審決取消請求事件 » 平成27年(行ケ)10114号「タイヤ」事件

名称:「タイヤ」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成27年(行ケ)10114号 判決日:平成28年4月13日
判決:請求棄却
特許法第29条第2項
キーワード:異なる技術思想の組み合わせ、阻害要因、効果の顕著性

[概要]
化学的な解決方法を採用した引用発明1と機械的な解決方法を採用した引用発明2は技術的思想、適用箇所が相違し、これらを組み合わせて本願発明を想到することができないとの原告の主張に対して、前記相違は、同じ解決課題を有する発明を組み合わせる阻害要因にならないとされた事例。
本願発明の効果は、当業者において、引用発明1から容易に想到する本願発明の構成を前提として、予測し難い顕著なものであるとまではいうことはできず、本件審決に顕著な効果を看過して進歩性を否定した誤りはないとされた事例。

[事件の経緯]
原告が、特許出願(特願2011-511476号)に係る拒絶査定不服審判(不服2014-8720号)を請求して補正したところ、特許庁(被告)が、請求不成立の拒絶審決をしたため、原告は、その取消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本願発明]
[請求項1]
タイヤサイド部のタイヤ表面に、内周側から外周側に向かって延在される乱流発生用突起をタイヤ周方向に間隔を置いて設けた空気入りタイヤであって、前記各乱流発生用突起は、径方向断面で見たときにエッジ部を有すると共に、タイヤ表面に対して空気流が突き当たる前壁面との前壁角度が70度~110度の範囲であり、且つ前記タイヤサイド部を構成するサイド補強ゴムに、共役ジエン系重合体の末端と第一アミノ基又は加水分解により第一アミノ基を生成し得る前駆体を有するアルコキシシラン化合物との変性反応により該末端に第一アミノ基又は加水分解により第一アミノ基を生成し得る前駆体が導入され、さらに該変性反応の途中及び又は終了後に該変性反応系に縮合促進剤が加えられることにより得られる変性共役ジエン系重合体を10質量%以上含むゴム成分100質量部に対して、窒素吸着比表面積が20~90m2/gであるカーボンブラックを10~100質量部配合してなるゴム組成物を用いることを特徴とするタイヤ。

[本願発明と引用発明1との相違点]
相違点1
空気入りタイヤについて、本願発明は、「タイヤサイド部のタイヤ表面に、内周側から外周側に向かって延在される乱流発生用突起をタイヤ周方向に間隔を置いて設けた」ものであって、「前記各乱流発生用突起は、径方向断面で見たときにエッジ部を有すると共に、タイヤ表面に対して空気流が突き当たる前壁面との前壁角度が70度~110度の範囲」で構成されているのに対し、引用発明1はそのような乱流発生用突起を具備していない点
相違点2
変性共役ジエン系重合体の変性反応に関し、本願発明は、「さらに該変性反応の途中及び又は終了後に該変性反応系に縮合促進剤が加えられる」のに対して、引用発明1はそのように特定されていない点
相違点3
ゴム組成物について、本願発明は、「変性共役ジエン系重合体を10質量%以上含むゴム成分100質量部に対して、窒素吸着比表面積が20~90m2/gであるカーボンブラックを10~100質量部配合してなるゴム組成物」を用いるのに対し、引用発明1は、「(A)ゴム成分と、その100質量部に対し、(B)カーボンブラック55質量部以上」を含み構成されるものであり、上記(A)ゴム成分は「アミン変性共役ジエン系重合体を含むもの」であり、「前記(B)カーボンブラックがFEF級グレード」のものを用いる点

[取消事由]
(取消事由1)相違点1に係る容易想到性の判断の誤り
(取消事由2)相違点2に係る容易想到性の判断の誤り
(取消事由3)相違点3に係る容易想到性の判断の誤り
(取消事由4)顕著な効果の看過

[裁判所の判断]
(取消事由1について)
『引用発明1及び引用発明2は、いずれもサイド補強層が配設された空気入りタイヤにおいて、ランフラット走行状態になったとき、サイド補強層が高温に達して耐久性に悪影響を与えるという問題の解決を課題とするものということができる。そして、上記課題の解決手段として、引用発明1は、所定の加硫ゴム特性を有するゴム組成物をサイド補強層に用いる構成を採用し、引用発明2は、空気入りタイヤの表面に乱流発生用突起を設ける構成を採用した。』
『当業者は、引用発明1において、ランフラット走行状態になったときにサイド補強層が高温に達して耐久性に悪影響を与えるという問題の解決をより完全なものに近付けるために、同じく上記問題の解決を課題とする引用発明2の適用を試みるものということができる。』
『以上によれば、当業者は、引用発明1に引用発明2を適用し、相違点1に係る本願発明の構成とすることを容易に想到することができたものと認められる。』
『原告は,引用発明1がゴム成分の改良という化学的な解決方法を採用したのに対し,引用発明2はタイヤの構成の改良という機械的な解決方法を採用したものであるから,両者の技術的思想は全く異なること及び両者はタイヤに適用される箇所も異なることを根拠として,両者の間に直接の関連性は認められず,これらを組み合わせることによって,相違点1に係る本願発明の構成とすることはできない旨主張する。
イ しかし,前記⑵のとおり,両者のいずれも,サイド補強層が配設された空気入りタイヤにおいて,ランフラット走行状態になったとき,サイド補強層が高温に達して耐久性に悪影響を与えるという問題の解決を課題としている。そして,引用発明1のみによって上記問題が完全に解消されるとは考えられず,当業者としては,上記問題の解決をより完全なものに近付けるために,同じ問題を解決し得る手段が他にあるのであれば,その採用を試みるものということができる。
しかも,引用発明2によって,引用例1記載の従来技術と同様の問題が生じることは考え難い。そして,原告主張に係る両者が採用する課題解決方法の相違及び適用箇所の相違は,引用発明1に引用発明2を適用することを妨げるものではなく,他に同適用の阻害要因となるべき事情も認められない。』

