審決取消請求事件 » 平成26年(行ケ)10026号「燃料電池用石油系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼」事件

名称:「燃料電池用石油系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成26年(行ケ)10026号  判決日:平成27年9月24日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:動機づけ、予測困難、用途限定

[概要]
合金に係る本件発明と引用発明において、相違点1(組成)を判断せず、相違点2(用途)に要求される同質で高度な特性を、引用発明から予測困難であり、用途の異なる引用発明を本件発明に適用する動機付けはないと判断し、用途の相違のみから進歩性を肯定した事例。

[事件の経緯]
原告は、被告(特許権者)の特許第3886785号に対して、当該特許の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無効2013-800086号)を請求し、被告が訂正を請求したところ、特許庁が訂正を認め、無効審判の請求は成り立たないと審決を下したため、原告が審決の取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却し、審決が維持された。

[本件発明]
【請求項1(訂正後)】
Cr:8~35質量%、C:0.03質量%以下、N:0.03質量%以下、Mn:1.5質量%以下、S:0.008質量%以下、Si:0.8~2.5質量%及び/又はAl:0.6~6.0質量%を含み、更にNb:0.05~0.80質量%、Ti:0.03~0.50質量%、Mo:0.1~4.0質量%、Cu:0.1~4.0質量%の1種又は2種以上を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Si及びAlの合計量が1.5質量%以上に調整された組成を有していることを特徴とする燃料電池用石油系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼。

[審決が認定した相違点](抜粋)
相違点2:本件発明が燃料電池用石油系燃料改質器用と規定しているのに対して、引用発明1-1がこれらを規定していない点。

[取消事由]
(1) 引用発明1に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由1)
(2) 引用発明2に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由2)
※以下、取消事由1についてのみ記載する。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
<取消事由1(引用発明1に基づく容易想到性の判断の誤り)について>
『・・・(略)・・・そして、当業者が、引用発明1-1に基づいて、引用発明1-1に開示されたフェライト系ステンレス鋼を、本件発明1の燃料電池用石油系燃料改質器の用途に使用することを容易に想到できたか否かを判断するに当たっては、引用発明1-1に係るフェライト系ステンレス鋼について、これを本件発明1の燃料電池用石油系燃料改質器用のフェライト系ステンレス鋼に用いることについての動機付けがあり、本件発明1の上記の高温水蒸気耐酸化性、耐熱疲労特性、高温強度を備えるものとすることを容易に想到し得るかを検討しなければならない。
イ 引用発明1-1のフェライト系ステンレス鋼は、自動車エンジンのマニホールドなどの材料に好適なものとされており、引用例1には、引用発明1-1のフェライト系ステンレス鋼を燃料電池用石油系燃料改質器の部材として使用することについての記載も示唆もない。』
『引用発明1-1のフェライト系ステンレス鋼は、高温環境における耐酸化性に優れているとはいえ、それは自動車エンジンのマニホールドが好適な用途であるとされていることから、排気ガスレベルの水蒸気(約20体積%H2O)下での高温水蒸気耐酸化性を有することが推認できるにすぎないのであって、50体積%H2O以上という高濃度水蒸気下において燃料電池用石油系燃料改質器に要求されるだけの高温水蒸気耐酸化性を有するかについては、これを肯定し得るだけの周知技術の存在を認めることはできない。』
『そして、引用発明1-1の耐酸化試験は大気雰囲気下であり、本件発明の実施例における高温水蒸気酸化試験は50体積%H2Oの雰囲気下であって、本件発明の実施例の酸化条件の方が、引用発明1-1の実施例よりも、水蒸気雰囲気の点において、圧倒的に厳しいものであるから、引用発明1-1のフェライト系ステンレス鋼を、本件発明の実施例における高温水蒸気酸化試験と同一の酸化条件で耐酸化試験をした場合には、酸化による重量増加量は3.27mg/cm2を超え、本件発明の評価基準である2.0mg/cm2以下とならないことは明らかである。このことは、引用発明1-1のフェライト系ステンレス鋼が、高濃度水蒸気下での高温耐酸化特性の点で、本件発明1の燃料電池用石油系燃料改質器用に用いることができないことを示すものということができる。』
『このように、引用発明1-1のフェライト系ステンレス鋼の熱疲労性試験と、本件発明の実施例における熱疲労性試験とでは、試験条件及び評価基準が異なることから、引用発明1-1の熱疲労性試験の結果をもって、引用発明1-1のフェライト系ステンレス鋼が、本件発明の実施例における熱疲労試験の評価基準を満たすか否かは不明というほかない。
そうすると、当業者といえども、引用発明1-1のフェライト系ステンレス鋼を燃料電池用石油系燃料改質器に用いるとした場合に、燃料電池用石油系燃料改質器に要求される耐熱疲労特性を有することを予測することはできないというべきである。』
『(ア) 前記アないしエによれば、引用例1には、引用発明1-1のフェライト系ステンレス鋼を燃料電池用石油系燃料改質器の部材として使用することについての記載も示唆もない上、当業者であっても、引用発明1-1に係るフェライト系ステンレス鋼が、少なくとも燃料電池用石油系燃料改質器に要求される高温水蒸気耐酸化性及び耐熱疲労特性を備えるものと予測することは困難であるから、引用発明1-1のフェライト系ステンレス鋼を燃料電池用石油系燃料改質器に用いることについての動機付けがないというべきである。
そうすると、当業者が、引用発明1-1に基づいて、引用発明1-1のフェライト系ステンレス鋼を、燃料電池用石油系燃料改質器に用いることを容易に想到し得たということはできない。』
以上のように、原告主張の取消事由はいずれも理由がないから、本件審決にこれを取り消すべき違法はなく、原告の請求が棄却された。

[コメント]
本判決にもあるように、合金は、その構成(成分及び組成範囲等)から、どのような特性を有するか予測することは困難であり、その構成が異なれば、同じ製造方法により製造しても、得られる特性が異なることは技術常識である。
しかし、本判決では、石油系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼(合金)の構成について判断していない。本判決では、燃料電池用(用途)に要求される高レベルの特性を考慮して、燃料電池用とは異なる用途に係る引用発明や周知技術に基づいて本件発明が容易に想到することはできないと判断した。本判決によれば、具体的な用途の相違のみによる進歩性の主張が可能であり、拒絶対応の実務等においても有用であり、注目すべきである。
以上
(担当弁理士:西﨑 嘉一)