審決取消請求事件 » 平成 26 年(行ケ)10235 号「洗浄剤組成物」事件

名称:「洗浄剤組成物」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 26 年(行ケ)10235 号 判決日:平成 27 年 8 月 26 日
判決 : 請求認容
特許法 167 条
キーワード:同一の事実及び同一の証拠・主引用発明

[概要]
主引用発明が異なる場合も、主引用発明が同一でこれに組み合わせる公知技術あるいは周
知技術が異なる場合も、いずれも異なる無効理由となると判断された事例。

[本件発明1]
水酸化ナトリウム、アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類、及
びグリコール酸ナトリウムを含有……を特徴とする洗浄剤組成物。

[本件審決の理由]
ア 本件審判における主引用発明は、甲3公報及び甲4公報に記載された「OS1」なる金
属イオン封鎖剤組成物に係る発明であり、第2審判における主引用発明と実質上の差異がな
い、イ 周知技術は、甲1文献及び甲2公報に記載されている技術事項である「洗浄剤の分野
において、(アミノカルボン酸の誘導体から構成される)コンプレクサン型キレート剤を水酸
化ナトリウムとともに使用すること」であり、ウ 原告の無効理由は、本件発明1は、上記周
知技術の存在の下、主引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであ
る、と理解される、エ 原告は、第2審判においても、甲3公報及び甲4公報に記載された「O
S1」なる金属イオン封鎖剤組成物に係る発明を主引用発明とし、これに「第3級アミン誘
導体であるキレート剤と水酸化ナトリウムの併用添加」という、洗浄剤における周知技術の
存在の下、本件発明1の容易想到性を主張し、第2審決は、この無効理由について、理由が
ないと判断し、確定した、オ 本件審判において新たに提出された甲1文献は、第2審決が審
理対象とした特定の周知技術の存在か、その技術の背景(技術的課題)を証明するに過ぎず、
新たな事実関係を証明する価値を有する証拠とは評価することができない、カ よって、本件
審判において原告が主張する無効理由は、第2審判において、原告が主張した無効理由と実
質的に同一であり、同一の事実及び同一の証拠に基づくものであるから、本件審判は、第2
審決の一事不再理効に反して請求されたものである。

[裁判所の判断]
当裁判所は、本件審判は、第2審決で既に審理判断された無効理由と、同一の事実及び同
一の証拠に基づく請求であるとは認められないから、……本件審判の請求を却下した本件審
決にはこれを取り消すべき違法があると判断する。その理由は、以下のとおりである。
……
3 本件審判における無効理由と本件審決の認定の誤りについて
(1) 本件審判において原告が主張した無効理由は、次のとおりである(甲8)。
……
本件審判の請求書における上記記載によれば、原告は、本件審判の無効理由として、甲1
文献に記載された従来技術と甲3公報に記載された「OS1」との組合せによる容易想到性
(特許法29条2項)を主張している……と解される。
……
これに対し、本件審決は、前記認定のとおり、本件審判において原告が主張する無効理由
における主引用発明は、第2審判における主引用発明である、甲3公報ないし甲4公報に記
載された「OS1」なる金属イオン封鎖剤組成物(引用発明1bないし引用発明2b)であ
ると認定したのであり、本件審決のこの認定は誤りである。
(2) 特許発明が出願時における公知技術から容易想到であったというためには、当該特許発
明と、対比する対象である引用例(主引用例)に記載された発明(主引用発明)とを対比し
て、当該特許発明と主引用発明との一致点及び相違点を認定した上で、当業者が主引用発明
に他の公知技術又は周知技術とを組み合わせることによって、主引用発明と、相違点に係る
他の公知技術又は周知技術の構成を組み合わせることが、当業者において容易に想到するこ
とができたことを示すことが必要である。そして、特許発明と対比する対象である主引用例
に記載された主引用発明が異なれば、特許発明との一致点及び相違点の認定が異なることに
なり、これに基づいて行われる容易想到性の判断の内容も異なることになるのであるから、
主引用発明が異なれば、無効理由も異なることは当然である。
これを本件についてみれば、……甲1文献に記載された主引用発明は、「2%以上の水酸化
ナトリウム熱水溶液及びEDTA等のキレート剤を含有するガラス瓶の洗浄剤組成物」であ
るから、水酸化ナトリウム水溶液とキレート剤を含む洗浄剤組成物の点で本件発明1と一致
し(水酸化ナトリウムの含有量も重複している。)、キレート剤として、本件発明1が「アス
パラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸及びグリコール酸ナトリウムを含
有」するのに対し、甲1文献に記載された主引用発明は、EDTA等であり、キレート剤の
組成において相違するものと認められる。これに対し、本件発明1と第2審判における主引
用発明との一致点及び相違点1’ないし相違点4’又は相違点5’ないし相違点8’は、前記認定
のとおりであり、これとは明らかに異なるものである。
また、主引用例は、特許発明の出願時における公知技術を示すものであればよいのである
から、甲1文献のように出願時における周知技術を示す文献であっても、主引用例になり得
ることも明らかであり、これを主引用例たり得ないとする理由はない。さらに、主引用発明
が同一であったとしても、主引用発明に組み合わせる公知技術又は周知技術が実質的に異な
れば、発明の容易想到性の判断における具体的な論理構成が異なることとなるのであるから、
これによっても無効理由は異なるものとなる。
よって、特許発明と対比する対象である主引用例に記載された主引用発明が異なる場合も、
主引用発明が同一で、これに組み合わせる公知技術あるいは周知技術が異なる場合も、いず
れも異なる無効理由となるというべきであり、これらは、特許法167条にいう「同一の事
実及び同一の証拠」に基づく審判請求ということはできない。
(3) ア 被告は、無効理由は、主引用例と副引用例の公知文献の組合せによって特定される
から、周知技術は無効理由を必ずしも特定する事実ではない……と主張する。
しかし、無効審判において審理判断の対象となる無効理由は、特定の公知文献をもって特
定される公知技術のみによって構成されるものではなく、公知技術と周知技術との組合せや、
場合によっては周知技術のみによっても構成し得るものであるから、周知技術であるから、
無効理由を特定する事実ではないとの被告の上記主張は採用することができない。……

[コメント]
「主引用発明が異なる場合も、主引用発明が同一で、これに組み合わせる公知技術あるい
は周知技術が異なる場合も、いずれも異なる無効理由となる」と裁判所は判断した。「主引用
発明が異なる場合」に該当するか否かは判断しやすいだろうが、「公知技術あるいは周知技術
が異なる場合」に該当するか否かは判断しにくいかもしれない。