審決取消請求事件 » 平成27年(行ケ)第10149号「平底幅広浚渫用グラブバケット」事件②

名称:「平底幅広浚渫用グラブバケット」事件②
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成27年(行ケ)第10149号 判決日:平成28年8月10日
判決:審決取消
行訴法33条1項、民訴法2条
キーワード:判決の拘束力、訴訟上の信義則

[概要]
前訴判決確定後、本件訂正により発明の要旨が変更されたことから、本件訂正後の本件発明を審理対象とする本件審決において確定した前訴判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)が及ぶとは言い難いものの、本件訂正の前後で実質的に変更のない相違点について確定した前訴判決の判断は尊重されるべきであり、本件において、同じ相違点の容易想到性を争うこと自体、訴訟上の信義則に反するとされた事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第3884028号の特許権者である。
被告は、当該特許の請求項1に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無効2010-800231号)を請求した。
原告は同手続きにおいて訂正請求をした。特許庁は、訂正を認め、審判請求は成り立たないとの審決(第1次審決)をした。
被告はこれを不服とし、当該第1次審決の取り消しを求める訴訟を提起した(平成23年(行ケ)第10414号)。知財高裁は、第1次審決を取り消す旨の判決をし(前訴判決)、同判決は、上告不受理の決定により確定した。
その後、原告は訂正請求をした。特許庁は、訂正を認め、特許無効の審決(第2次審決)をした。
原告は、第2次審決の取り消しを求める訴訟を提起し(平成26年(行ケ)10136号)、その後、訂正審判を請求した。知財高裁は、第2次審決を取り消す旨の決定をした。
特許庁は、「訂正を認める。特許第3884028号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決(本件審決)をしたため、原告は、本件審決の取り消しを求めた(本件訴訟)。
知財高裁は、原告の請求を認容し、審決を取り消した。

[前訴判決における本件発明](文中の下線は、判決における相違点3’および相違点4’を示す)(下線部は下記PDFをご参照)
【請求項1】
吊支ロープを連結する上部フレームに上シーブを軸支し、左右一対のシェルを回動自在に軸支する下部フレームに下シーブを軸支するとともに、左右2本のタイロッドの下端部をそれぞれシェルに、上端部をそれぞれ上部フレームに回動自在に軸支し、上シーブと下シーブとの間に開閉ロープを掛け回してシェルを開閉可能にしたグラブバケットにおいて、
シェルを爪無しの平底幅広構成とし、シェルの上部にシェルカバーを密接配置するとともに、シェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離を100とした場合、シェルの幅内寸の距離を60以上とし(相違点3’)、かつ、側面視においてシェルの両端部がタイロッド及び下部フレーム並びに下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出している(相違点4’)ことを特徴とする平底幅広浚渫用グラブバケット

[本件訴訟における本件発明](文中の下線は、判決における相違点3および相違点4を示す)(下線部は下記PDFをご参照)
【請求項1(訂正後)】
吊支ロープを連結する上部フレームに上シーブを軸支し、側面視において両側2ケ所で左右一対のシェルを回動自在に軸支する下部フレームに下シーブを軸支するとともに、左右2本のタイロッドの下端部をそれぞれシェルに、上端部をそれぞれ上部フレームに回動自在に軸支し、上シーブと下シーブとの間に開閉ロープを掛け回してシェルを開閉可能にしたグラブバケットにおいて、
シェルを爪無しの平底幅広構成とし、シェルの上部にシェルカバーを密接配置するとともに、前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成し、該空気抜き孔に、シェルを左右に広げたまま水中を降下する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに、シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き、グラブバケットの水中での移動時には、外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を取り付け、正面視におけるシェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離を100とした場合、側面視におけるシェルの幅内寸の距離を60以上とし(相違点3)、かつ、側面視においてシェルの両端部がタイロッドの外方に張り出すとともに、側面視においてシェルの両端部が下部フレームの外方に張り出し、更に、側面視においてシェルの両端部が下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出してなり(相違点4)、薄層ヘドロ浚渫工事に使用することを特徴とする平底幅広浚渫用グラブバケット(なお、前記正面視はシェルと下部フレームを軸支する軸の軸心方向から視たものであり、前記側面視はシェルと下部フレームを軸支する軸を軸心方向の側方から視たものとする)。

