審決取消請求事件 » 平成26年(行ケ)10251号「真空吸引式掃除機用パックフィルター」事件

名称:「真空吸引式掃除機用パックフィルター」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成26年(行ケ)10251号  判決日:平成27年10月28日
判決:請求棄却
特許法29条1項3号
キーワード:引用発明の認定

[概要]
引用発明の特徴的技術事項であっても、本願発明の発明特定事項に関連しない技術事項まで認定する必要はないとされ、審決における引用発明の認定に誤りはなく、本願発明の新規性を否定した審決が維持された事例。

[事件の経緯]
原告が、特許出願(特願2010-229730号)に係る拒絶査定不服審判(不服2013-15756号)を請求したところ、特許庁(被告)が、請求不成立の拒絶審決をしたため、原告は、その取消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本願発明]
【請求項1】
真空吸引式掃除機に使用するパックフィルターであって、
表面積を大、中、小と異にする少なくとも3個の袋状のフィルター要素A、B、Cを備え、上記フィルター要素A、B、Cを重ねて少なくとも3段階のフィルターを構成するとともに、表面積の最も大きいフィルター要素Cと中間のフィルター要素B及び表面積の最も小さいフィルター要素Aの袋口を合わせて吸引口とし、
上記パックフィルターを重ねた、少なくとも、表面積の最も小さいフィルター要素Aと中間のフィルター要素Bとの間には内側空間、中間のフィルター要素Bと表面積の最も大きいフィルター要素Cとの間には外側空間、表面積の最も大きいフィルター要素Cの外側には外部空間を形成するものとし、
上記内側空間、外側空間、外部空間において少なくとも3段階の圧力降下を生じるようにフィルター要素Aの表面積をSA、フィルター要素Bの表面積をSB、フィルター要素Cの表面積をSCとするとき、SA<SB<SC、各フィルターA、B、Cにおける濾過速度をV1、V2、V3とするとき、V1>V2>V3としたことを特徴とする真空吸引式掃除機用パックフィルター。

[審決]
本願出願前に頒布された特開2010-82136号公報(以下、引用公報)に記載された発明(以下、引用発明)は、本願発明の発明特定事項をすべて備えており、両者の間に相違する点はない、と判断した。
審決において、本願発明の新規性は否定された。

[取消事由]
1.引用発明の認定の誤り
2.引用発明と本願発明との対比・判断の誤り

[原告の主張]
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)
『(前略)・・・引用発明においては,通気性を変化させる手段が必須不可欠の要件であるといえる。よって,上記構成を引用発明の認定から捨象することは恣意的であり,審決のした引用発明の認定には誤りがある。』

2 取消事由2(引用発明と本願発明との対比・判断の誤り)
省略

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
1.取消事由1(引用発明の認定の誤り)について
『(3) 引用発明の認定について
特許法29条1項3号は,「特許出願前に…頒布された刊行物に記載された発明」については特許を受けることができない旨を規定している。
本願発明の新規性の有無を判断する場合における引用発明の認定については,本願発明の発明特定事項のすべてが引用公報に記載されているかどうかを判断するために必要な技術事項が認定されるべきである。したがって,引用発明の認定は,本願発明の発明特定事項に対応する技術事項が客観的,具体的に認定されるべきであり,また,引用公報に発明特定事項に対応する技術事項が記載されていないとの判断を導く関連技術事項も記載されている場合には,これも加えて引用発明として認定する必要がある。これに対し,引用発明の特徴的技術事項であっても,本願発明の発明特定事項に関連しない技術事項まで認定する必要はない。
引用発明は,前記認定のとおり,袋体の通気性が変化する構成をその特徴的構成とするものではあるけれども,ここで検討すべきは,この袋体の通気性が変化する構成が,本願発明の発明特定事項に対応する技術事項あるいは発明特定事項に対応する技術事項が記載されていないとの判断を導く関連技術事項かどうかである。
まず,本願の請求項1は,各フィルター要素の通気性について何も記載していないから,引用発明における各袋体の通気性が変化する構成が,本願発明の発明特定事項に対応する技術事項でないことは明らかである。
次に,引用公報における袋体の通気性が変化する構成が,引用公報に本願発明の発明特定事項に対応する技術事項が記載されていないとの判断を導く関連技術事項かどうかについては,次の取消事由2(2)においてまとめて判断する。』

