審決取消請求事件 » 平成27年(行ケ)10122号「皮膚科学的治療のためのシステムおよび装置」

名称:「皮膚科学的治療のためのシステムおよび装置」事件
拒絶審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成27年(行ケ)10122号  判決日:平成28年5月11日
判決:審決取消
特許法29条2項
キーワード:引用発明の認定

[概要]
副引例において、「懸濁フィルター」については、①装置の冷却と②皮膚の冷却の開示が認められるが、それとは別個のものである「液体水フィルター」については、単に冷却の開示のみであって、②皮膚の冷却まで開示されているとは認められないとして、主引例に副引例を適用しても本願発明の構成まで至らないとされた事例。

[事件の経緯]
原告が、特許出願(特願2010-537149号)に係る拒絶査定不服審判(不服2014-3838号)を請求したところ、特許庁(被告)が、請求不成立の拒絶審決をしたため、原告は、その取消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を認容し、審決を取り消した。

[本願発明]
【請求項1】
光学的放射線を少なくとも1つの生物組織に加えるための装置であって、
化学反応に基づいて前記放射線を発生させるように構成された放射線装置、および、水フィルターを備え、
前記放射線装置は、封止された筐体および前記筐体の内部に設けられた可燃性材料を備え、
前記封止された筐体の外側表面の一部は、前記生物組織に接するように構成され、
前記水フィルターは、前記可燃性材料と前記封止された筐体の外側表面の一部との間に設けられ、
前記水フィルターは、前記光学的放射線の一部を濾光し、且つ、前記生物組織を冷却するために構成され、
前記光学的放射線は、前記少なくとも1つの生物組織の少なくとも一部に生物学的影響をもたらす装置。

[審決]
本願発明は引用発明1と以下の点で相違すると認定した。
「光学的フィルターが、本願発明においては、水フィルターであって、可燃性材料と封止された筐体の外側表面の一部との間に設けられ、光学的放射線の一部を濾光し、且つ、生物組織を冷却するものであるのに対して、引用発明においては、インコヒーレント光源3のバルブ本体の前部に配置されたプリズム6及びプリズム6の側面のコーティングからなるものであって、光学的放射線の一部を濾光するものであるが、生物組織を冷却するものであるかまでは不明である点」。
また、引用発明2は、「患者の皮膚の処置のため、ランプからの光を導波管を通じて患者の皮膚へ向けるための装置において、光スペクトルのフィルター処理を行なうためにフィルター6を設け、フィルター6を液体水フィルターとし、この水を冷却用にも使用すること。」と認定した。
そして、本願発明は引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとして、進歩性を否定した。

[取消事由]
本願発明の容易想到性の判断の誤り

[原告の主張]
引用発明2の装置には,皮膚を冷却するための機構が別途設けられており,液体水フィルターで皮膚を冷却することは記載されていない。しかも,上記機構においては,大きな導波管が用いられ,皮膚を冷却するためにかなり大きい負の熱量が供給されるように構成されており,薄いフィルター6中に存在するわずかな氷では,上記導波管を挟んで反対側にある皮膚を冷却するには不十分である。

[被告の主張]
液体水フィルター等の冷却手段による冷却能力は,光の強さ,光の照射時間,導波管の長さ,導波管の熱容量,液体水フィルターの温度,治療開始時の導波管の温度等に依存するものであるから,当業者であれば,液体水フィルターによって患者の皮膚を冷却する効果を実現するために必要な設計変更を行うことは可能なはずである。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
4 容易想到性の判断の誤りについて
『 ウ 皮膚の冷却について
(ア) 引用例2記載の装置における冷却について
・・・(略)・・・引用例2記載の装置においては,①装置構成要素(ランプ2,反射板3,吸収フィルター)の冷却及び②皮膚の冷却を要することが認められる。・・・(略)・・・引用例2記載の装置においては,①装置構成要素の冷却には,ランプ2と管4との間隙7内の液体又は気体が用いられ,②皮膚の冷却は,導波管5の冷却により行われることが認められる。
(イ) 導波管の冷却について
・・・(略)・・・【0076】には,光スペクトルのフィルター処理の一態様として,フィルター6を,「液体が凍結された際の整合屈折率Δn≒0を有する液体(例えば水)及び固体状態の粒子の懸濁として形成」することが記載されており(懸濁フィルター),上記記載の後に「導波管5の温度(0℃周辺)は,液体が完全に融解するまでフィルター6の融解温度に留まる。この時間は,良好な冷却による皮膚の処置に使用され得る。」と記載されていることから,懸濁フィルターは,導波管5の冷却により皮膚を冷却するものと認められる。
(ウ) 液体水フィルターによる冷却について
・・・(略)・・・
b 本件審決が認定した引用発明2における液体水フィルターは,フィルター6の場所に設けられたものであるが,その水を皮膚の冷却に用いることは,引用例2に記載も示唆もされていない。・・・(略)・・・
また,この点に関し,液体水フィルターについては,「厚さ1~3mmの液体水フィルターが使用され得,この水は,冷却用にも使用され得る」(【0077】)との記載があるところ,・・・(略)・・・1~3mmの厚さに薄く広げられた水が導波管5の冷却を介して皮膚1を冷却する効果をもたらすとは必ずしもいい難いことから,上記「冷却用」は,ランプなどの装置構成要素の冷却用を意味するものと考えられる。
c 以上のとおり,液体水フィルターは,皮膚を冷却するものということはできない。
・・・(略)・・・
⑶ 被告の主張について
・・・(略)・・・しかし,水に入射した光の透過率は水の層が厚くなるほど低下することに鑑みると,上記厚さは,皮膚の美容及び医療の皮膚科学処置という装置Dの目的(【0019】)を達成するのに必要な光の量を確保する観点から定められたものとみることができるから,皮膚を冷却するために液体水フィルターをより厚いものにすると,光の透過率が低下し,上記目的を達成する装置Dの機能を損なう結果になる。よって,当業者において,原告主張に係る設計変更を行うことが可能であると直ちにいうことはできない。

[コメント]
本事例のように引用文献が公表特許公報である場合、明細書における用語の意義を理解し難いことがしばしばある。このとき、審査段階、審判段階において、審査官や審判官が明細書の記載から飛躍して引用発明を認定する場合がある。
例えば本事例において、審決では、引用文献2の段落0077「1.4μm及び1.9μmで水のIR吸収ピーク付近の光スペクトルをフィルターに通すため、厚さ1~3mmの液体水フィルターが使用され得、この水は、冷却用にも使用され得る。」という記載から、液体水フィルターが皮膚冷却用に使用され得る、と認定された。
引用発明の認定に疑義がある場合、出願人・代理人側で再度認定を行った上で特許庁側の認定に誤りがある点を主張すべきであることを改めて確認できる。
以上
(担当弁理士:小島 香奈子)