審決取消請求事件 » 平成27年(行ケ)第10242号「二重瞼形成用テープ」事件

名称:「二重瞼形成用テープ」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成27年(行ケ)第10242号 判決日:平成28年9月20日
判決:請求棄却
特許法29条2項、36条6項1号、36条6項2号
キーワード:発明の要旨認定、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム、経時的要素

[概要]
「二重瞼形成用テープ」の用途の記載から、「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」の技術的意義まで判断して、発明の要旨を認定した事例。
「…細いテープ状部材に、粘着剤を塗着する」との記載は、経時的要素を表現したものではなく、単にテープ状部材に粘着剤が塗着された状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎないものであり、物の製造方法の記載には当たらないとされた事例。

[事件の経緯]
被告は、特許第3277180号の特許権者である。
原告が、当該特許の請求項1に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無効2015-800103号)を請求したところ、特許庁が、請求不成立(特許権維持)の審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本件発明]
【請求項1】
延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材に、粘着剤を塗着することにより構成した、ことを特徴とする二重瞼形成用テープ。

[審決]
審決は、下記のように、本件発明1には、進歩性があり、サポート要件及び明確性を充足していると判断し、請求不成立(特許権維持)の審決をした。
(1)無効理由1(特許法29条2項)について
本件発明1と甲2発明(米国特許第4653483号公報)とを対比すると、合成樹脂について、本件発明1では「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」が、甲2発明では「3M社の仕様書番号1512-3(1981年8月)のポリエチレンフィルム」である点で相違する。
本件発明1の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂とは、「二重瞼形成」に寄与するものであり、「テープ状部材の延伸後の弾性的な伸縮性を利用して瞼に二重瞼のひだが形成される」合成樹脂と解すべきである。
(2)無効理由2(法36条6項1号)について
・・・(略)・・・
(3)無効理由3(法36条6項2号)について
本件発明1には、「塗着する」なる特定事項が存在するが、本件発明1は「テープ状部材」に「粘着剤」が「塗着」された状態のものであれば二重瞼を形成し得、「塗着する」という「動作」が二重瞼の形成に技術的意義を有するものではない。そうすると、本件発明1は「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」に当たらない。