(取消事由2について)
『引用例1には、縮合促進剤の具体例、そのうち好ましいもの、使用量及び縮合反応の仕組みが詳細に開示されており(【0026】~【0032】)、縮合が促進されることの効果については、「縮合反応を効率良く進行完結することができ、得られる変性共役ジエン系重合体の経時変化によるポリマーの老化反応等による品質の低下等を抑えることができる。」(【0031】)と記載されている。当業者は、これらの記載に接すれば、引用発明1において、変性剤として用いる保護化一級アミノ基を有するアルコキシシラン化合物が関与する縮合反応を促進するために、変性共役ジエン系重合体の変性反応の途中及び又は終了後に縮合促進剤を加えることを容易に想到し、したがって、相違点2に係る本願発明の構成を容易に想到することができる。』

(取消事由3)
『引用例1の記載に接した当業者は、加硫ゴム物性が「100%伸張時弾性率が10MPa以上であり、かつ、正接損失tanδの28℃~150℃におけるΣ値が6.0以下」となるようにゴム組成物中の変性共役ジエン系重合体の含有質量及びカーボンブラックの配合量を適宜設定し、通常走行時の転がり抵抗性と乗り心地性を損なうことなく、ランフラット耐久性をより向上させることを試み、ランフラット走行時の耐久性を向上させるとともに通常走行時の転がり抵抗性を低下させるという点から好ましい上記含有質量及び配合量を見いだし、相違点3に係る本願発明の構成に容易に想到するものということができる。』

(取消事由4)
『当業者は、①引用発明1に引用発明2を適用し、相違点1に係る本願発明の構成とすること及び②引用例1の記載に接し、相違点2及び3に係る本願発明の構成とすることを、容易に想到するものと認められ、引用発明1及び2に基づいて本願発明の構成を容易に想到するものということができる。したがって、本願発明の効果が、上記容易想到に係る構成を前提としても、引用発明1に引用発明2を適用することによって生じ得る相乗効果を大きく上回るなど、当業者にとって予測し難い顕著なものである場合でない限り、本願発明の進歩性を肯定することはできない。』
『本願発明は、①タイヤサイド部の表面に乱流発生用突起を配設すること及び②サイド補強ゴムに、特定の窒素吸着比表面積を有するカーボンブラックに対する相互作用に優れた変性共役ジエン系重合体を含み、縮合促進剤を加えたゴム組成物を用いることにより、ランフラット走行時の耐久性をおおむね4割から5割程度向上させる効果を奏することが認められる。しかし、前記⑶及び⑷のとおり、ランフラット走行時の耐久性は、①引用発明1により、約5割から7割向上したこと及び②引用発明2により、約2割から3割向上したことが認められ、この点に鑑みると、本願発明の前記効果は、当業者が主引例である引用発明1に副引例である引用発明2を組み合わせた構成から予測できる範囲内のものにとどまるというべきである。』
『本願発明につき、その効果によって進歩性が肯定され得るのは、当該効果が容易想到に係る構成を前提としても当業者にとって予測し難い顕著なものである場合に限られるところ、そのように顕著なものであるか否かを判断するに当たっては、主引例である引用発明1及び副引例である引用発明2の効果から当業者にとって予測し難いものであるか否かを比較検討すべきである。原告の主張に係る比較例及び追加比較例は、いずれも引用発明1及び2と異なるものであり、原告の主張は、引用発明1及び2の効果に関する上記比較検討を欠き、採用できない。』
『したがって、原告主張の取消事由4は、理由がない。』

[コメント]
効果の顕著性により、進歩性が肯定される方向に働く有力な事情として、審査基準では以下の場合を挙げている(審査基準第III 部 第2 章 第2 節3.2.1(1)(ii))。
『請求項に係る発明が、引用発明の有する効果と同質の効果であるが、際だって優れた効果を有し、この効果が出願時の技術水準から当業者が予測することができたものではない場合』
上記審査基準では、引用発明に基づき本願発明の構成が容易想到であって、かつ同質の効果を示す場合であっても、その効果が際立って優れたものである場合に進歩性を肯定する可能性を示す。しかしながら、本願発明のように「化学的な解決方法(所定の加硫ゴム特性を有するゴム組成物をサイド補強層に用いる構成)」と「機械的な解決方法(空気入りタイヤの表面に乱流発生用突起を設ける構成)」とを組み合わせた場合、これらの解決方法が相互に連関するケースは殆どなく、その結果、1+1以上の効果を示すケース(つまり、効果の顕著性が認められるケース)は殆ど無いように思われる。したがって、例えば「化学的な解決方法」と「機械的な解決方法」とのように、異なる分野の解決方法を組み合わせて発明を構成する場合、構成が容易想到でない(例えば阻害要因の存在、技術分野・課題が異なることに起因した動機付け不存在)との主張をメインに進歩性主張の方法を模索すべきように思われる。
以上
(担当弁理士:山下 篤)

  • 平成27年(行ケ)10114号「タイヤ」事件(2016/5/18) [異なる技術思想の組み合わせ、阻害要因、効果の顕著性]