審決取消請求事件 » 平成27年(行ケ)10018号「マルチデバイスに対応したシステムで使用される装置等」事件

名称:「マルチデバイスに対応したシステムで使用される装置等」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成27年(行ケ)10018号  判決日:平成27年12月17日
判決:審決取消
特許法29条第2項
キーワード:適用阻害

[概要]
 引用発明に周知技術を適用すれば、引用発明の課題を解決することができなくなることは明らかであるとして、阻害要因があると認められた事例。

[事件の経緯]
 原告が、特許出願(特願2013-224753号)に係る拒絶査定不服審判(不服2014-10032号)を請求して補正したところ、特許庁(被告)が、請求不成立の拒絶審決をしたため、原告は、その取消しを求めた。
 知財高裁は、原告の請求を認容し、審決を取り消した。

[本件発明1(請求項1の分説)]
A :マルチデバイスに対応したシステムにおいて用いられる装置であって,
B :前記装置は,ネットワークを介して,前記マルチデバイスとしての複数の端末のうちの少なくとも1つの端末に接続されるように構成され,
B1:前記装置は,プロセッサ部とメモリ部とを含み,
B2:前記メモリ部には,少なくとも1つのスタイルシートが予め格納されており,前記少なくとも1つのスタイルシートのそれぞれは,コンテンツの表示形式を定義するものであり,前記少なくとも1つのスタイルシートのそれぞれは,前記少なくとも1つの端末のうちの1つに対応し,
C :前記プロセッサ部は,
C1:要求端末からの要求を前記ネットワークを介して受信することであって,前記要求端末は,前記少なくとも1つの端末のうちの1つである,ことと,
C2:前記要求端末のユーザ・エージェント情報を認識することにより前記要求端末のタイプを判定し,
C3:前記要求端末のタイプに応じたスクリプトを,前記ネットワークを介して,前記要求端末に送信し,前記送信されたスクリプトを前記要求端末が実行することによって前記要求端末において取得された前記要求端末の画面サイズを示す情報を,前記ネットワークを介して,前記要求端末から受信することによって,前記要求端末の画面サイズを示す情報を取得することと,
C4:前記要求端末の画面サイズを示す情報に少なくとも基づいて,前記少なくとも1つのスタイルシートのうちのスタイルシートを選択することと,
C5:前記選択されたスタイルシートに基づく情報を前記ネットワークを介して前記要求端末に提供することと
C :を行うように構成されている,
A :装置

[取消事由]
(1)引用発明の認定の誤り、一致点及び相違点の看過(取消事由1)
(2)容易想到性の判断の誤り(取消事由2)
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
 取消事由2(容易想到性の判断の誤り)
『⑵ 引用発明に周知技術Aを適用することの阻害要因について、‥‥(略)‥‥
『イ(ア) 前記2⑵のとおり,従来,サーバ装置から提供されるコンテンツデータは,端末装置の種類等の違いにかかわらず,同一の表示形式で提供されていたので,端末装置の画像解像度によっては,必ずしも提供されたコンテンツデータを適切に表示することができないという問題があった。その対策として,様々な種類の端末装置ごとに別々のコンテンツデータを製作(制作)し,それらのコンテンツデータを端末装置の種類ごとに分けてサーバ装置に用意しておく方法等があったものの,そのような方法においては,サーバ装置側に,バッチファイル等の複数の選択肢(例えば,バッチファイル等)をあらかじめ用意しておく必要があることから,端末装置の種類や機種の増加に伴って,サーバ装置側の製作負荷が膨大なものとなり,コストも増大するという問題がある。
 (イ) そこで,引用発明は,これらの問題をいずれも解決すること,すなわち,端末装置の特性や能力等に応じて別々のコンテンツ及び選択肢を用意することなく,コンテンツのメンテナンスに要する負担やコスト等を軽減しつつ,端末装置に応じた最適なコンテンツを提示することができる情報提示装置の提供を課題とした。そして,引用発明は,前記課題解決手段として,ユーザに対して情報を提示する端末装置の表示画面サイズを含む端末情報を取得し,コンテンツを構成するページに対応する構造化データに規定された素材データの提示形式を,前記端末情報に基づいて前記端末装置に合った提示形式に調整した上で,前記素材データをフォーマット変換してXHTML文書とCSSから成るページデータを生成するという構成を採用した。引用発明は,同構成を採用して,各コンテンツに係る素材データにつき,前記調整,変換を行い,最終的に各端末装置に合った提示形式を備えたページデータにすることにより,各端末装置の特性等に応じて複数のコンテンツ及び選択肢を用意しなくても,各端末装置に応じた最適なコンテンツを提供できるようにして,前記課題を解決するものである。
 ウ 他方,周知技術Aは,端末装置の種類(通常画面サイズも異なる)に対応する複数のスタイルシート(CSS)をあらかじめ用意しておき,そのうちの1つを選択するようにすることであり,これは,前記イ(ア)において従来技術の一例として挙げた「様々な種類の端末装置ごとに別々のコンテンツデータを製作(制作)し,それらのコンテンツデータを端末装置の種類ごとに分けてサーバ装置に用意しておく方法」と同様に,サーバ装置側に複数の選択肢をあらかじめ用意しておく必要があることから,端末装置の種類や機種の増加に伴って,サーバ装置側の製作負荷が膨大なものとなり,コストも増大するという問題を生じさせるものである。そして,この問題は,引用発明がその解決を課題とし,前記イ(イ)の課題解決手段の採用によって解決しようとした問題にほかならない。
 したがって,引用発明に周知技術Aを適用すれば,引用発明の課題を解決することができなくなることは明らかであるから,上記適用については,阻害要因があるものというべきである。』

[コメント]
 周知技術の適用にあたり引用文献の課題を考慮した事例である。権利化時又は無効化時において引用文献に記載の課題が阻害要因とならないかを検討することの重要性をあらためて本事案は示したものである。

以上
(担当弁理士:坪内 哲也)