審決取消請求事件 » 平成27年(行ケ)第10149号「平底幅広浚渫用グラブバケット」事件①

名称:「平底幅広浚渫用グラブバケット」事件①
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成27年(行ケ)第10149号 判決日:平成28年8月10日
判決:審決取消
特許法29条2項
キーワード:容易想到性、容易の容易、周知技術

[概要]
主引用発明に、副引用発明を適用した上で、周知技術の副引用発明をさらに適用するという論理構成において、当該周知技術を適用するための課題が、主引用発明では認識できず、主引用発明に副引用発明を適用した発明で認識できる場合には、「容易の容易」に当たるとして、当該周知技術まで適用することの容易想到性を認めることはできないとされた事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第3884028号の特許権者である。
被告が、当該特許の請求項1に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無効2010-800231号)を請求したところ、特許庁が、請求不成立(特許維持)の審決(第1次審決)をしたため、被告は、当該第1次審決の取り消しを求めた(平成23年(行ケ)第10414号)。知財高裁は、被告の請求を容認し、第1次審決を取り消し、その後、上告不受理の決定により確定した。
そして、特許庁が、請求成立(特許無効)の審決(第2次審決)をしたため、原告は、当該第2次審決の取り消しを求め、その後、訂正審判を請求した。知財高裁は、第2次審決を取り消す旨の決定をした。
その後、特許庁が、訂正を認めた上で、請求成立(特許無効)の第3次審決をしたため、原告は、第3次審決の取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を認容し、審決を取り消した。

[本件訂正発明]
【請求項1】
吊支ロープを連結する上部フレームに上シーブを軸支し、側面視において両側2ケ所で左右一対のシェルを回動自在に軸支する下部フレームに下シーブを軸支するとともに、左右2本のタイロッドの下端部をそれぞれシェルに、上端部をそれぞれ上部フレームに回動自在に軸支し、上シーブと下シーブとの間に開閉ロープを掛け回してシェルを開閉可能にしたグラブバケットにおいて、
シェルを爪無しの平底幅広構成とし、シェルの上部にシェルカバーを密接配置するとともに、前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成し、該空気抜き孔に、シェルを左右に広げたまま水中を降下する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに、シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き、グラブバケットの水中での移動時には、外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を取り付け、正面視におけるシェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離を100とした場合、側面視におけるシェルの幅内寸の距離を60以上とし、かつ、側面視においてシェルの両端部がタイロッドの外方に張り出すとともに、側面視においてシェルの両端部が下部フレームの外方に張り出し、更に、側面視においてシェルの両端部が下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出してなり、薄層ヘドロ浚渫工事に使用することを特徴とする平底幅広浚渫用グラブバケット(なお、前記正面視はシェルと下部フレームを軸支する軸の軸心方向から視たものであり、前記側面視はシェルと下部フレームを軸支する軸を軸心方向の側方から視たものとする)。

[審決]
1.無効理由1:引用発明1を主引例として、本件訂正発明の進歩性が否定された。
(1)相違点2
本件発明においては、「シェルの上部にシェルカバーを密接配置するとともに、前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成し、該空気抜き孔に、シェルを左右に広げたまま水中を降下する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに、シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き、グラブバケットの水中での移動時には、外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を取り付け」るのに対して、引用発明1においては、そのように構成されているか否か不明である点

(2)相違点2の容易想到性の判断
浚渫用グラブバケットに関する発明である引用発明1において、同じく浚渫用グラブバケットに関する周知技術2及び3並びに引用発明3を適用して相違点2に係る本件発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことであると判断した。

[取消事由](筆者にて一部抜粋)
1.引用発明1を主引用例とする容易想到性の判断の誤り
オ 周知技術3の認定の誤り
カ 相違点2の容易想到性の判断の誤り

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
1.引用発明1を主引用例とする容易想到性の判断の誤り
(1)周知技術3の認定の誤り
『周知例1及び引用例5から、浚渫用グラブバケットにおいて、シェルの上部に空気抜き孔を形成すること(周知技術3)は、本件特許出願の当時、当業者に周知されていたものと認められ、同旨の本件審決の判断に誤りはない。
ただし、①前記⑶アのとおり、周知例1記載の浚渫用グラブバケットは、シェルの上部が密閉されたグラブバケットにおいて、シェル内部の濁水を排出する手段につき、従来技術の問題点を解決するものであり、②前記アのとおり、引用例5に記載されている浚渫用グラブバケットも、シェル上部が密閉されているものであることが明らかであるから、周知技術3は、シェルの上部が密閉されていることを前提として、そのような状態においてはシェル内部にたまった水や空気を排出する必要があり、この課題を解決するための手段にほかならないというべきである。』

(2)相違点2の容易想到性の判断の誤り
『・・・(略)・・・引用例3・・・(略)・・・、周知例1・・・(略)・・・、周知例2・・・(略)・・・によれば、本件特許出願の当時、浚渫用グラブバケットにおいて、シェルで掴んだ土砂や濁水等の流出を防止することは、自明の課題であったということができる。したがって、当業者は、引用発明1について、上記課題を認識したものと考えられる。
前記⑶ウのとおり、本件審決が周知技術2を認定したことは誤りであるが、当業者は、引用発明1において、上記課題を解決する手段として、周知例2に開示された「・・・(略)・・・」構成を適用し、相違点2に係る本件発明の構成のうち、「シェルの上部にシェルカバーを密接配置する」構成については容易に想到し得たものと認められる。
しかしながら、前記⑷のとおり、シェルの上部に空気抜き孔を形成するという周知技術3は、シェルの上部が密閉されていることを前提として、そのような状態においてはシェル内部にたまった水や空気を排出する必要があり、この課題を解決するための手段である。引用例1には、シェルの上部が密閉されていることは開示されておらず、よって、当業者が引用発明1自体について上記課題を認識することは考え難い。当業者は、前記のとおり引用発明1に周知例2に開示された構成を適用して「シェルの上部にシェルカバーを密接配置する」という構成を想到し、同構成について上記課題を認識し、周知技術3の適用を考えるものということができるが、これはいわゆる「容易の容易」に当たるから、周知技術3の適用をもって相違点2に係る本件発明の構成のうち、「前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成」する構成の容易想到性を認めることはできない。』

(3)小括
『相違点2が容易に想到できるとした本件審決の判断には誤りがある。・・・(略)・・・引用発明1に基づいて容易に想到できるとした本件審決は誤りであり、原告主張の取消事由1は、理由がある。』

[コメント]
いわゆる「容易の容易」とは、主引用発明に、2つの副引用発明を直列的に適用することを指し、審査の場において、「容易の容易」が「容易でない」とされるためには、副引用発明は、周知技術ではなく、公知技術であることが、一般的だと思われる。
しかしながら、本判決においては、「主引用発明に、副引用発明を適用した上で、周知技術の副引用発明をさらに適用するという論理構成において、当該周知技術を適用するための課題が、主引用発明では認識できず、主引用発明に副引用発明を適用した発明で認識できる場合には、「容易の容易」に当たる』として、当該周知技術を適用する容易想到性を否定した。
したがって、主引用発明に、「副引用発明」、「周知技術」の順で適用することで、発明の進歩性が否定された場合には、当該周知技術を適用する課題が主引用発明に存在しているか確認すべきである。そして、主引用発明だけでは当該課題が存在せず、主引用発明に副引用発明を適用した発明で初めて当該課題が存在する場合は、当該周知技術をさらに適用する容易想到性を否定する根拠として主張できるだろう。
以上
(担当弁理士:鶴亀 史泰)