審決取消請求事件 » 平成28年(行ケ)第10060号「ソーラー農業システム」事件

名称:「ソーラー農業システム」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成28年(行ケ)第10060号 判決日:平成28年9月21日
判決:請求棄却
特許法36条6項2号
キーワード:明確性

[概要]
特許請求の範囲に記載された「その」が、直前にある文言を指示するものと解釈された結果、特許請求の範囲の記載が不明確であると判断された事例。

[事件の経緯]
原告が、特許出願(特願2012-156313号)に係る拒絶査定不服審判(不服2015‐271号)を請求して補正したところ、特許庁(被告)が、請求不成立の拒絶審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本願発明]
【請求項1】
ソーラーパネルをあぜ道を挟んで配置し、複数のソーラーパネルで日光を反射させて他のソーラーパネル内の裏側に入射させ、且つ該ソーラーパネルで雨と風を防いで農作物を栽培できるように該ソーラーパネルを地面に対して斜めに傾斜させて取り付け、前記あぜ道からソーラーパネルと農作物を保守点検できるようにしたことを特徴とするソーラー農業システムにおいて、日光を前記あぜ道に侵入させ、その上にソーラーパネルを設け、更にあぜ道を飛び飛びに設けたことを特徴とするソーラー農業システム。

[審決]
『平成27年9月14日付け拒絶理由は妥当なものと認められるので、本願は、この拒絶理由によって拒絶すべきものである。・・・(略)・・・平成27年9月14日付け拒絶理由通知書の記載は、次のとおりである。
① 明確性要件の非充足
「・・・(略)・・・
エ 請求項1に『日光を前記あぜ道に侵入させ、その上にソーラーパネルを設け、更にあぜ道を飛び飛びに設けたこと』と記載されているが、『その上』の『その』が何を指すのか明らかでなく、また、『あぜ道を飛び飛びに設けたこと』との記載が明確でないから(例えば、あぜ道を挟んで設けることや、あぜ道の上を間を挟んで設けること等が想定できるが、明らかではない。)、『ソーラーパネル』がどのように配置され、取り付けられているのか明確でない。」』

[取消事由]
取消事由1.明確性要件に関する判断の誤り
取消事由2.省略
取消事由3.省略

[原告の主張]
『「その上に」の「その」は、本件明細書の【図6】のとおり、あぜ道とあぜ道との間に配置された農作地のことである。「農作地」の意味は技術常識であり、農作地の上にソーラーパネルを設けると解釈しても、何ら無理はない。また、「あぜ道を飛び飛びに設けたこと」とは、上記図面のとおり、あぜ道を、農作地を挟んで交互に設けることである。ソーラーパネルの配置は、本件明細書の【図6】【図10】~【図12】に示されるように、あぜ道を挟んで農作地上に一定の位置決めにより配置されている。
したがって、「日光を前記あぜ道に侵入させ、その上にソーラーパネルを設け、更にあぜ道を飛び飛びに設けたこと」は、明確である。』

[被告の反論]
『原告は、「日光を前記あぜ道に侵入させ、その上にソーラーパネルを設け、更にあぜ道を飛び飛びに設けたこと」との特定は、明確であると主張する。
しかしながら、「その上に」の「その」が指し示すのは、「あぜ道」とも、「日光」とも、あるいは「農作物」とも解され得るから、その指示する内容は明確ではない。なお、請求項1には、「農作地」との文言は存在しないのであるから、「その」が農作地であると解することはできないし、あぜ道と農作地とを交互に設けたことを「あぜ道を飛び飛びに設けたこと」と記載するのも、日本語として不明瞭である。』

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『本件特徴部分の「その上」の「その」が指示するものは、文脈からいって、直前にある「前記あぜ道」というほかなく、そうすると、本件特徴部分は、ソーラーパネルをあぜ道の上に設置することを規定していることになる。一方で、本件おいて書き部分は、「ソーラーパネルをあぜ道を挟んで配置し、」「該ソーラーパネルで雨と風を防いで農作物を栽培できるように」「あぜ道からソーラーパネルと農作物を保守点検できるように」と規定しているから、ソーラーパネルが設置されるのは、明らかに、あぜ道以外の場所であると規定している。したがって、本願発明の特許請求の範囲の記載は、ソーラーパネルの設置場所に関して規定するところが不整合であって、不明確である。
なお、本件特徴部分の「ソーラーパネル」と本件おいて書き部分の「ソーラーパネル」とが異なると解すれば、上記の不整合は生じないが、本願明細書をみても、本件おいて書き部分の「ソーラーパネル」と本件特徴部分の「ソーラーパネル」とが異なるソーラーパネルを指し示すものと解することは困難であり、原告もこの点を主張するものではない。
以上から、本願発明の内容は、不明確であるというべきである。』

[コメント]
「その上」の「その」が「前記あぜ道」を指すものと解された結果、本願発明の特許請求の範囲の記載が不明確であると判断された。原告は「農作地」を指すものと主張したが、特許請求の範囲には「農作地」やそれに代わる文言が無く、原告の主張には無理があったと言わざるを得ない。裁判所の判断は妥当であろう。
本願明細書には、あぜ道の上にソーラーパネルの一部を侵入させた実施例(第6の実施例、図12)も開示されているが、これを意図していた場合であっても、本願の特許請求の範囲の記載には是正の余地があると考えられる。
一般に、指示代名詞は、文章を簡潔に記載するうえで便利ではあるが、何を指すのか曖昧になる場合があるため、特許請求の範囲で使用する際には注意を払う必要がある。文章が多少冗長になる程度で特段の問題が生じないのであれば、特許請求の範囲で指示代名詞を使用することは避けた方が無難であると言える。

以上
(担当弁理士:椚田 泰司)