2.取消事由2(引用発明と本願発明との対比・判断の誤り)について(取消事由1のうち、上記部分についての判断も含む。)
『(2) 引用発明の袋体部の通気性について
前記認定の引用公報における各袋体の通気性が変化する構成について,本願発明の発明特定事項に対応する技術事項が記載されていないとの判断を導く関連技術事項かどうかを判断する。
まず,本願の請求項1には,本願発明を特定する事項として,各フィルター要素の通気性に関する構成が記載されていないことは前記のとおりである。
そして,請求項1を引用する請求項2には,「表面積を大,中,小と異にする少なくとも3個の袋状のフィルター要素は,夫々のメッシュが事実上同じであることを特徴とする請求項1記載の真空吸引式掃除機用パックフィルター」との記載があり,各フィルター要素について事実上それぞれのメッシュが同じであるとの限定がされていることを考慮すると,請求項1に係る本願発明は,「表面積を大,中,小と異にする少なくとも3個の袋状のフィルター要素は,夫々のメッシュが同じであること」に限定されないもの,すなわち各フィルター要素がそれぞれ異なるメッシュで構成されるものを含み得ると解するのが相当である。このように,本願発明は,各フィルター要素の通気性がそれぞれ異なる構成であることを排除するものとは認められない。
そうすると,本願発明は,引用発明の各袋体の通気性が変化する構成のものを排除するものではなく,このような構成のものを包含する発明であると認められ,かつ,本願の請求項1は,各フィルター要素間の空間の形成と各フィルター要素の表面積の大小関係及びこれに伴う各フィルター要素における濾過速度の大小関係を規定するものであり,各フィルター要素の通気性に関する構成は,本願発明とは関連しない技術事項であると認められるから,引用公報における袋体部の通気性が変化する上記構成は,引用公報に本願発明の発明特定事項が記載されていないとの判断を導く関連技術事項であるとはいえない。よって,審決が,本願発明の新規性の判断に当たり,引用公報に記載された各袋体の通気性が変化する構成を捨象して引用発明を認定したことに誤りはなく,原告の主張する取消事由1は理由がない(なお,引用発明の認定において,新規性の判断に必要な関連技術事項かどうかが明確ではない場合には,当該技術事項も含めて引用発明を認定し,その上で,本願発明の新規性を判断する手法も実務上見かけるところであり,このような判断手法も誤りであるとはいえない。また,上記の判断は,新規性の認定判断についていえることであり,進歩性の判断において,引用発明の特徴的技術事項が引用発明と公知発明との組合せの容易想到性の判断に影響を及ぼす場合があることとは異なる。)。
なお,原告は,取消事由1において,引用発明においては,通気性を変化させる手段が必須不可欠の要件であり,同構成を引用発明の認定から捨象することは恣意的であり,審決のした引用発明の認定には誤りがあると主張する。
しかし,前記認定のとおり,本願の請求項1には,本願発明を特定する事項として,各フィルター要素の通気性に関する構成が一切記載されておらず,本願発明は,各フィルター要素間の空間と各フィルター要素の表面積の大小関係及びこれに伴う各フィルター要素における濾過速度の大小関係を規定するものであり,各フィルター要素の通気性が変化する構成は,本願発明とは直接関連しない技術事項であるから,審決が引用公報に記載された袋体の通気性の変化に関する構成を引用発明として認定しなかったとしても,その認定には誤りがないというべきである。原告の上記主張は採用し得ない。
また,原告は,取消事由2において,引用公報の請求項1及び【0044】の記載からみて,袋体部28Aにおいて通気性を変化させる手段が必要という構成は引用発明におけるかなめであり,少なくとも,このような通気性変化を必要とする発明と,通気性変化を必要としない発明(本願発明)が同一であるということはない旨主張する。
確かに,引用発明は,その袋体部の通気性の変化に関する構成を必須の構成とするものである。しかし,本願発明は,フィルター要素について,その通気性の変化に関する構成を何ら規定するものではなく,また,引用発明のように「通気性変化を必要とする」構成を排除するものと認められないことは前記認定のとおりである。このように,本願発明は,各フィルター要素に通気性変化があるか否かとは関わりなく成立する発明であるから,引用発明が通気性変化を必須とする発明であることを理由に,引用公報に本願発明が記載されていないとする原告の上記主張は採用することができない。』
以上のように、審決の引用発明の認定に誤りはないとして、請求が棄却された。

[コメント]
本判決文では、新規性の有無を判断する場合における引用発明の認定手法について、詳しく触れられている。基本的な内容が述べられているに過ぎないが、特許に馴染みの薄い出願人や発明者にとっては、往々にして、この相違点の考え方は理解しにくい。実務を行う代理人としては、この点について特に、顧客への丁寧で分かりやすい説明とアドバイスを心掛けるべきであろう。

以上
(担当弁理士:椚田 泰司)