審決取消請求事件 » 平成28年(行ケ)10025号「ロール苗搭載樋付田植機と内部導光ロール苗」事件

名称:「ロール苗搭載樋付田植機と内部導光ロール苗」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成28年(行ケ)10025号 判決日:平成28年11月8日
判決:請求棄却
特許法36条6項2号
キーワード:明確性要件、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム

[概要]
特許請求の範囲に物の製造方法が記載されている場合であっても、当該製造方法が当該物の構造又は特性を表しているのかが明確であれば、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに当たるとみる必要はないと判断した上で、補正発明1等は明確性要件を満足すると判断されたが、補正発明3等が他の理由で明確性要件を満たさないと判断されて拒絶審決が維持された事例。

[事件の経緯]
原告が、特許出願(特願2011-87735号)に係る拒絶査定不服審判(不服2014-26857号)を請求し、当該審判請求時及び当該審判における拒絶理由通知の応答期間内に補正したところ、特許庁(被告)が請求不成立の拒絶審決をしたため、原告は、その取消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本願補正発明1]
透光性あるシート・フィルムを、80~100cm長さの稲育描箱の巻取り開始縁以外の3方の縁からはみ出させて、稲育描箱底面に根切りシートとして敷き、その上に籾殻マット等の軽い稲育描培土代替資材をはめ込み、この表面に綿不織布等を敷いて種籾の芒、棘毛を絡ませて固定し。根上がりを防止して、覆土も極少なくして育苗した、軽量稲苗マットを、根切りシートと一緒に巻いて、細い円筒とした、内部導光ロール苗
[本願補正発明2]
80~100cm長さの稲育描箱にはめ込んだ、成型した籾殻マット等の軽い稲育描培土代替資材の表面に、綿不織布等を敷いて種籾の芒、棘毛を絡ませて固定し、根上がりを防止し、覆土も極少なくして育苗した、軽量稲苗マットに、透光性あるシート・フィルムを、稲育描箱の巻取り開始縁以外の3方の縁からはみ出させて被せ一緒に巻いて、細い円筒とした、内部導光ロール苗

[審決の内容]
請求項1及び2には、その物の製造方法が記載されているものと認められる。
ここで、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると解するのが相当である。
しかしながら、不可能・非実際的事情が存在することについて、明細書等に記載がなく、また、出願人から主張・立証がされていないため、その存在を認める理由は見いだせない。
したがって、本願補正発明1及び2は明確でない。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
1 取消事由1(本願補正発明1及び2に関する明確性要件違反の判断の誤り)について
『(2) そこで検討するに、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合)において、当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当であるところ(最高裁判所第二小法廷平成27年6月5日判決・民集69巻4号700頁参照)、本願補正発明1及び2に係る前記の各記載は、いずれも、形式的にみれば、経時的な要素を記載するものといえ、「物の製造方法の記載」がある、すなわち、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当するということができそうである。
しかしながら、前記最高裁判決が、前記事情がない限り明確性要件違反になるとした趣旨は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲は、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として確定されるが、そのような特許請求の範囲の記載は、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であり、権利範囲についての予測可能性を奪う結果となることから、これを無制約に許すのではなく、前記事情が存するときに限って認めるとした点にある。
そうすると、特許請求の範囲に物の製造方法が記載されている場合であっても、前記の一般的な場合と異なり、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から明確であれば、あえて特許法36条6項2号との関係で問題とすべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームに当たるとみる必要はない。
この点、本願補正発明1に係る特許請求の範囲(請求項1)は、①透光性あるシート・フィルムを、80~100cm長さの稲育苗箱の巻取り開始縁以外の3方の縁からはみ出させる、②これを稲育苗箱底面に根切りシートとして敷く、③その上に籾殻マット等の軽い稲育苗培土代替資材をはめ込む、④この表面に綿不織布等を敷いて種籾の芒、棘毛を絡ませて固定し、根上がりを防止して、覆土も極少なくする、⑤①ないし④のとおり育苗した軽量稲苗マットを、根切りシートと一緒に巻いて、細い円筒とする、という手順を示すことにより、「内部導光ロール苗」の構造、特性を明らかにしたものと理解することが十分に可能である。
また、本願補正発明2に係る特許請求の範囲(請求項2)も、①80~100cm長さの稲育苗箱にはめ込んだ、成型した籾殻マット等の軽い稲育苗培土代替資材の表面に、②綿不織布等を敷いて種籾の芒、棘毛を絡ませて固定し、根上がりを防止し、覆土も極少なくして育苗した、軽量稲苗マットに、③透光性あるシート・フィルムを、稲育苗箱の巻取り開始縁以外の3方の縁からはみ出させて被せ一緒に巻いて、細い円筒とする、というように、やはり手順を示すことより、「内部導光ロール苗」の構造、特性を明らかにしたものということができる。
そうすると、本願補正発明1及び2に係る前記特定事項は、いずれも、物の構造、特性を明確に表しており、発明の内容を明確に理解することができるものである。
したがって、本願補正発明1及び2は、いずれも、特許法36条6項2号との関係で問題とされるべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームとみる必要はなく、この点を理由に請求項の記載が明確でない(不可能・非実際的事情がなく、同号の要件を満たさない)とした本件審決の判断は誤りである。』

