IP case studies判例研究

平成27年(行ケ)10113号「単位製剤」事件

名称:「単位製剤」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成27年(行ケ)10113号  判決日:平成28年3月24日
判決:審決取消
特許法29条2項
キーワード:医薬用途、薬物の用法・用量
[概要]
PDE5阻害作用を有するシルデナフィルをヒトに投与した際、PDE5を阻害することによる副作用が生じるという技術常識から、PDE5阻害作用を有するタダラフィルを患者に投与するに当たっても、同様の副作用が生じるおそれがあることは容易に認識でき、最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果が得られる用量の範囲の調整は容易とされた事例。
[事件の経緯]
被告は、特許第4975214号の特許権者である。
原告が、当該特許の請求項1~13に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無効2013-800243号)を請求したところ、特許庁が、請求不成立(特許維持)の審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を認容し、審決を取り消した。
[本件発明]
【請求項1】
1日あたり20mgの総用量を上限として、以下の構造式:
【化1】
を有する化合物を単位製剤あたり1乃至20mg含み、ヒトにおける勃起不全の処置に使用される内服用単位製剤。
※本件発明における【化1】の構造式を有する化合物を「タダラフィル」という。
[甲10発明]
1日あたり0.5~800mgのタダラフィルを単位製剤あたり0.2~400mg含み、ヒトにおける勃起不全の処置に使用される内服用単位製剤
[本件発明1と甲10発明との相違点1]
本件発明1は、「1日あたり20mgの総用量を上限」とするのに対し、甲10発明は、「1日あたり0.5~800mg」である点。
[審決]
甲11号証乃至甲第14号証は、いずれもPDE5の選択的な阻害剤による勃起不全の治療に関するものである点で甲第10号証と技術分野が一致しているものの、シルデナフィルに関するものであってタダラフィルに関して何も記載されていないのであるから、仮に、甲10発明と甲11号証乃至甲第14号証に記載された発明を組み合わせる動機付けがあるとしても、タダラフィルの1日あたりの総用量を「1日あたり20mgの総用量を上限」とすることを容易に着想することができたとは言えない。
[取消事由]
取消事由1(優先権明細書に記載された発明の認定の誤り)
取消事由2(本件発明1と甲10との間の相違点の認定の誤り)
取消事由3(甲10発明に基づく本件発明1の容易想到性の判断の誤り)
※以下、取消事由3についてのみ記載する。
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
『(3) 相違点1の容易想到性について
原告は、相違点1に関し、甲10において開示された「0.5~800mg」の範囲内で、甲10の実施例の「50mg」や、同効薬であるシルデナフィルの最も少ない量である「10mg」の用量を参考にして、副作用を考慮し、下限値である「0.5mg」程度といった十分な低用量から始めて、徐々に用量を上げて、薬効と副作用の観点から上限値を定めることは、当業者がごく一般的な臨床試験プロセスの中で容易になし得ることにすぎない旨主張するので、以下検討する。』
『ウ 相違点1の容易想到性について
(ア) 甲10には、タダラフィルは、PDE5阻害剤であって、ヒトの勃起機能不全の処置に有用であること(前記(2)ア(ア)ないし(カ)、(ケ)、(コ))、その用量について、平均的な成人患者(70kg)に対して1日当たり、概ね0.5~800mgの範囲であり、個々の錠剤又はカプセル剤は、1日当たり単回又は数回、単回投与又は反復投与のため、好適な医薬上容認できる賦形剤又は担体中に0.2~400mgの有効成分を含有するものであることが記載され(前記(2)ア(オ))、さらに、具体的に、タダラフィルを50mg含む錠剤及びカプセルの組成例(前記(2)ア(キ)、(ク))が記載されている。
また、「実際には、医師は、個々の患者に最も適している実際の投与計画を決定するが、それは特定の患者の年齢、体重および応答によって変化する。上記の投与量は、平均的な場合の例であり、より高い又は低い用量範囲が有益であるような個々の事例が存在するかもしれないが、いずれも本発明の範囲内である。」(前記(2)ア(オ))と、実際の患者に投与する場合には、医者が最も好適と考えられる投与計画を決定することも記載されている。
さらに、タダラフィルを用いたインビトロ試験において、PDE5阻害作用につき、IC50が2nMであったことが記載されている(前記(2)ア(コ))。
(イ) 前記(ア)の記載に接した当業者であれば、甲10発明に係るタダラフィルにつき、平均的な成人患者(70kg)に対して1日当たり、概ね0.5~800mgの範囲において、ヒトの勃起機能不全の処置に有用であり、具体的には50mgのタダラフィルを含む錠剤ないしはカプセルが一例として考えられること、もっとも、実際の患者に投与する場合には、好適と考えられる投与計画を決定する必要があることを理解すると認められるところ、タダラフィルと同様にPDE5阻害作用を有するシルデナフィルにおいて、ヒトに投与した際、PDE5を阻害することによる副作用が生じることが本件優先日当時の技術常識であったことから(前記イ(ウ))、甲10のタダラフィルを実際に患者に投与するに当たっても、同様の副作用が生じるおそれがあることは容易に認識できたものといえる。そして、薬効を維持しつつ副作用を低減させることは医薬品における当然の課題であるから、これらの課題を踏まえて上記の用量の範囲内において投与計画を決定する必要があることを認識するものと認められる。そうすると、そのような当業者において、前記アの技術常識を踏まえ、甲10に記載された用量の下限値である0.5mgから段階的に量を増やしながら臨床試験を行って、最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果が得られるような投与計画の検討を行うことは、当業者が格別の創意工夫を要することなく、通常行う事項であると認められる。
加えて、前記(ア)のとおり、甲10のタダラフィルに関するインビトロ試験の結果によれば、タダラフィルのPDE5阻害作用はシルデナフィル(前記イ(ア))に比べ強いことが示されているのであるから、タダラフィルが、インビトロ試験と同様にインビボ試験である臨床試験においても、強いPDE5阻害作用を発揮する可能性を考慮に入れて、タダラフィルの用量としてシルデナフィルの用量である10mg~50mg(前記イ(イ))及びそれよりも若干低い用量を検討することも、当業者において容易に行い得ることである。
以上によれば、甲10発明について、適切な臨床における有用性を評価するために臨床試験を行い、最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果が得られるような範囲として、相違点1に係る範囲を設定することは、当業者が容易に想到することができたものと認められる。』
[シルデナフィルの構造式]
[コメント]
裁判所は、特許庁と比べてより具体的に理由を示して判断を行った。
弊所判例会では、主引例及び副引例の記載から本願発明の構成への想到性はあると判断されるとしても、本判決のような医薬化合物の用量を主題とする発明において、効果の顕著性、例えば特定の用量により薬効と副作用の両立が可能であることをデータで示すことによって、進歩性が認められる余地はあることの議論がなされた。本件では、示された証拠における各副作用(視覚異常、顔面紅潮等)を検討しても、タダラフィル20mgにおいて顕著な薬効増加と副作用抑制をデータで示すことは困難であったと見受けられた。タダラフィルと硝酸塩との併用による副作用を検討したデータでは、タダラフィル10mgを用いたデータしか証拠に挙げられていない点、健常な被験者と心疾患患者とは異なる可能性がある点なども判決中では指摘されている。従って、例えば、本願発明において特定された用量の上限であるタダラフィル20mgにより、副作用を顕著に抑えることを示し、さらに他にも利点がある点などを詳細データで示すことは、特許性を肯定する要素として参酌された可能性があるとの意見があった。
以上
(担当弁理士:森本 宜延)

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