審決取消請求事件 » 平成27年(行ケ)第10164号「電気コネクタ組立体」事件

名称:「電気コネクタ組立体」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成27年(行ケ)第10164号 判決日:平成28年7月13日
判決:審決取消
特許法29条2項
キーワード:容易想到性の判断

[概要]
審決においては、二つの相違点に係る構成が奏する作用をそれぞれ個別に認定した上で、相違点に係る構成の容易想到性の判断を行ったことにより、本件発明の進歩性は否定されたが、判決においては、二つの相違点の構成によって奏する作用を認定した上で、相違点に係る構成の容易想到性の判断を行ったことにより、本件発明の進歩性が肯定された事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第5362136号の特許権者である。
被告が、当該特許の請求項1に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無効2014-800014号)を請求し、原告が訂正を請求したところ、特許庁が、当該特許を無効とする審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を認容し、審決を取り消した。

[本件発明]
【請求項1(訂正後)】(訂正箇所下線)
ハウジングの周面に形成された嵌合面で互いに嵌合接続されるケーブルコネクタとレセプタクルコネクタとを有し、嵌合面が側壁面とこれに直角をなし前方に位置する端壁面とで形成されており、ケーブルコネクタが後方に位置する端壁面をケーブルの延出側としている電気コネクタ組立体において、
ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタの一方が、平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間しているロック突部を側壁面に有し、他方が前後方向で該ロック突部に対応する位置で溝部前縁と溝部後縁が形成されたロック溝部を側壁面に有し、該ロック溝部には溝部前縁または溝部後縁から溝内方へ突出する突出部が設けられており、ケーブルコネクタは、前方の端壁面に寄った位置で側壁に係止部が設けられ、レセプタクルコネクタは、前後方向で上記係止部と対応する位置でコネクタ嵌合状態にて該係止部と係止可能な被係止部が側壁に設けられており、上記ロック突部が嵌合方向で上記ロック溝部内に進入してケーブルコネクタが該ケーブルコネクタの前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢から嵌合終了の姿勢となったコネクタ嵌合状態では、上記姿勢の変化に応じて上記突出部に対する上記ロック突部の位置が変化することにより、該ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき、上記ロック突部が上記抜出方向で上記突出部と当接して該ケーブルコネクタの抜出を阻止するようになっており、該ケーブルコネクタの前端部には前方へ突出する持上げ部が設けられていて、上記コネクタ嵌合状態で該持上げ部を抜出方向に持ち上げることにより、上記係止部と上記被係止部との係止可能な状態が解除されるとともに、上記ロック突部と上記突出部との上記当接可能な状態が解除されて、上記ケーブルコネクタの抜出が可能となることを特徴とする電気コネクタ組立体。

[審決]
1.相違点
(1)相違点2
本件発明では、突出部に対するロック突部の位置の変化が、ケーブルコネクタの姿勢の変化に応じたものとされているのに対し、引用発明では、回転中心突起53の位置の変化が相手コネクタ33の姿勢の変化に応じたものとはされていない点。
(2)相違点4
本件発明では、ケーブルコネクタの前端部には前方へ突出する持上げ部が設けられていて、コネクタ嵌合状態で解除操作が、該持上げ部を抜出方向に持ち上げることにより行われるのに対し、引用発明では、相手コネクタ33にはそのような持上げ部が設けられているとはされていなく、コネクタ嵌合状態で解除操作が、相手コネクタ33を時計方向に回転した後に、回転中心突起53を溝部49にて案内しつつ上方に引き抜くことにより行われる点。

2.容易想到性の判断
(1)相違点2
引用発明においても、相手コネクタ33の姿勢の変化に応じて、回転中心突起53は突出部に対する位置が変化するものといえるから、相違点2は実質的な相違点ではない。
(2)相違点4
引用発明において、相手コネクタ33の前端部の前方へ突出する操作部(持上げ部)を設け、相違点4に係る本件発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

