審決取消請求事件 » 平成27年(行ケ)10205号「車両用ルーフアンテナ」事件

名称:「車両用ルーフアンテナ」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成27年(行ケ)10205号  判決日:平成28年4月28日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:課題解決のために必須の構成を除外ないし改変、周知技術

[概要]
当業者であれば、引用発明の課題を解決するために必須の構成を除外ないし改変することにより、相違点の構成とすることは想定し難く、むしろ、引用発明の構成のままであることが自然であるとして、引用発明に、当該相違点に係る構成を適用することは、当業者であっても容易に想到し得たということはできないとされた事例。

[事件の経緯]
被告は、特許第4798721号の特許権者である。
原告が、当該特許の請求項1~3に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無効2014-800193号)を請求したところ、特許庁が、請求不成立(特許維持)の審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本件発明]
【請求項1】
内部にコイルアンテナを配設した合成樹脂製のカバーを,車両のルーフパネルに装着するようにした車両用ルーフアンテナにおいて,
前記カバーの底面開口の周縁部に形成した接合面を,両面粘着テープにより車両のルーフパネルに貼り付けて該カバーを前記ルーフパネルに装着するとともに,
保持筒を前記カバーの天井部から下向きに突設し,前記コイルアンテナの下端部が,前記底面開口より上部に位置するように前記保持筒で前記コイルアンテナを保持したことを特徴とする車両用ルーフアンテナ。

