審決取消請求事件 » 平成 23 年(行ケ)10021 号「積層材料、積層材料の製造方法、積層材料のヒートシール方法および包装容器」事件

名称:「積層材料、積層材料の製造方法、積層材料のヒートシール方法および包装容器」事件
拒絶審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 23 年(行ケ)10021 号 判決日:平成 23 年 10 月 24 日
判決:請求認容
特許法第 29 条第 2 項
キーワード:周知技術、技術分野の相違

[概要]
本願発明と引用発明との相違点について、当該相違点が引用発明と異なる技術分野で周知
技術であったとしても、当該相違点は周知とは言えないとされた事例。
また同じ技術分野の周知技術であったとしても、並列的な記載には選択する動機付けのな
いこと、さらに阻害事由を有することが指摘された事例。

[事件の経緯]
原告が、特許出願(特願 2003-53245 号)に係る拒絶査定不服審判(不服 2007-34187 号)
を請求して補正したところ、特許庁(被告)が、請求不成立の拒絶審決をしたため、原告は、
その取消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を認容し、審決を取り消した。

[本願発明]
【請求項1(補正後)】
少なくとも支持層及び熱可塑性最内層からなる包装容器用ウェブ状積層材料であって、該
容器形成のために高周波誘導加熱によりヒートシールされる帯域に、該誘導加熱により発生
した熱が該最内層に伝わるように該支持層と該熱可塑性最内層との間に積層された導電性層
を有し、該導電性層が、実質的に金属性導電材料からなる高周波誘導によって該ヒートシー
ルに十分な熱を発する無電解メッキ薄膜層であることを特徴とする積層材料。

[審決において認定された本願補正発明と引用発明1との相違点]
導電性層が、本願補正発明は、『高周波』誘導加熱により熱を発する『無電解メッキ薄膜』
層であるのに対し、引用発明1は、高周波誘導加熱によるかは明らかでない誘導加熱により
熱を発する『アルミ箔層』である点

