審決取消請求事件 » 平成26年(行ケ)10175号「振動低減機構および振動低減機構の諸元設定方法」事件

名称:「振動低減機構および振動低減機構の諸元設定方法」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 26 年(行ケ)10175 号 判決日:平成 27 年 4 月 28 日
判決:請求認容(審決取消)
特許法29条1項及び2項
キーワード:本件発明の認定

[概要]
原告は、発明の名称を「振動低減機構および振動低減機構の諸元設定方法」とする特許第
4968682 号の特許権者である。
被告が、当該特許の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無
効 2013-800102 号)を請求し、特許庁が、当該請求項1及び2に係る発明についての特許を
無効とする審決をしたことから、原告がその取消しを求めた事案。

[訂正発明]
【請求項1】
多層構造物の振動を低減する機構であって,
多層構造物の全層を除く任意の層に,層間変形によって作動して錘の回転により回転慣性質量
を生じる回転慣性質量ダンパーを設置するとともに,該回転慣性質量ダンパーと直列に付加バネ
を設置し,回転慣性質量と付加バネとにより定まる固有振動数を前記多層構造物の固有振動数や
共振が問題となる特定振動数に同調させてなることを特徴とする振動低減機構。
【請求項2】
・・・(略)・・・

[取消事由]
1.本件発明の認定の誤り-「同調」の意義に関して
2.無効理由2(甲1号証及び甲13号証に基づく進歩性欠如)に係る判断の誤り
3.無効理由3(甲10号証及び甲9号証に基づく進歩性欠如)に係る判断の誤り
※以下、取消事由1についてのみ記載する。

[審決(特許庁の判断)]
特許請求の範囲の「同調」とは、発明の詳細な説明の「回転慣性質量ダンパーと付加バネとに
より定まる固有角振動数Ωを構造物全体の固有1次角振動数ω1に同調させた場合、つまり、Ω
2=k0/Ψ0=ω12となる」(段落【0027】)との記載等によれば、回転慣性質量と付加
バネとにより定まる固有振動数を、多層構造物の固有振動数や共振が問題となる特定振動数に「一
致」させることを意味する。

また、発明の詳細な説明には、その他に「構造物の振動を低減するための機構として、たとえ
ば特許文献1に示されているような所謂チューンド・マス・ダンパー(Tunned Mass Damper:
TMD)が知られている。これは、構造物に付加バネを介して付加質量を接続し、それらの付加
バネと付加質量により定まる固有振動数を構造物の固有振動数に同調させることにより、構造物
の共振点近傍における応答を低減するものである。【特許文献1】特開昭63-156171号公
報」(段落【0002】、下線は当審が付与。)との記載がある。

そこで、この記載における「同調」の意味を確認するために、特開昭63-156171号公
報を参照すると、同公報には、・・・(略)・・・との記載があり、この記載によれば、「同調」と
は、・・・(略)・・・主振動系の振幅倍率の最大値を最小にすることを意味する。

そうすると、特許請求の範囲の「同調」とは、回転慣性質量と付加バネとにより定まる固有振
動数と多層構造物の固有振動数や共振が問題となる特定振動数とを、発明の詳細な説明に記載さ
れる「従来一般のTMDによる場合に比べて格段に優れた振動低減効果を得ること」(段落【00
06】)や、「多層構造物全体に対して大きな振動低減効果が得られる」(同)等の作用効果を達成
できるように特定の関係とすることと解される。

[裁判所の判断]
ア 長倉三郎ほか編「岩波 理化学辞典 第5版」(平成10年4月岩波書店発行,甲19)にお
いては,「同調」につき,「受信機などで共振回路の共振周波数を目的の周波数に合わせること」
と説明されており,同説明によれば,一般的な理化学用語としての「同調」は,「一致」を意味す
るものと解される。

イ(ア) 本件訂正明細書中,本件発明の「同調」の意義を端的に説明する記載は,見られない。
しかしながら,本件発明の「回転慣性質量と付加バネとにより定まる固有振動数を前記多層構
造物の固有振動数や共振が問題となる特定振動数に同調させ」(本件請求項)につき,本件訂正明
細書には,以下の記載が存在する。
【0012】
・・・(略)・・・
【0013】
・・・(略)・・・
(イ) これらの記載内容は,「回転慣性質量ダンパー1の回転慣性質量Ψ0と付加バネ2のバ
ネ定数k0とにより,Ω2=k0/Ψ0として定まる固有角振動数Ω」を,構造物全体の固有1
次角振動数ω1,固有2次角振動数ω2,更に高次の固有角振動数等に「一致」させることによ
って,その振動数での構造物の応答を低減させるというものである。

ウ 以上によれば,本件発明の「同調」とは,「一致」を意味するものと解される。
・・・(略)・・・
以上によれば,本件審決は,本件発明の「同調」の意義を,誤って認定したものといえる。
・・・(略)・・・

なお,本件訂正明細書の段落【0002】には,従来のTMDにつき,「付加バネと付加質量に
より定まる固有振動数を構造物の固有振動数に同調させる」ものであると記載されているが,こ
こでいう「同調」とは,従来技術における,付加バネと付加質量とにより定まる固有振動数と構
造物の固有振動数との関係を示したにすぎないものであることが明らかであり,前記に認定した
本件発明における「同調」の技術的意味を左右するものではない。

・・・(略)・・・
以上によれば,原告の取消事由はいずれも理由があるから,本件審決は取消しを免れず,よって,
主文のとおり,判決する。

[コメント]
明細書に記載された「同調」について、異なる意味で使用されていたために問題となった。
具体的には、【背景技術】の欄に記載された従来技術の「同調」は、広い意味で使用されてい
るのに対して、【発明を実施するための最良の形態】の欄に記載された本件発明の「同調」は、
狭い意味で使用されていたために、問題となった。

このような問題は、例えば、「一定」、「特定」、「同じ」等のような用語において、点である
のか、ある程度の範囲があるものなのか、という点で同様に発生する。

したがって、当然ではあるが、明細書において、本件のように、①似ているものの厳密に
は異なる意味で使用する場合は、異なる用語を使用するべきであるし、②定義が必要な用語
については、明確に定義をすべきである。