[取消事由]
1.取消事由3:相違点2の判断の誤り
2.取消事由5:相違点4の判断の誤り
※取消事由1、2、及び4は省略

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
1.取消事由3(相違点2の判断の誤り)について
『・・・(略)・・・本件発明は、嵌合では、ケーブルコネクタの前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢から嵌合終了の姿勢への姿勢の変化に応じて、突出部に対するロック突部の位置が変化することにより、ロック突部が抜出方向で突出部と当接してケーブルコネクタの抜出を阻止する一方、嵌合の解除では、ケーブルコネクタの前端側が持ち上がる上向き姿勢となることで、突出部に対するロック突部の位置が元に戻り、ロック突部における抜出方向の突出部との当接が解除され、ロック溝部の外部へ上昇させることによるケーブルコネクタの抜出が可能となるという作用を奏するものであると認められる。
・・・(略)・・・引用発明は、嵌合の終了姿勢では、回転中心突起53が溝部49に形成された肩部56のケーブル44側に当接している状態にあるため、本件発明と同様に抜出を阻止する作用を奏しているものの、嵌合の解除姿勢では、回転中心突起53が溝部49に形成された肩部56のケーブル44側に当接されたままであるため、溝部49の突出部の回転中心突起53に対する干渉はなくなっておらず、相手コネクタ33の姿勢を上向き姿勢とするだけでは、相手コネクタ33の抜出はスムーズに行い得ない。
・・・(略)・・・本件発明において、相違点2に係る構成は、固有の作用を奏するものであって、単なる設計的事項にすぎないものであるということはできない。
・・・(略)・・・、相違点2は実質的な相違点であるところ、本件審決には、引用発明において、相違点2に係る本件発明の構成を備えることは容易に想到することができたことは、示されていない。』

2.取消事由5(相違点4の判断の誤り)について
『・・・(略)・・・相違点4は、・・・(略)・・・コネクタ嵌合状態で解除操作が、本件発明では、上記持上げ部を抜出方向に持ち上げることにより行われるのに対し、引用発明では、相手コネクタ33を時計方向に回転した後に、回転中心突起53を溝部49にて案内しつつ上方に引き抜くことにより行われるという点も含むものである。
・・・(略)・・・本件発明は、・・・(略)・・・嵌合の解除では、ケーブルコネクタの前端部に前方へ突出するように設けられた持上げ部を抜出方向に持ち上げることにより、ケーブルコネクタの前端側が持ち上がる上向き姿勢となることで、突出部に対するロック突部の位置が元に戻り、ロック突部における抜出方向の突出部との当接が解除され、ロック突部における突出部との干渉がなくなり、ロック溝部の外部へ上昇させることによるケーブルコネクタの抜出が可能となるという作用を奏するものであると認められる。
・・・(略)・・・引用発明は、嵌合の解除状態において、相手コネクタ33を時計方向に回転しただけでは、回転中心突起53が溝部49に形成された肩部56のケーブル44側に当接されたままであるため、溝部49の突出部の回転中心突起53に対する干渉はなくなっておらず、相手コネクタ33の姿勢を上向き姿勢とするだけでは、相手コネクタ33の抜出はスムースに行い得ない。・・・(略)・・・
ウ 以上によれば、仮に操作性を向上させるために操作部を操作対象となる機械要素に設けることや、コネクタの分野ではコネクタの前端部に前方へ突出する持上げ部を設けることが周知であったとしても、引用発明において、相手コネクタ33の前端部に前方へ突出する持上げ部を設けただけでは、相違点4に係る本件発明の構成には至らない。そして、本件発明において、相違点4に係る構成は、コネクタ嵌合状態の解除操作について固有の作用を奏するものであって、単なる設計的事項にすぎないということはできない。
さらに、引用発明において、相手コネクタ33の前端部に前方へ突出する持上げ部を設けたとしても、上記持上げ部で、相手コネクタ33をコネクタ31の端部内面へ向かう突合方向にスライドさせる操作を行うことが、左右端部に持上げ部を設けて、この操作を行う場合に比べ、容易になるものではなく、操作性の向上に寄与するということはできない。そうすると、引用発明において、コネクタの前端部に前方へ突出する持上げ部を設けることにつき、動機付けがあるということもできない。
エ したがって、引用発明において、相違点4に係る本件発明の構成を備えることに、当業者が容易に想到することができたということはできない。』

以上のように、取消事由3及び5に理由があるとして、審決が取り消された。

[コメント]
審決(特許庁)においては、相違点2に係る構成が奏する作用と、相違点4に係る構成が奏する作用とを個別に認定し、それぞれの相違点に係る容易想到性の判断を行った。その結果、本件発明の進歩性は否定された。
それに対して、判決(知財高裁)においては、相違点2と相違点4との二つの構成によって奏する作用を認定した上で、それぞれの相違点に係る容易想到性の判断を行った。その結果、本件発明の進歩性は肯定された。
相違点を分けて認定した場合、それぞれの相違点が容易想到性であると判断され易くなる傾向になる。したがって、進歩性を肯定したい側(特許権者側、出願人側)としては、相違点の認定が、発明の技術的課題の解決の観点から、まとまりのある構成を単位として認定されているか注意すべきである。
以上
(担当弁理士:鶴亀 史泰)