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
取消事由1(本願補正発明と引用発明1との相違点についての認定判断の誤り)について
『審決は、前記第3、1(4) アにおいて原告が引用するとおり、要するに、周知技術を適用
することにより、高周波誘導加熱するための高周波磁束により渦電流を発生させ発熱体とな
る導電性層として、引用発明1の「アルミ箔層」に代えて、「非磁性基材上に無電解メッキ法
等により磁性メッキ層を形成したもの」を用いることは当業者が容易に想到し得た、と判断
している。
ところで、前記(2)で認定したとおり、引用発明1の「アルミ箔層」とは、流動性食品など
の内容物を充填する包装容器を形成するために使用される管状ウェブである多層構造体の一
層であり、この多層構造体は内側から順にポリエチレンフィルム層、接着剤層、アルミ箔層、
紙層及びポリエチレンフィルム層を積層したものであることから明らかなとおり、紙を構成
に含むものであって、本願補正発明と同じく、アセプチック包装やチルド包装の容器にも用
いられるものである。
しかし、引用発明1には、ウェブのアルミ箔に渦電流を流すことで、誘導加熱による熱を
発生させ、この熱でポリエチレンフィルム層を溶融させてウェブを横シールすることは記載
されているものの、ウェブのアルミ箔層に代えて、他の材料を使用することに関する記載や
示唆を見出すことはできない。
一方、審決が周知事項、周知技術と指摘する甲14、甲4及び甲5文献には、無電解メッ
キによって高周波誘導加熱層を有する材料を製造できることは記載されているものの、これ
らの文献はいずれも電磁加熱式調理器具などに用いられる発熱体に関するものであって、こ
れらの文献に記載された技術的事項を、紙を積層した多層材料から形成される包装材料の技
術に適用することについては何ら示唆がなく、またアルミ箔に代えて無電解メッキ薄膜を用
いることについても何ら記載がない。』
『以上のとおり、高周波誘導加熱するための高周波磁束により渦電流を発生させ発熱体とな
る導電性層として、「アルミ箔層」に代えて、「非磁性基材上に無電解メッキ法等により磁性
メッキ層を形成したもの」を置換することは、引用発明1の属するところの紙を積層した多
層材料から形成される包装材料の技術分野において周知技術であるとはいえない。
したがって、引用発明1に甲14、甲4及び甲5文献を適用することによって、本願補正
発明が容易に発明し得たとする審決の判断には誤りがあることになる。』
『被告は、甲14文献は、「誘導加熱」の基本原理及び誘導加熱は通常高周波誘導加熱を意味
する場合が多いという一般的な基本的事項を示すために用いた文献であって、甲14文献に
記載の誘導発熱体は家電用電気器具のみならず、事務機器用、電線被覆用、除氷用等といっ
た幅広い様々な技術分野に適用されるものであり、また、甲4及び甲5文献により、コスト
削減、生産性向上、省エネ化のため該磁性メッキ層を薄膜とする目的で無電解メッキ法を適
用することは本願優先日前に周知技術であったと主張する。
しかし、甲14、甲4及び甲5文献には、包装容器、包装材料を含めた技術分野について
は何ら記載されていないのであるから、これらの文献の記載された周知事項が、本願補正発
明の技術分野にも共通する周知事項であると直ちに認めることはできないし、仮に技術分野
が共通するといえたとしても、それだけでは当該技術分野において引用発明1の「アルミ箔
層」を他の「共通する材料」に変更する動機付けとして十分とはいえないというべきである。
仮に、磁性材料層のコスト削減、生産性向上、省エネ化を図るため、磁性メッキ層を薄膜
とすることが周知の課題であり、無電解メッキ法は所望の厚みの層を形成できるということ
が周知であったとしても、前記アで検討したとおり、そもそも引用発明1の「アルミ箔層」
を磁性メッキ層のような他の材料の層に変更することの動機付けは存在せず、磁性メッキ層
にすることを当業者は想到することができないのであるから、そのような周知の課題等の存
否は本願補正発明の容易想到性に直接関係がないといわざるを得ない。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。』
『乙2文献は、確かに食品包装分野における包装材料に関する点では本願補正発明の技術分
野に属するものと認められるが、乙2文献一例のみで同文献に記載の技術的事項が当然のよ
うに周知技術であると認めることはできない。仮にそうでないとしても、乙2文献には、金
属含有層として金属箔、金属蒸着膜、無電解メッキ膜、金属繊維ないし金属粉末の充填層が
並列的に記載されてはいるものの、実施例ではアルミ箔やスチール箔が採用されており、金
属箔よりも無電解メッキ膜を用いることを積極的に動機付ける記載は見当たらない。
したがって、乙2文献の記載が仮に周知技術であるとしても、同記載事項から当業者が引
用発明1においてアルミ箔層に代えて無電解メッキ膜を採用する動機付けが得られるとはい
えない。』
『さらに、引用発明1の多層構造体は、上記したようにポリエチレンフィルム層、接着剤層、
アルミ箔層、紙層及びポリエチレンフィルム層を積層したものであり、液体食品などを包装
するためのものであるが、引用発明1と同じく紙を含む積層材料から液体食品を包装する容
器を製造することに関する文献である、甲6文献の【請求項1】及び段落【0007】の記
載、そして、甲15文献の段落【0004】、【0007】ないし【0011】の各記載から
みて、アルミ箔層は、紙やポリエチレンフィルムなどの樹脂材料のような気体透過性を有す
る材料からなる多層構造体に、ガスバリア性を付与する機能を持っているものと認められる。
したがって、当業者が引用発明1の多層構造体を見たとき、アルミ箔層は、誘導加熱によっ
て熱を発生してポリエチレンフィルム層を溶融させる機能だけでなく、多層構造体にガスバ
リア性を付与する機能をも果たしていると理解することができ、また、液体食品の包装容器
において、食品の変質を防ぐためにはガスバリア性が重要であることも、当業者が容易に理
解するところである。
そうすると、引用発明1において、アルミ箔層を、ガスバリア性をアルミ箔層と同じレベ
ルで有するとはいえない他の材料に変更することには、むしろ阻害事由があるというべきで
ある。
したがって、仮に乙2文献の記載を参酌しても、引用発明1のアルミ箔層を無電解メッキ
薄膜に代えることを当業者が容易に想到しえるとはいえない。』

[コメント]
審決は引用発明の技術分野についてあいまいに判断することにより、引用発明と周知技術
とは組み合わせ容易想到(進歩性なし)と判断したが、裁判所は引用発明の技術分野を具体
的に認定し、審決で認定された周知技術に関し、その分野での周知性を否定している。さら
に裁判所は、引用発明と、裁判中に提出した同じ分野の周知技術とを組み合わせるに際し、
阻害事由の存在まで指摘している。一般に、周知技術を持ち出して進歩性を否定する際、特
許庁での認定はあいまいになる場合も少なくなく、進歩性否定の論理構成に反論できる余地
が十分にある場合がある。したがって、周知技術を示されて進歩性が否定された場合、引用
発明の技術分野を具体的に認定し、その技術分野での周知性認定の妥当性、および組み合わ
せることに対し、動機付けがあるか?阻害要因がないか?精査することが望まれる。
以上
(担当弁理士:山下 篤)