[コメント]
上記判決のプロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する内容は特許・実用新案審査ハンドブックにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの考え方(下記参照)や、「二重瞼形成用テープ」事件(知財高裁:平成27年(行ケ)第10242号)の判示内容に近い。
ただし、「二重瞼形成用テープ」事件では問題となっている箇所が(そもそも)物の製造方法の記載には当たらないと判断されたのに対し(下記参照)、本裁判例では問題となっている箇所が手順(経時的変化)を表すことによって構造等を明らかにしていることから「特許法36条6項2号との関係で問題とされるべきプロダクト・バイ・プロセス・クレーム」に該当しないと判断された。すなわち、本裁判例は、問題となっている箇所を製造方法として認定した上で明確性要件を満たすと判断された事例と言える。
製造方法による物の特定は、出願時において物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在する場合かどうかに加え、製造方法が物のどのような構造又は特性を表しているのかが特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から明確であるかどうかも考慮にいれて検討すべきである。
なお、本裁判では、補正発明1、2についてはプロダクト・バイ・プロセス・クレームとの関連での明確性要件違反はないと判断されて、原告が主張する取消理由1には理由があるとされたが、補正発明3、4については他の理由から明確性要件違反の拒絶理由を解消していないとされた。その結果、取消理由1に関する審決の判断には誤りがあるももの、審決の結論に影響を及ぼさないとされた。また、本裁判では製造方法による特定部分の明確性要件について判断されたが、この製造方法による特定部分が新規性及び進歩性、並びに権利範囲の解釈においてどのように扱われるのかについては疑問が残る。

[参考]
・特許・実用新案審査ハンドブック第II部第2章特許請求の範囲の記載要件2204「物の発明についての請求項にその物の製造方法が 記載されている場合」に該当するか否かについての判断
1.基本的な考え方(筆者にて適宜抜粋)
『 審査官は、物の発明についての請求項の少なくとも一部に「その物の製造方法が記載されている場合」に該当するか否かを、明細書、特許請求の範囲、図面の記載に加え、その発明の属する技術分野における出願時の技術常識も考慮して判断する(以下の類型、具体例に形式的に該当しても、当該技術分野における技術常識に基づいて異なる判断がされる場合があることに留意が必要である)。
特に、「その物の製造方法が記載されている場合」の類型、具体例に形式的に該当したとしても、明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載並びに当該技術分野における出願時の技術常識を考慮し、「当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか」(注)が明らかであるときには、審査官は、「その物の製造方法が記載されている場合」に該当するとの理由で明確性要件違反とはしない。
(注)最二小判平成27年6月5日(平成24年(受)1204号、同2658号)「プラバスタチンナトリウム事件」判決』

・「二重瞼形成用テープ」事件(知財高裁:平成27年(行ケ)第10242号)(筆者にて適宜抜粋)
『そうすると、本件発明1の「・・・細いテープ状部材に、粘着剤を塗着する」との記載は、細いテープ状部材に形成した後に粘着剤を塗着するという経時的要素を表現したものではなく、単にテープ状部材に粘着剤が塗着された状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎないものと理解するのが相当であり、物の製造方法の記載には当たらないというべきである。』
以上
(担当弁理士:赤間 賢一郎)