審決取消請求事件 » 平成28年(行ケ)第10023号「インテリジェント・パワー・マネジメントを提供するための方法および装置」事件

名称:「インテリジェント・パワー・マネジメントを提供するための方法および装置」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成28年(行ケ)第10023号 判決日:平成28年12月26日
判決:審決取消
特許法29条第2項
キーワード:引用発明の認定、一致点および相違点の認定

[概要]
「アプリケーション・プログラムのタイプ」の概念、「タイプに対応する動作モード」という考え方が引用例にはなく、審決は一致点を過大に認定し相違点を看過したと判断されて、審決が取り消された事例。

[事件の経緯]
1)平成11年11月4日にした国際出願の分割出願として平成25年1月31日に特許出願(特願2013-17748号)し、同時に特許請求の範囲を補正した。
2)拒絶理由通知に対し、平成26年1月22日に特許請求の範囲を補正した。
3)拒絶査定に対し、平成26年11月4日に拒絶査定不服審判請求(不服2014-22371号)をした。
4)平成27年9月7日に拒絶審決がなされた。
5)原告は、その取消しを求めたところ、知財高裁は原告の請求を認め、審決を取り消した。

[本件発明1]
プロセッサ・ベース・システムの回路用のパワー・マネジメント方法であって、
(a)回路を使用するアプリケーション・プログラムとは別に実行される命令シーケンスを当該回路が用い、当該回路の前記アプリケーション・プログラムのタイプに対応する動作モードを決定し、
(b)前記動作モードに応答して、第1の所定の速度で前記回路を動作させ、又は前記第1の所定の速度より速い第2の所定の速度で前記回路を動作させるパワー・マネジメント方法。

[取消事由]
(1)手続違背(裁判所の判断なし)
(2)引用発明の認定の誤り
(3)相違点の判断の誤り(裁判所の判断なし)

