審決取消請求事件 » 平成27年(行ケ)10037号「斜板式コンプレッサ」事件

名称:「斜板式コンプレッサ」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成27年(行ケ)10037号 判決日:平成27年11月10日
判決:請求棄却
特許法29条1項3号、29条2項
キーワード:引用発明の認定、願書に添付される図面

[概要]
公開特許公報(引用文献)に掲載された図は設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らないため、当該引用文献の図面から、引用発明の課題、解決手段及び作用効果に直接関係のない技術的事項まで認識すべきではないとして、相違点に係る構成は引用文献に記載されていないとされた事例。

[事件の経緯]
被告は、特許第5229576号の特許権者である。
原告が、当該特許の請求項1~9に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無効2014-800073号)を請求したところ、特許庁が、請求不成立(特許維持)の審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本件発明]
【請求項1】
回転軸を中心に回転する斜板と,該斜板の回転に伴って進退動するとともに半球凹状の摺動面の形成されたピストンと,上記斜板に摺接する平坦状の端面部および上記ピストンの摺動面に摺接する球面部の形成されたシューとを備えた斜板式コンプレッサにおいて,
上記シューにおける上記球面部と端面部との間に筒状部を形成するとともに,該筒状部と端面部との境界部分に該筒状部よりも半径方向外方に突出して斜板に摺接するフランジ部を形成し,
上記フランジ部は上記ピストンの半球凹状の摺動面を含む仮想球面の内部に位置し,筒状部の径を上記ピストンにおける摺動面の開口部の径よりも小径としたことを特徴とする斜板式コンプレッサ。

[取消事由]
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)
2 取消事由2(予備的主張1―相違点の認定及び判断の誤り)
3 取消事由3(予備的主張2―相違点の認定及び判断の誤り)
※以下では、取消事由1についての判断のみ記載する。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
1 取消事由1について
『(イ) 以上のことをまとめると,甲1には,審決が認定したとおりの以下の発明(甲1発明)が記載されていると認められる。
「回転軸2を中心に回転する斜板11と,該斜板11の回転に伴って往復運動するとともに半球凹状の摺接面6bの形成されたピストン6と,上記斜板11に摺接する平坦面10aおよび上記ピストン6の摺接面6bに摺接する半球状凸曲面10dの形成されたシュー10とを備えた斜板式圧縮機において,上記半球状凸曲面10dと平坦面10aとの境界部分に上記半球状凸曲面10dよりも半径方向外方に突出して斜板11に摺接するフランジ部10bを形成した斜板式圧縮機。」
(2) 原告の主張について
ア 「筒状部」について
(ア) 原告は,甲1の図2に示されたシュー10の半球状凸曲面10dには,下図に示すように半球からずれる箇所が明確に存在するから,甲1に記載されたシュー10に筒状部が存在することは明らかであると主張する。

しかし,甲1には,筒状部についての記載は存在しないし,甲1発明の課題,解決手段及び作用効果(前記(1)イ(ア))から見ても,シュー10に筒状部の存在が想定されていると認めることはできない。
そもそも,甲1は公開特許公報であるから,甲1に掲載された図は,いずれも特許出願の願書に添付された図面に描かれたものであるところ,特許出願の願書に添付される図面は,明細書を補完し,特許を受けようとする発明に係る技術内容を当業者に理解させるための説明図であるから,当該発明の技術内容を理解するために必要な程度の正確さを備えていれば足り,設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らない。
そして,甲1発明は,前記(1)イ(ア)で述べたとおり,従来技術の課題を解決するために,平坦面10aを含み半球状凸曲面10dより外側に延びるフランジ部10bをシュー10に設けたものであり,平坦面10aの半径を半球状凸曲面10dの半径より小さくも大きくも設定できるものであるから,シュー10の詳細を示す側面図(甲1,【図面の簡単な説明】)である甲1の図2によって,フランジ部10bが平坦面10aを含み半球状凸曲面10dより外側に延びることや,平坦面10aの半径を半球状凸曲面10dの半径より小さくしたり大きくしたりできることは理解できるとしても,シュー10に筒状部が存在するか否かといった,甲1発明の課題,解決手段及び作用効果に直接関係のない技術的事項まで認識すべきものではない。
したがって,甲1の図2に示されたシュー10の半球状凸曲面10dには半球からずれる箇所(すなわち,筒状部)が明確に存在するとの原告の主張は,根拠がない。』

[コメント]
甲1の明細書には「筒状部」との記載はないものの、図2には半球形凸曲面10dの下端に上下方向に延びて筒状に見える部分が記載されており、原告は「筒状部」が存在することは明らかであると主張した。また、審決でも、甲1には「筒状部」が記載されていないものの、「筒状部」を設けることは当業者であれば容易であると判断された。
一方、本判決では、甲1には「筒状部」の記載は存在しないし、甲1発明の課題、解決手段及び作用効果から見ても、「筒状部」の存在が想定されていると認めることもできないと判断された。
新規性及び進歩性の判断において、引用文献の図面にのみ記載された事項が根拠とされて引用発明が認定される場合があるが、本判決のように引用発明の課題、解決手段及び作用効果も考慮のうえ、相違点に係る発明特定事項がその引用文献に記載されているといえるか否か検討すべきである。
以上
(担当弁理士:吉田 秀幸)