[取消事由]
(1) 取消事由1(無効理由1についての認定及び判断の誤り)
(2) 取消事由2(無効理由2についての判断の誤り)
(3) 取消事由3(無効理由3についての判断の誤り)
※以下、取消事由1及び取消事由3のPBPクレーム関する部分についてのみ記載する。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
1 取消事由1(無効理由1についての認定及び判断の誤り)について
(1) 取消事由1-1(本件発明1の要旨認定の誤り)について
『ア(ア) ・・・(略)・・・特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては、・・・(略)・・・特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ、この要旨認定は、特段の事情のない限り、特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであり、特許請求の範囲の記載の技術的意義を一義的に明確に理解することができないとか、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない(リパーゼ事件判決)。
本件において、本件発明1の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂(以下「本件構成」という。)が「延伸が可能で延伸をした後においても弾性的な伸縮性(との性質)を有する」ものであることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。もっとも、同記載によれば、「二重瞼形成用テープ」である本件発明1において、本件構成に係る合成樹脂が「延伸可能」との性質を有することがいかなる技術的意義を有するのかについては、必ずしも特定することはできない。すなわち、本件構成に係る合成樹脂が「延伸」することが「二重瞼形成」に関係するのかしないのか、いかなる形で関係するのかといった点は、本件発明1の特許請求の範囲の記載から一義的に明確に理解することはできない。そうである以上、本件構成の技術的意義の理解に当たり本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することは許されるというべきである。
・・・(略)・・・
(イ) 本件発明1の特許請求の範囲には「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」という本件構成に係る記載のほか、「二重瞼形成用テープ」という記載も存在するところ、本件発明1の要旨の認定に当たっては、前者の記載のみでなく後者の記載をも考慮に入れることが必要である。そうすると、上記(ア)のとおり、本件構成に係る合成樹脂に関する技術的意義につき本件発明1の特許請求の範囲の記載から一義的に明確に理解することはできないというべきことになる。
・・・(略)・・・
このような本件発明1の課題、解決手段及び作用効果によれば、本件発明1は、延伸させたテープ状部材の収縮力によりテープ状部材を瞼に食い込ませて二重瞼を形成する発明であり、本件構成はそのための「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」と解するのが相当である。そうすると、本件審決における本件発明1の要旨認定は必ずしも適切ではないが、後記のとおり、この点は本件審決の結論の誤りをもたらすものではない。・・・(略)・・・』
(2) 取消事由1-2(相違点の認定及び判断の誤り)について
『エ・・・(略)・・・そうすると、本件発明1と甲2発明とは、二重瞼の形成原理を全く異にする発明というべきである。このため、甲2発明の「テープ細帯32」の素材として用いられる「3M社製の仕様書番号1512-3(1981年8月)のポリエチレンフィルム」が、仮に延伸後に収縮性を有するものであり延伸させれば収縮力を生じるものであるとしても、相違点に係る本件発明1の構成が甲2発明から動機付けられることはない。
したがって、相違点に係る本件発明1の構成は、当業者が甲2発明から容易に想到することができるものではない。』
3 取消事由3(無効理由3についての判断の誤り)について
『(イ) 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合)において、当該特許請求の範囲の記載が法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解される(最高裁判所第二小法廷平成27年6月5日判決・民集69巻4号700頁)ところ、本件発明1に係る上記記載は、これを形式的に見ると、確かに経時的な要素を記載するものということもでき、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当すると見る余地もないではない。
しかし、プロダクト・バイ・プロセス・クレームが発明の明確性との関係で問題とされるのは、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に、その特許権の効力が当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物に及ぶものとして特許発明の技術的範囲を確定するとするならば、その製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であることなどから、第三者の利益が不当に害されることが生じかねないことによるところ、特許請求の範囲の記載を形式的に見ると経時的であることから物の製造方法の記載があるといい得るとしても、当該製造方法による物の構造又は特性等が明細書の記載及び技術常識を加えて判断すれば一義的に明らかである場合には、上記問題は生じないといってよい。そうすると、このような場合は、法36条6項2号との関係で問題とすべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームと見る必要はないと思われる。
(ウ) ここで、本件明細書の記載を参酌すると、本件明細書には「二重瞼形成用テープは、図2に示すように、弾性的に伸縮するX方向に任意長のシート状部材11の表裏前面に粘着剤12を塗着…し、・・・(略)・・・という態様、すなわち、粘着剤を塗着した後、細いテープ状部材を形成する態様を含めて「図1及び図2に示す実施例では、弾性的に伸縮する細いテープ状部材の表裏両面に粘着剤2を塗着している」(同段落【0014】)と記載されている。また、本件発明1は、「テープ状部材の形成」と「粘着剤の塗着」の先後関係に関わらず、テープ状部材に粘着剤が塗着された状態のものであれば二重瞼を形成し得ること、すなわちその作用効果を奏し得ることは明らかである。
そうすると、本件発明1の「…細いテープ状部材に、粘着剤を塗着する」との記載は、細いテープ状部材に形成した後に粘着剤を塗着するという経時的要素を表現したものではなく、単にテープ状部材に粘着剤が塗着された状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎないものと理解するのが相当であり、物の製造方法の記載には当たらないというべきである。』
以上のように、原告ら主張の取消事由1~3は理由がないとして、原告らの請求が棄却された。

[コメント]
本件発明1の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂の認定において、審決では、「二重瞼形成用テープ」における「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」に係る技術内容を明らかにするために、明細書を参酌することは許されると判断した。一方、本判決では、「延伸が可能で延伸をした後においても弾性的な伸縮性(との性質)を有する」ものであることは、特許請求の範囲の記載から明らかであるとした上で、「二重瞼形成用テープ」において、合成樹脂が「延伸可能」との性質を有することがいかなる技術的意義を有するのかについては、必ずしも明確ではないと判断しており、この点で審決と相違している。発明の要旨認定においてこのように技術的意義まで深く読み込むことは、従来の判断手法からすると例外的であるといえ、現時点では日々の実務に直接参考とすることは難しい。今後も同様の判断がなされるのか注意する必要がある。
また、本件発明1の「…細いテープ状部材に、粘着剤を塗着する」との記載については、形式面ではPBPクレームのようにも見えうるが、明細書や技術常識も参酌すればPBPクレームではないと判断している。上記認定は改訂特許・実用新案審査ハンドブック(平成28年3月30日)にも即しており、実務において参考になる。
以上
(担当弁理士:堺 恭子)