審決取消請求事件 » 平成27年(行ケ)10155号「タイヤの接地特性の測定装置」事件

名称:「タイヤの接地特性の測定装置」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成27年(行ケ)10155号  判決日:平成28年3月14日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:本件発明の認定、相違点の判断

[概要]
請求項記載の作用を奏する構成が引例の構成を含むとして、本願発明の進歩性を否定した審決が維持された事例。

[事件の経緯]
原告が、特許出願(特願2010-73266号)に係る拒絶査定不服審判(不服2014-8476号)を請求したところ、特許庁(被告)が、請求不成立の拒絶審決をしたため、原告は、その取消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本願発明](下線は争点として筆者が付した。)
【請求項1】
転動するタイヤの接地特性を測定する装置であって,
少なくとも,タイヤの接地圧,幅方向せん断応力及び周方向せん断応力を測定可能な測定手段を埋設された回転ドラムと,
該回転ドラムの回転速度を制御するドラム用駆動手段と,
測定対象としてのタイヤを,該回転ドラムの回転軸方向に一定のピッチ幅で相対的に変位させるとともに,該回転ドラムに対して接近及び離反する方向に変位させるタイヤ制御スタンドと,
前記タイヤの回転速度を制御するタイヤ用駆動手段と,
前記タイヤに所要のキャンバ角及びスリップ角を付与するタイヤ角制御手段とを具えたことを特徴とするタイヤの接地特性の測定装置。

[審決]
引用文献1と本願の相違点2:「測定対象としてのタイヤを,該回転ドラムの回転軸方向に一定のピッチ幅で相対的に変位させる」は、引用文献2に開示されていると認められ、引用文献1の「超小型圧力センサ25をドラム31の幅W3方向に一列に配置」することによるコストを削減するために、引用文献2を適用し得ると認定した。
審決において、本願発明の進歩性は否定された。

[取消事由]
1.手続違背
2.取消事由2(相違点2)についての判断の誤り
3.取消事由3(効果)についての判断の誤り

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
『2 取消事由2について
(1) 特許請求の範囲の解釈について
ア 原告は,本願発明の特許請求の範囲のうち,「測定対象としてのタイヤを,該回転ドラムの回転軸方向に一定のピッチ幅で相対的に変位させる」(本件構成)を,「測定対象としてのタイヤを,該回転ドラムの回転軸方向に一定のピッチ幅で連続的に相対的に変位させる」(連続的本件構成)との意味に解すべきであると主張するので,この点について判断する。
イ 「ピッチ」の意味
・・・(略)・・・
このように,「ピッチ」の語は,軸周りに回転する物が連続して動作する場合に用いられることもあるし,軸周りに回転する物の動作が連続していない場合に用いられることもある。したがって,本件構成は,「測定対象としてのタイヤを,該回転ドラムの回転軸方向に一定のピッチ幅で(連続的に)相対的に変位させる」,つまり,例えば,タイヤを回転ドラムに接触させて接地特性を計測しつつ,同じ速度で,回転ドラムの回転軸方向に,回転ドラムと相対的に移動させるとの意味(連続的本件構成)に解することもできるし,「測定対象としてのタイヤを,該回転ドラムの回転軸方向に一定のピッチ幅で(間欠的に)相対的に変位させる」,つまり,例えば,タイヤを回転ドラムの回転軸方向に対して移動させることなく,回転ドラムに接触させて接地特性を計測し,その後,一定の幅でタイヤを回転ドラムの回転軸方向に,回転ドラムと相対的に移動させ,その位置で回転ドラムに接触させて接地特性を計測し,以後,同じ作業を繰り返すとの意味(間欠的本件構成)に解することもできる。
・・・(略)・・・
ウ 本願発明の課題及び作用効果
(イ) 上記記載によれば,本願発明は,次のように理解される。
・・・(略)・・・
従来,3分力センサを試験路面に埋設し,車両を通過させることによって,センサ上を通過する瞬間のタイヤの接地圧,幅方向せん断応力及び周方向せん断応力を測定する方法や,タイヤ当接面に感圧センサーを取り付けたタイヤ押付板をタイヤとドラムの間に配置し,タイヤをドラムに当接させることによって,タイヤの接地圧を測定する方法がある(【0002】,【0005】)。
しかし,前者の方法では,①空気抵抗や試験路面の凹凸等の外部要因によって同一条件での計測を再現することが難しいという問題,②センサの耐久性や車両のコントロール性の観点から,車両の高速走行時,コーナリング時及び加減速時でのタイヤの接地特性を得ることができないという問題,③一回の試験では,タイヤの接地面のうち3分力センサ上を通過した部分のデータしか得られず,タイヤの接地面全体に渡っての接地特性の分布を得るためには,通過位置をずらしながら繰り返し試験を行う必要があり,効率的でないという問題,④一回毎の試験が大掛かりであるため,計測結果のデータ数を多量に確保できず,タイヤの接地領域を高い分解能で鮮明に表現できないという問題があり(【0003】,【0004】),また,後者の方法では,⑤使用する感圧紙の耐久性の課題から,高速回転時の計測が不可能であるという問題,⑥測定できるのは,タイヤの接地圧のみで,タイヤの幅方向せん断応力及び周方向せん断応力を測定することはできないという問題があった(【0005】)。
・・・(略)・・・
(ウ) 本願発明の,「回転ドラムの周面に埋設された測定手段が,接地領域に対して回転ドラムの回転軸方向に,一定のピッチ幅で相対的に遷移しながら,繰り返しこの接地領域を周方向に通過する」という作用は,連続的本件構成によっても,間欠的本件構成によっても生じる。
・・・(略)・・・
(オ) これに対して,原告は,間欠的本件構成によった場合には,測定位置をずらしながら繰り返し試験を行う必要があるから,高効率の測定ができず,時間がかかってタイヤに熱劣化が生じ,高精度,高い再現性のある測定ができないと主張する。
しかし,本願明細書において,時間がかかってデータ収集の効率が悪いという課題があったとされている従来技術は,試験路面に3分力センサを埋設してその上に車両を通過させるといった測定方法である。かかる従来技術に比べれば,間欠的本件構成による測定は,時間もかからず,効率が良いといえるし,タイヤに熱劣化が生じるとはいえない。
・・・(略)・・・
したがって,原告の主張には理由がない。』

[コメント]
請求項の特徴「測定対象としてのタイヤを,該回転ドラムの回転軸方向に一定のピッチ幅で相対的に変位させる」は作用的な記載であるため、その作用を実現する構成であれば、明細書に明記されていなくても全て含まれるように解釈された。紹介していないが、手続違背については、請求項の文言が「間欠的本件構成」を含むことを拒絶理由通知及び査定で明示していないことを取消理由に挙げている。この点を考慮すれば、実務において作用的記載を請求項に記載する場合には、自分が認識している構成以外の構成が含まれていないかを検討する必要があることを確認できた。
以上
(担当弁理士:坪内 哲也)