[取消事由]
1.引用発明1を主引用例とする容易想到性の判断の誤り
キ 相違点3の容易想到性の判断の誤り
ク 相違点4の容易想到性の判断の誤り

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
取消事由1(引用発明1を主引用例とする容易想到性の判断の誤り)について
『(6)相違点3の容易想到性の判断の誤りについて
・・・(略)・・・
オ 前訴判決について
(ア) 前記第2の4(2)ア(イ)aのとおり、確定した前訴判決において、第1次訂正後の発明と引用発明1’との間には、第1次訂正後の発明においては、「シェル65を軸支するタイロッドの軸心間の距離を100とした場合、シェルの幅内寸の距離を60以上とし」ているのに対して、引用発明1’においては、そのように構成されているか否か不明であるという相違点3’が存在するが、相違点3’に係る構成は、引用発明1’に引用例2に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に想到し得たものであると判断された。
(イ) 前記第2の1及び2のとおり、前訴判決後、本件訂正により発明の要旨が変更されたことから、本件訂正後の本件発明を審理対象とする本件審決において、確定した前訴判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)が及ぶものとはいい難い。しかし、引用発明1’は、引用発明1と実質的に同一のものであり(前記(1))、相違点3’も、相違点3と実質的に同一のものである。したがって、相違点3については、本件訂正の前後で実質的に変更はないのであるから、相違点3’についての確定した前訴判決の判断は尊重されるべきであり、本件において原告が相違点3の容易想到性を争うこと自体、訴訟上の信義則に反するものというべきである。
カ 小括
以上によれば、相違点3が容易に想到できるとした本件審決の判断に誤りはない。
・・・(略)・・・
(8)相違点4の容易想到性の判断の誤りについて
・・・(略)・・・
オ 前訴判決について
(ア) 前記第2の4(2)ア(イ)bのとおり、確定した前訴判決において、第1次訂正後の発明と引用発明1’との間には、第1次訂正後の発明においては、「側面視においてシェルの両端部がタイロッド及び下部フレーム並びに下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出している」のに対して、引用発明1’においては、側面視においてシェル部A、Bの両端部が下部フレームの外方に張り出しているものの、「側面視においてシェル部A、Bの両端部が連結杆A、B(第1次訂正後の発明における「タイロッド」に相当する。)並びに下部フレームとシェル部A、Bを軸支する軸の外方に張り出している」か否か不明であるという相違点4’が存在するが、相違点4’に係る構成は、引用発明1’に引用例2に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に想到し得たものであると判断された。
(イ) 前記(6)オのとおり、本件審決において、確定した前訴判決の拘束力が及ぶものとはいい難い。しかし、引用発明1’は、引用発明1と実質的に同一のものであり(前記⑴)、相違点4’も、相違点4と実質的に同一のものである。したがって、相違点4については、本件訂正の前後で実質的に変更はないのであるから、相違点4’について70の確定した前訴判決の判断は尊重されるべきであり、本件において原告が相違点4の容易想到性を争うこと自体、訴訟上の信義則に反するものというべきである。
カ 小括
以上によれば、相違点4が容易に想到できるとした本件審決の判断に誤りはない。』

[コメント]
行政事件訴訟法33条で規定する「拘束力」の意義は、行政庁に判決の趣旨に従って積極的に行動することを義務づける積極的行為の義務付けと、同一事情の下、同一理由により同一処分を行うことを禁止する反復禁止効とにあるとされている。本件の審理においては、前訴判決時の請求項の内容から訂正がされており、相違点3および4にかかる部分に文言上の軽微な相違があり、厳密には、前訴判決の拘束力は及ばないとされた。しかし、実質的には、同一の引例を用いた同様の主張で争っている上記相違点3および4について、過去の判断と異なる判断を行うことはできないケースであり、訴訟上の信義則に反する、とされた点は、妥当と考えられる。無効審判において、事案が裁判所と特許庁を行き来する同様のケースでは、過去と同じ事実認定や法律判断の蒸し返しかどうかを注意してみる必要がある。
なお、本件とは直接関係はないが、拘束力について判断した判決としては、最高裁平成4年4月28日判決(高速旋回式バレル研磨法事件)などがある。

以上
(担当弁理士:高山 周子)