[取消事由]
1.本件発明1に係る容易想到性の判断の誤り
2.本件発明2,3に係る容易想到性の判断の誤り
※以下、取消事由1についてのみ記載する。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
取消事由1(本件発明1に係る容易想到性の判断の誤り)について
『(4) 相違点2の判断
本件発明1と甲1発明の相違点2は,「前記カバーの底面開口の周縁部に形成した面を用いたカバーのルーフパネルへの取り付けについて,本件発明1では,前記カバーの底面開口の周縁部に形成した面が接合面であり,接合面の両面粘着テープにより車両のルーフパネルに貼り付けられるのに対して,甲1発明では,魚鰭状カバーの底面の開口の周縁に金属ベースを結合し,この金属ベースが自動車のルーフトップに螺子止めされる点。」である。
原告は,審決の相違点2の判断に誤りがある旨主張するので,以下検討する。
・・・(略)・・・
そうすると,甲1発明と甲8発明は,ともに車両のルーフに設置するアンテナであって,その形状も同様に流線型であるといえるから,当業者であれば,甲1発明の魚鰭式アンテナ装置を車両のルーフに装着する手段として,車両のルーフとの接合面である「金属ベース」を螺子止めすることに代えて,より簡便な甲8発明の両面テープを採用しようと試みる可能性はあるといえる。
しかし,仮に,甲1発明の魚鰭式アンテナ装置と車両のルーフトップとを両面テープを使用して装着する場合,甲1発明の魚鰭式アンテナ装置は,「魚鰭状カバー」の底面開口の周縁部の下に「金属ベース」が配置されているから,「金属ベース」が接合面となり,「魚鰭状カバー」の底面開口の周縁部が接合面となることはない。
そして,甲1発明は,「自動車のルーフトップに取り付け可能で,ルーフトップに新規な美観を与えるのみならず,ラジオの無線電波周波数信号受信能力を高められる」(甲1文献【0004】)魚鰭式アンテナ装置を提供することを課題とする発明であるから,甲1発明の魚鰭式アンテナ装置とルーフトップとを両面テープで装着する場合,当業者であれば,甲1発明の課題を解決するために必須の構成である「金属ベース」を除外ないし改変することにより,「魚鰭状カバー」の底面開口の周縁部を露出させて接合面とすることは想定し難く,むしろ,「金属ベース」のルーフトップ側の面を接合面として装着しようとするのが自然であるといえる。
また,甲1文献には,「金属ベース」や「魚鰭状カバー」の大きさを変更するなどして,「魚鰭状カバー」の底面開口の周縁部を露出させて接合面とする構成については記載も示唆もされておらず,その他,原告が甲1発明との相違点2に係る本件発明1の構成に至ることを理由付ける根拠となる技術として提出する公知文献によっても,上記構成とすることが,本件特許の出願時における当業者の周知技術であったとも認められない。
したがって,甲1発明において,相違点2に係る構成を採用することは,当業者であっても容易に想到し得たということはできない。
・・・(略)・・・
ウ 以上のとおり,甲1発明において,相違点2に係る本件発明1の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得るものとはいえないから,審決の相違点2の判断に誤りはない。』
『(5) 相違点3の判断
本件発明1と甲1発明の相違点3は,「コイルアンテナの保持が,本件発明1では,保持筒を前記カバーの天井部から下向きに突設し,前記保持筒で前記コイルアンテナを保持するのに対して,甲1発明では,魚鰭状カバーの突出する内部空間中の上部に設置されるものの,どのように保持されるか明らかではない点。」である。
原告は,審決の相違点3の判断が誤っている旨主張するので,さらに検討することとする。
・・・(略)・・・
そうすると,甲3文献ないし甲5文献の対象とする技術分野が,無線通信機の技術分野に属するものであるとしても,「保持筒でコイルアンテナを保持すること」自体は,それ以外の技術分野も含め,コイルアンテナを用いて電波を送受信する技術分野で広く用いられる技術であると認められるから,無線通信機の技術分野に限定して上記周知技術を認定することは適切ではなく,技術分野を問わず,保持筒でコイルアンテナを保持することが周知技術であったと認定するのが相当である。
・・・(略)・・・
そうすると,当業者であれば,甲1文献の【図2】において,魚鰭状カバー21の魚鰭の突出する内部空間の上部に沿って設置されているAMアンテナ22について,コイルピッチ,コイル径,巻数などを調整することによって,その全体の長さを短く設計することができるから,AMアンテナ22を,その軸方向を信号増幅回路板23と垂直方向にして設置したとしても,魚鰭状カバー21内に設置できない,あるいは信号増幅回路板23と干渉するなどの問題を回避するように構成することは可能であると認められる。
そして,魚鰭状カバー21の魚鰭の突出する内部空間に設置されているAMアンテナ22を,上部に沿って設置するか(甲1発明。【図2】),その軸方向を信号増幅回路板23と垂直方向にして設置するか(本件発明1。甲12【図2】)など,どのような方向で設置するかは,自動車用ラジオの電波の受信感度や内部空間の広さ等に応じて適宜決定し得る設計的な事項であるといえる。
また,保持筒でコイルアンテナを保持することは周知技術であるから,甲1発明において,「AMアンテナ」を,その軸方向を信号増幅回路板と垂直方向にして設置する際に,魚鰭状カバーの上面から突設された保持筒で保持するように構成することに格別の困難性はなく,相違点3に係る本件発明1の構成は,当業者であれば容易に想到し得るものであると認められる。
・・・(略)・・・
以上のとおり,相違点3は,甲1発明及び周知技術に基づいて,当業者であれば容易に想到し得るものであるから,審決の相違点3の判断には誤りがある。』

[コメント]
相違点2について、引用発明の課題を解決するために必須の構成を除外ないし改変することにより、相違点2の構成とすることは想定し難いとして、審決と同様に容易想到ではないと判断された点は進歩性を主張する場面で参考になる。
一方、相違点3については審決とは異なり、「保持筒でコイルアンテナを保持すること」は、無線通信機の技術分野に限らず、コイルアンテナを用いて電波を送受信する技術分野であれば周知技術であるとして、容易想到であると判断された。このように、引用文献と技術分野が異なる場合であっても、様々な技術分野で広く用いられる汎用的な技術である場合には、周知技術として認定されて進歩性が否定される可能性がある。
以上
(担当弁理士:吉田 秀幸)