審決取消請求事件 » 平成27年(行ケ)10115号「光源モジュール」事件

名称:「光源モジュール」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成27年(行ケ)10115号  判決日:平成28年2月24日
判決:請求棄却
特許法17条の2第5項2号
キーワード:限定的減縮

[概要]
一見外的付加に見える補正事項であっても、請求項に記載されている発明特定事項について、明細書に記載されている具体的形状や態様に特定する構成を追加する補正は限定的減縮(内的付加)に該当すると判断した事例(但し、補正発明について進歩性は無いと判断された)。

[事件の経緯]
原告が、特許出願(特願2009-87031号)に係る拒絶査定不服審判(不服2014-7822号)を請求して補正したところ、特許庁(被告)が、当該補正を却下した上で請求不成立の拒絶審決をしたため、原告は、その取消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本件補正前の請求項1]
発光素子と,
前記発光素子から放射される光を入射する入射面と,前記入射面から入射した光を反射する反射面と,前記反射面で反射した光を屈折して側面方向へ出射する出射面とを有する透明材料からなる光方向変換素子と,
前記光方向変換素子に設けられるホルダ片とを有し,
前記ホルダ片は,前記光方向変換素子側に向けて開口する収納部を有し,前記収納部内に前記発光素子を搭載する回路基板を保持する構成を有してなり,
前記光方向変換素子に光拡散剤を含有してなり,
前記光拡散剤の含有量は,前記透明材料100重量%に対して0.01重量%以上0.1重量%以下であることを特徴とする光源モジュール。

[本件補正後の請求項1](補正箇所に下線)
発光素子と,
前記発光素子から放射される光を入射する入射面,前記入射面から入射した光を反射する反射面,及び前記反射面で反射した光を屈折して側面方向へ出射する出射面を有する光方向変換部と,嵌合部が形成されたケース部とを有する透明材料からなる光方向変換素子と,
前記光方向変換素子の前記ケース部の前記嵌合部に嵌合して前記入射面側に設けられるホルダ片とを有し,
前記ホルダ片は,前記光方向変換素子側に向けて開口する収納部を有し,前記収納部内に前記発光素子を搭載する回路基板を保持する構成を有してなり,
前記光方向変換素子の前記光方向変換部及び前記ケース部に光拡散剤を含有してなり,前記入射面に入射して前記反射面に向かう光のうち,一部の光を前記光拡散剤によって前記入射面から入射した光線の方向を変更して第1の光として前記反射面の裏側から表側に向けて透過させ,残りの光を前記光拡散剤又は前記反射面で反射させて第2の光として前記出射面から前記側面方向に出射させ,
前記光拡散剤の含有量は,前記透明材料100重量%に対して0.01重量%以上0.1重量%以下とすることにより,前記第1の光の光量と前記第2の光の光量とを所定の比率としたことを特徴とする光源モジュール。

[被告の反論]
『 補正前発明では,「光方向変換素子」は,実質的に「光方向変換部」(光学的機能を有するもの)が特定されているものの,「ホルダ片」を嵌合するための手段(機械的機能を有するもの)は,何ら特定されていなかった。ところが,本件補正によると,「光方向変換素子」は,「光方向変換部」と「ケース部」とを有するとされた上で,補正前の技術的特徴に対応する「光方向変換部」(光学的機能を有するもの)により特定されることに加え,「ホルダ片」を嵌合するための手段である「嵌合部が形成されたケース部」(機械的機能を有するもの)によっても新たに特定されることになる。
そうすると,「嵌合部が形成されたケース部」(機械的機能を有するもの)によって特定されることを追加する補正は,「光方向変換部」により特定される補正前の「光方向変換素子」(光学的機能を有するもの)を限定するものでない。
したがって,本件補正は,請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものには該当しない。
また,発明が解決しようとする課題が,補正前発明では,光方向の厳密な調整を不要とし,輝度ムラのない光源モジュールを提供することであったのに対し,補正発明では,嵌合部を持つ光方向変換素子を有する光源モジュールを提供することを追加している。本件補正は,発明が解決しようとする課題を追加して変更する点でも特許法17条の2第5項の規定に違反する。』

