端子も含まれる。』

2 原出願明細書に記載された技術的事項について
『・・・(略)・・・原出願発明1に係る構成においては、絶縁球が、プランジャーピンの大径部とコイルバネとの間にあって、①プランジャーピンとコイルバネを絶縁してコイルバネに電流が流れないようにするとともに、②プランジャーピンの大径部の外側面を本体ケースの非貫通長穴の内周面に押し付けてプランジャーピンから本体ケースへ確実に電流を流すことにより、比較的大なる電流を流し得るものと解され、原出願明細書にはその旨が記載されている(【0010】)。
・・・(略)・・・
(イ) 他方、原出願明細書には、絶縁球を備えない接触端子は記載されていない。また、前記(2)オのとおり「絶縁球30には、圧縮バネから成るコイルバネ31がその一端部を当接させている。…なお、コイルバネ31には絶縁体被膜を与えられていてもよい。」(【0025】)、「コイルバネ31は、絶縁被膜を与えられてこれが剥がれ落ちたとしても、介在する絶縁球30に確実に阻まれてプランジャーピン20に接触し得ず、プランジャーピン20に対して確実に絶縁される。つまり、プランジャーピン20に比較的大なる電流を流しても、コイルバネ31の焼き切れを確実に防止できる。」(【0027】)との記載があり、これらは、コイルバネ自体に絶縁体被膜が与えられており、それによってコイルバネに電流が流れるのを防ぎ得る場合であっても、プランジャーピンとコイルバネとの間に絶縁球を介在させてプランジャーピンとコイルバネとの絶縁を確実なものとする趣旨である。前記のとおり絶縁球を備えない接触端子は記載されていないことをも併せ考えれば、原出願明細書においては、プランジャーピンとコイルバネとの間に必ず絶縁球を介在させてコイルバネに電流が流れないようにすることによりコイルバネの焼き切れ防止に確実を期しており、コイルバネに絶縁体被膜を与えるなどコイルバネに電流が流れるのを防ぐその他の手段と併用することはあっても、同手段をもって絶縁球に代えること、すなわち、接触端子を、絶縁球を含まないものとすることは想定されていないものと解するべきである。』

3 分割出願の要件について
『分割出願は、原出願の時にしたものとみなされるところ(特許法44条2項)、そのためには、分割出願に係る発明が、原出願の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面の範囲内のものであることを要する。
前記1のとおり、本件発明1には、プランジャーピンの大径部とコイルバネとの間にあって、プランジャーピンの大径部の外側面を本体ケースの内周面に押し付ける「球の球状面からなる球状部」が導電性を有し、絶縁球を備えない接触端子も含まれる。
他方、前記2(1)のとおり、本件原出願に係る特許請求の範囲請求項1から9に係る構成のいずれも、プランジャーピンの大径部とコイルバネとの間に介在する絶縁球を含むものである。また、前記2(3)イのとおり、原出願明細書においては、絶縁球を備えない接触端子は記載されておらず、プランジャーピンとコイルバネとの間に介在する絶縁球は必須の構成とされているものと解される。
よって、本件発明1は、絶縁球を含まない接触端子という、原出願明細書、特許請求の範囲及び図面に記載されていない発明を含むものであるから、本件特許出願は、分割出願の要件を満たすものということはできない。』
『原告は、原出願明細書の【0005】には、プランジャーピンを本体ケースに押し付ける押付部材としての導電球が明記されているなどとして、原出願明細書を全体として見れば、押付部材としての導電球も開示されており、よって、絶縁球に代えて、例えば絶縁被膜を与えない導電球を用いることも想定されている旨主張する。
確かに、原出願明細書の【0005】には、背景技術として記載された公知技術の1つとして、プランジャーピンとコイルバネとの間に絶縁球及び導電球が介在し、導電球がプランジャーピンを本体ケースに押し付ける接触端子が記載されている。
しかし、本件発明1は、絶縁球を備えない接触端子を含むものであるところ、前記2⑶イのとおり、原出願明細書においては、プランジャーピンとコイルバネとの間に必ず絶縁球を介在させてコイルバネに電流が流れないようにすることによりコイルバネの焼き切れ防止に確実を期しており、コイルバネに電流を流れるのを防ぐその他の手段と併用することはあっても、同手段をもって絶縁球に代えること、すなわち、接触端子を、絶縁球を含まないものとすることは、想定されていないものと解すべきである。原出願明細書には、「以上、本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見いだすことができるであろう。」という旨の記載(【0043】)があるものの、絶縁球を備えない接触端子とすることは、「本発明の主旨」を逸脱するものといえるから、「様々な代替実施例及び改変例」の範ちゅうに入らない。
したがって、本件発明1は、絶縁球を備えない接触端子を含むという点において、原出願明細書に記載されていない発明を含むものである。』

[コメント]
本判決では、本件発明1の「球の球状面からなる球状部」が、絶縁球のみならず導電球を含むのに対し、本件原出願の明細書等には、絶縁球のみが記載されており、導電球は記載されていないとして、本件特許出願は分割要件を満たさないものと判断された。
導電球を備えた接触端子が原出願明細書に記載されているか否かが争点となった。本事案では、絶縁球を備えない接触端子は原出願明細書に記載されておらず、プランジャーピンとコイルバネとの間に介在する絶縁球が必須の構成であると解された。また、原出願明細書では、導電球を備えた接触端子が背景技術として記載されていたものの、その課題解決の原理に基づき、絶縁球を含まない接触端子とすることは想定されていないと解された。
原告は、プランジャーピンを本体ケースに対してより確実に押し付けて電流を確実に流すという課題の存在を主張したが、原出願明細書からは、コイルバネに電流が流れると抵抗加熱によりコイルバネが焼き切れてしまうという問題に主眼を置いているように見受けられ、本判決で判断されたように、それらを別個独立のものと解することは難しい。そうである以上、プランジャーピンとコイルバネとの絶縁は必要であり、絶縁球を備えない接触端子が記載されていないこと、及び、コイルバネに絶縁皮膜を与えた場合に関する【0027】の記載を考慮し、上記の如き解釈になるのは止むを得ないであろう。

以上
(担当弁理士:椚田 泰司)