[原告の主張]
1.取消事由2(引用発明の認定の誤り)
原告は、「引用例には、アプリケーション・プログラムのタイプや動作モードについての開示はないから、審決の引用発明の認定は誤りであり、その結果、審決は、一致点を過大に認定し、相違点を看過したものである」旨を主張した。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
1.取消事由2について
裁判所は『引用発明は、電池電力で動作し可搬性の利便のために寸法及び重量が大幅に減少している可搬型パーソナルコンピュータにおいて、利用可能な電池電力の一層有効な管理への要求が最優先課題となっているという事情に基づいてなされたものであり、コンピュータの中央演算処理装置の演算のクロック周波数を変更することにより、可搬型コンピュータで利用可能な電池電力の消費を低減することができる方法及びそのシステムを提供することを目的とするものであると認められる(【0001】~【0004】)』、
『引用発明においては、①「モデムによる通信、新しい命令が入力されない待機状態、およびその他の日常的で単純な計算機能を実行する動作の間」(【0012】)には、低いクロック周波数が選択されるほか、「文書処理プログラム24での低電力消費」(【0017】)や、「タイムアウト周期について活動していないことを検出した場合」(【0022】)には、低いクロック周波数を選択することが考えられ、他方、②「たとえば回転する3次元オブジェクトの表示を形成する、大量のデータベースの検索を実行する、などの更に複雑な計算が要求される場合」(【0012】)には、高いクロック周波数が選択されるほか、「回転する3次元画像の総天然色表示34を形成するなど高度な計算要求」(【0017】)や、「キーボードから手動で起動する際または高度または高速の計算能力を必要とするアプリケーションプログラムを検出した場合」(【0022】)には、高いクロック周波数を選択することが考えられるものと認められる。』と認定した。
裁判所は『更に進んで、このような引用発明における低いクロック周波数と高いクロック周波数の選択が、「アプリケーションプログラムのタイプに対応する動作モード」に基づくものであるかを検討する。』とし、
『引用例の【0017】の実施例において、「文書処理プログラム24での低電力消費」と対比して、高いクロック周波数を選択することが考えられるものは「回転する3次元画像の総天然色表示34を形成するなど高度な計算要求」であって、「回転する3次元画像の総天然色表示34を形成するなど高度な計算要求を必要とするアプリケーションプログラム」などと記載されているものではなく、「回転する3次元画像の総天然色表示34を形成するなど高度な計算要求」が「文書処理プログラム24」とは異なるアプリケーションプログラムでの計算要求であることは記載されていない。そして、本願優先日当時、文書処理プログラムにはグラフィック機能が組み込まれているのが一般的であり、文書処理プログラムに組み込まれたグラフィック機能において回転する3次元画像の総天然色表示の形成が行えないものではないことからすると、高いクロック周波数を選択する「回転する3次元画像の総天然色表示34を形成するなど高度な計算要求」は、アプリケーションプログラムの実際の動作に応じた「計算条件」を示すものであるとみることもでき、引用例の【0017】の記載に接した本願優先日当時の当業者において、そこに記載された実施例が「アプリケーションプログラムのタイプに対応する動作モード」に基づいてクロック周波数を選択するものであると認識するものということはできない。』、
『引用例の【0022】の実施例において、「高度または高速の計算能力を必要とするアプリケーションプログラムを検出した場合」と対比して、低いクロック周波数を選択することが考えられるものは「タイムアウト周期について活動していないことを検出」した場合であり、例えば、「高度または高速の計算能力を必要としないアプリケーションプログラムを検出した場合」のような類型のアプリケーションプログラムを検出した場合と対比されているものではないし、「高度または高速の計算能力を必要とするアプリケーションプログラム」を起動中に、「タイムアウト周期について活動していないことを検出」した場合には、高いクロック周波数が選択されるべき「高度または高速の計算能力を必要とするアプリケーションプログラム」の起動中でありながら、低いクロック周波数を選択することになるから、引用例の【0022】の記載に接した本願優先日当時の当業者において、そこに記載された実施例が「アプリケーションプログラムのタイプに対応する動作モード」に基づいて「特定の高クロック周波数で前記中央演算処理装置12を動作させる」ものであると認識するものということはできない。』、
『引用例の【0012】をみても、低いクロック周波数が選択される「モデムによる通信、新しい命令が入力されない待機状態、およびその他の日常的で単純な計算機能を実行する動作の間」と、高いクロック周波数が選択される「回転する3次元オブジェクトの表示を形成する、大量のデータベースの検索を実行する、などのさらに複雑な計算が要求される場合」とが異なったアプリケーションプログラムに対応したものであることは記載されていないし、「回転する3次元オブジェクトの表示を形成する」ことができるアプリケーションプログラムにおいて「単純な計算機能を実行する動作」のみを行っている間を想定すれば明らかなように、両者が異なったアプリケーションプログラムでしか奏し得ないことが自明であるともいえないから、引用例の【0012】の記載に接した本願優先日当時の当業者において、引用発明が「アプリケーションプログラムのタイプに対応する動作モード」に基づいてクロック周波数を選択するものであると認識するものということはできない。』、
『そうすると、引用例の【0012】、【0017】、【0022】等の記載を総合しても、これらに接した本願優先日当時の当業者において、引用発明が「アプリケーションプログラムのタイプに対応する動作モードを決定し、前記動作モードに応答して、・・・中央演算処理装置12を動作させる」ものであると認識することはできないと認められ、このことは、引用発明が、利用可能な電池電力が限られており、その有効な管理への要求が最優先課題となっている可搬型コンピュータにおいて当該課題を解決することを目的とするものであることをも考慮すれば、一層明らかというべきである。よって、引用発明が「アプリケーションプログラムのタイプに対応する動作モードを決定し、前記動作モードに応答して、・・・中央演算処理装置12を動作させる」構成を有するとした審決の認定には誤りがあり、これに起因して、審決は、「アプリケーション・プログラムのタイプに対応する動作モードを決定し、前記動作モードに応答して、・・・回路を動作させる」点を一致点として過大に認定し、相違点として看過した結果、この点に対する判断をしておらず、結論に影響を及ぼす違法があるものと認められる。』と判断した。

[コメント]
「アプリケーション・プログラムのタイプ」の概念、「タイプに対応する動作モード」という考え方が引用例にはなく、審決は一致点を過大に認定し相違点を看過した、と裁判所は判断した。
一致点の認定において、引用例の構成を上位概念化することはしばしば行われる。本判決では「過大」と「上位概念化」とは異なる意味合いのものとして使用されていると思われるが(仮に同じ意味合いで使用されていたとしても)、いずれの場合でも的確に相違点を認定すれば、進歩性の判断として問題となることはない。
本判決は、引用例の認定や本件発明との対比における一致点および相違点の認定において、一致点および相違点を的確に認定する必要がある点で参考になるところがあり、実務上留意すべきと考える。
以上
(担当弁理士:丹野 寿典)