審決取消請求事件 » 平成26年(行コ)第10004号、同第10005号「ヘテロアリールピペラジン誘導体」事件

名称:「ヘテロアリールピペラジン誘導体」事件
平成26年(行コ)第10004号、同第10005号 行政処分取消義務付け等請求控訴事件、
同附帯控訴事件(原審 東京地方裁判所平成24年(行ウ)第591号)
知的財産高等裁判所第3部
判決日:平成27年6月10日
判決:請求一部取消等
関連条文:特許法第195条の4、行政不服審査法第4条1項ただし書、行政事件訴訟法3条6
項2号、14条1項・3項、37条の3第7項、特許法17条の2、51条
キーワード:行政不服審査法による異議申し立て

[概要]
特許査定に対して行政不服審査法による不服申立てをすることはできないことが示された事例

[特許査定された特許請求の範囲]
下記化学式1で表される1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]
-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体又は薬剤学的に許容可能なそれらの塩。

前記化学式1において、・・・R1はフッ素であり、R2は塩素であり、R3は・・・」

[主な争点]
・本件特許査定の取消しの訴えの適法性

[原審の判断]
原審では、特許査定がなされた内容が、予め審査官と出願人との間で合意した内容と異なるもの
であり、審査官に手続上の重大な瑕疵があったとして、特許査定の取消が認められた。

[裁判所の判断]
(本件特許査定の取消しの訴えの適法性)
・・・法における「査定」の用法,法195条の4の規定の制定経過等に照らして,「査定」の文
言は文理に照らして解することが自然であり,このように解しても,特許査定の不服に対する司
法的救済の途が閉ざされるものではないこと,特許査定に対し,司法的救済のほかに行政上の不
服申立ての途を認めるべきかどうかは立法府の裁量的判断に委ねられており,その判断も不合理
とはいえないことからすれば,法195条の4の「査定」が拒絶査定のみに限定され,あるいは,
処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定はこれに含まれないと解すべき理由
があるとは認めることができない。そうすると,法195条の4の規定により,本件特許査定に
対して行服による不服申立てをすることは認められないから,本件異議申立ては不適法なもので
あって,これを前提として,本件訴訟における本件特許査定の取消しの訴えについて行訴法14
条3項の規定を適用することはできない。そして,本件特許査定の取消しの訴えが,本件特許査
定謄本の被控訴人らへの送達から6か月を経過した後に提起されていることは,前記(1)のとおり
である。また,その期間の徒過に正当な理由があることについては,被控訴人らから何らの主張
立証もない(なお,本件却下決定がされたのは,上記6か月が経過する前であり,同決定(甲1
5)において,法195条の4の「査定」に特許査定が含まれる旨の説示もされていた。)。よっ
て,本件特許査定の取消しの訴えは,行訴法14条1項の定める出訴期間を徒過して提起された
不適法な訴えであるといわざるを得ず,却下を免れない。したがって,予備的請求に係る本件特
許査定の取消しの訴えについて,出訴期間を遵守した適法な訴えであるとした原判決は,取消し
を免れない。
(本件却下決定についての取消事由の有無について)
・・・法195条の4の「査定」には拒絶査定のみならず特許査定も含まれると解される。そう
すると,特許査定は,行服法4条1項ただし書の「他の法律に審査請求又は異議申立てをするこ
とができない旨の定めがある処分」に当たる。したがって,本件特許査定に対して行服法に基づ
く異議申立てをすることは認められないから,本件異議申立ては,同項に違反し不適法であり,
却下を免れない。そうすると,これと同旨の理由に基づき,本件異議申立てを却下した本件却下
決定に誤りはなく,同決定に取消事由があるということはできない。この点に関する被控訴人ら
の主張は,採用することができない。したがって,原判決中,予備的請求に係る本件却下決定の
取消請求を認容した原判決は,取消しを免れない。なお,同じ理由により,主位的請求に係る本
件却下決定の取消請求も理由がないことは明らかである。したがって,これを棄却した原判決は,
結論において相当である。
(本件補正書の記載は錯誤により無効となるか)
・・・法は,書面主義の下で,錯誤による書面の記載内容と真意との間の齟齬の是正については
厳格な要件の下にのみこれを許容しているものといえるから,ある書面が,作成者の真意とは異
なる内容の記載になっていたとしても,その真意を問わず,書面の記載に従って手続が進められ
るものであって,そのことは,我が国における特許出願,審査のルールとして,手続に関わる者
において周知のことといえる。
そうすると,仮に,真意と異なる記載について,法の規定によらずに,一般的な意思表示の錯
誤を理由としてその効果を否定することができる余地があり得るとしても,それは,上記のよう
な法の趣旨に照らしても許容することができる場合に限られるというべきである。そして,上記
の法の趣旨を勘案すると,そのような錯誤が認められる場合としては,その齟齬が重大なもので
あることに加えて,少なくとも,当該書面の記載自体から,錯誤のあることが客観的に明白なも
のであり,その是正を認めたとしても第三者の利益を害するおそれがないような場合であること
が必要であるというべきである。
そこで,上記の観点から,本件補正書の記載内容について錯誤による無効が認められるか否か
を,以下に検討する。
・・・本件補正書の記載については,上記のとおり,審判請求書の記載内容とも整合し,それ自
体整ったものといえるから,その記載自体から,錯誤があることが客観的に明白なものと認める
ことはできないし,その是正を認めた場合に第三者の利益を害するおそれがないということもで
きない。したがって,被控訴人らに錯誤があったことを理由に,本件補正が無効であるというこ
とはできず,この点に関する被控訴人らの主張は,採用することができない。
ウ 被控訴人らの主張について
・・・前記アにおいて検討した書面主義の考え方からすれば,書面の記載内容はその提出者の意
思を反映しているものとして取り扱われるのであり,特許出願においては,願書や添付書類,補
正書に記載されたところの特許出願が審査官による審査の対象となる。そうすると,審査官は,
出願人の出願に係る上記書面に記載された発明が,特許要件を満たすかどうかを判断すれば足り,
これを超えて,出願人の出願内容がその真意に沿うかどうかを確認すべき義務を負うものではな
いというべきである。・・・よって,被控訴人らの上記主張は,いずれも採用することができない。
そうすると,本件補正が錯誤により無効であることを前提とする本件特許査定の無効の主張は理
由がない。」