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
2 取消事由1(本件補正の目的要件についての判断の誤り)について
『(4)以上を前提に,本件補正の目的要件について検討する。
ア 発明特定事項の限定について
補正前発明は,請求項において「前記光方向変換素子に設けられるホルダ片とを有し」と特定され,「光方向変換素子」に「ホルダ片」を設けることが記載されるとともに,「前記発光素子から放射される光を入射する入射面と,前記入射面から入射した光を反射する反射面と,前記反射面で反射した光を屈折して側面方向へ出射する出射面」を「有する」ことが記載されているところ,この「前記発光素子から放射される光を入射する入射面と,前記入射面から入射した光を反射する反射面と,前記反射面で反射した光を屈折して側面方向へ出射する出射面」は,本願明細書の記載によれば,「光方向変換部」と呼ばれるものである。そうすると,「光方向変換素子」中には,「光方向変換部」と「ホルダ片」を設ける部分が記載されているものの,その「ホルダ片」を設ける部分の具体的形状が特定されていないものと解される。一方,補正発明は,「光方向変換部」を明示するとともに,「光方向変換素子」の具体的形状,ホルダ片を設ける態様などについて,請求項に記載のとおり「嵌合部が形成されたケース部」に限定したものである。
そうすると,本件補正は,補正発明の「光方向変換素子」を前記のとおり規定することによって,補正発明を特定するために必要な事項を限定するものと認められる。
イ 産業上の利用分野及び解決課題について
補正発明及び補正前発明は,いずれも,「光源モジュール」であり,両者の産業上の利用分野は同一である。
また,前記1のとおり,補正発明及び補正前発明の解決しようとする課題は,光方向の厳密な調整を不要とし,輝度ムラのない光源モジュールを提供することである。
したがって,補正発明及び補正前発明の解決しようとする課題は,同一であると認められる。
ウ よって,本件補正は,補正前発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,補正前発明と補正発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから,特許法17条の2第5項2号にいう「特許請求の範囲の減縮」に該当し,これを目的要件違反とした審決の判断は,誤りである。
(5)被告の主張について
被告は,本件補正によれば,補正発明は,・・・(略)・・・「光方向変換部」により特定される補正前の「光方向変換素子」(光学的機能を有するもの)を限定するものでないと主張する。
しかし,前記のとおり,補正前発明の「光方向変換素子」は,請求項1にあるとおり,「『入射面』と,・・・『反射面』と,・・・『出射面』とを有する『透明材料』からなる」もの,すなわち,「光方向変換部」を「有する」,「透明材料」からなるものであるとともに,「前記光方向変換素子に設けられるホルダ片とを有し」と特定され,「光方向変換素子」に「ホルダ片」を設けるものである(被告は,これを機械的機能と称する。)から,本件補正は,発明特定事項を新たに追加するものではなく,上記主張を採用することはできない。
また,被告は,・・・(略)・・・本件補正は,発明が解決しようとする課題を追加して変更するものである旨主張する。
しかし,前記のとおり,補正発明は,補正前発明と同様の課題を有しているが,それに加えて,光方向変換素子がケース部と円形の光方向変換部からなり,ホルダ片が光変換素子の嵌合凹部11aに内嵌固定されるということが,補正前発明又は補正発明の課題であることを示す記載は存在せず,ケース部の形状やホルダ片の固着態様に格別の意義があるとは認められないから,光方変換素子の「光方向変換部」以外の形状を限定したからといって,新たな課題を追加したものとはいえない。』

[コメント]
本件の補正内容は一見外的付加に該当するようにも思えるが、既に請求項に記載されている発明特定事項を特定するものであるので内的付加に該当すると判断された。補正が限定的減縮に該当するかどうかを判断する上で参考になる判決である。
なお、限定的減縮について判断された裁判例として「リチウム金属分散系である二次電池用アノード」事件(知財高裁 平成19年(行ケ)第10055号)があるが、当該裁判例では、既に請求項に記載されている「リチウム金属」の量を限定する補正は限定的減縮に該当しないと判断されている。請求項に記載されている発明特定事項がどこまでの概念を含むのかは明細書の記載や一般的な用語法によって変わり得る。

[参考]
・「リチウム金属分散系である二次電池用アノード」事件(筆者にて適宜抜粋、下線)
『(1) 本件出願の請求項19は,前記第2の2のとおりであるところ,アノードの「ホスト材料の中にリチウム金属を分散する」こと及び「ホスト材料中とその中に分散された前記リチウム金属」は記載されているが,「アノード内のリチウム金属の量」については,全く記載されていない。
原告は,特許請求の範囲中の記載に「(アノード内の)リチウム金属」に関する言及がある場合には,その量に関する事項は,「(アノード内の)リチウム金属」という概念に内在する特定事項であると主張する。
しかし,「リチウム金属」という記載では,物質の種類を特定したにすぎず,その「量」については,何らの言及がないのであるから,上記の「(アノード内の)リチウム金属」なる記載が「リチウム金属の量」についての特定を含むものではないことは一般的な用語法に照らして明らかであるというべきであって,原告の主張を採用することはできない。』
以上
(担当弁理士:赤間 賢一郎)