IP case studies判例研究

平成26年(行ケ)10179号「心血管の機能を向上する為の組成物及び方法」事件

名称:「心血管の機能を向上する為の組成物及び方法」事件(拒絶審決取消請求事件)
知的財産高等裁判所第3部:平成 26 年(行ケ)10179 号 判決日平成 27 年 4 月 13 日
判決: 請求棄却(拒絶審決を維持)
特許法第29条第2項、民事訴訟法 52 条第 1 項
キーワード:進歩性、共同訴訟参加の申出
[概要]
引用発明には本願発明と同一有効成分および同一疾患に対処するための投与が開示され、本願
発明で特定された投与態様は容易想到で進歩性がないとした審決の判断が維持された事例
出訴期間満了日を経過した後の共同訴訟参加の申出が却下された事例
[特許請求の範囲]
2~8グラムのD-リボースを含んで成る、低下した心血管機能を有する患者の心血管機能改善
剤であって、3週間以上にわたり毎日1~4 回該患者に投与されることを特徴とする剤。
<審決の理由>
(1)引用発明との一致点:D-リボースを含んで成る、低下した心血管機能を有する患者の
心血管機能改善剤であって、該患者に投与されることを特徴とする剤
(2)相違点1:本願発明では剤中のD-リボース量が2~8グラムであるのに対し、引用発
明では明記されていない点
相違点2:剤の投与期間が、本願発明では「3週間以上にわたり毎日」であることが定
められているのに対し、引用発明では投与期間が定められていない点
[主な争点]
(1)取消事由1:一致点及び相違点についての認定の誤りについて
引用文献1に「心血管機能改善剤」の発明が記載されているか
(2)取消事由2:容易想到性の判断の誤りについて
引用文献1記載の「間欠的投与」の意義と(相違点2の)毎日投与への示唆の有無
引用文献1の心疾患の患者の心血管機能を高めるための投与量(相違点1)の開示の有無
(3)本件訴え及び共同訴訟参加の申出は適法か
[裁判所の判断]
(1)取消事由1について
・・・実施例4においてD-リボース投与とニトログリセリンなしでの歩行可能距離の延長という
現象が相関していることに照らすと、D-リボースの経口投与が、散歩という身体的活動が誘発す
る狭心症の発症を抑制していると理解するのが自然である。・・・D-リボースの投与により狭心
症の主たる症状である痛みが減少したとの患者の主観的評価は、客観的にも裏付けられるもので
あるといえる。・・・審決が、引用文献1(主に実施例4)に基づいて・・・引用発明を認定した
ことに誤りはない。
・・・低い運動許容度や痛み等の狭心症の症状は、冠動脈狭窄による心筋の虚血が原因であるか
ら、症状が緩和されたことは、少なくとも心筋の虚血が軽減したことを示している。そして、こ
れは心血管機能が改善したものと評価できる。そうすると、引用発明の「運動許容度を増加させ
狭心症の痛みを減少させる剤」は、本願発明の「心血管機能改善剤」に相当するものといえる。
よって、審決の一致点及び相違点の認定に誤りはない。
(2)取消事由2について
(相違点2に関して)・・・引用発明の認定の基礎となった引用文献1の実施例4には、具体的に
どの程度の時間間隔を空けて剤を投与するかについては記載されていない。もっとも、引用文献
1の「発明の詳細な説明の【0023】では、・・・1~20g/日などと好ましいリボースの投
与量が1日当たりの量で表わされ、かつ1日に1~3回の頻度で投与することが記載されている
ことから、引用文献1においては、リボースを毎日投与することが念頭におかれているものと解
される。・・・「1日に1回」は24時間の間隔をあけた「間欠的」投与であり、「好ましくは 1 日
に2又は3回、最も都合よくは食事中又は食後に投与」は1日のうちで数時間の間隔を空けて、
2又は3回投与する「間欠的」投与であると解することができるのであるから上記【0023】
の記載と矛盾はない。よって、引用文献1の実施例4の「1日5~10gのD-リボースを間欠
的に経口投与される剤」は、1日当たり5~10gのD-リボースを毎日、上記の頻度で経口投与
される剤を意味するものと認められる。・・・引用文献1の実施例4において、D-リボースを投
与すると・・・投与を中止すると歩行可能距離が元に戻り、ニトログリセリンが必要になるとい
う相関関係があることからみて、D-リボースは継続的に投与する必要があると解されるから、投
与を「3週間以上にわたり毎日」とすることは、当業者が通常なし得る程度の投与スキームの設
定にすぎない。引用発明に接した当業者が相違点2に係る構成に相当することは容易であるとい
うべきであるから、審決の判断に誤りはない。
(相違点1に関して)・・・引用発明は、毎日5~10gの剤を、典型的には1日のうち1ないし
3回程度に分けて投与するものであるから、これに基づき剤当たりのD-リボース量を算出する
と、約1.7g~10gとなり、剤当たり2~8gのD-リボースを含む本願発明の範囲を含む物
となる。以上によれば、引用発明に接した当業者が相違点1に係る構成に相当することは容易で
あるというべきであるから、審決の判断に誤りはない。
(顕著な効果の看過について)・・・引用文献1においてはデータの記載はないものの、引用発明
は、D-リボースが心血管機能の低下した患者の心血管機能を向上させる効果を有するものであ
る。・・・確かに本願明細書には・・・データが記載されてはいるが、そのようなデータが記載さ
れているにとどまり、これのみから直ちに、本願発明の効果が引用発明から容易に相当できる発
明の効果よりも顕著であることが裏付けられるものではない。
(3)本件訴え及び本件申出の適法性
民訴法52条に基づく参加申出において、共同原告として参加する第三者は、自ら訴えを起こ
し得る第三者でなければならないと解されるから、出訴期間の定めがある訴えについては、出訴
期間経過後は同上による参加申出はなし得ないものと解するべきである。そして、特許法178
条4項は、審決取消訴訟の出訴期間を不変期間と定めている。・・・参加人の本件申出は不適法な
ものというほかない。
・・・共有者の提起する審決取消訴訟は、共有者が全員で提起することを要するいわゆる固有
必要的共同訴訟と解するべきである。・・・本件訴えは、本願に係る特許を受ける権利の共有者の
一部である原告のみによって提起されたものとみるほかない。・・・共同訴訟参加人として参加す
れば、必要的共同訴訟における当事者適格の瑕疵は治癒されるものと解される。・・・本件申出は
不適法であるから、本件においては、当事者適格の瑕疵を適法に治癒するものと解することはで
きない。従って本件訴えも不適法である。
[コメント]
引用文献の記載の程度として、薬理データの記載まではなくとも本願発明の「心血管改善剤」
に相当する記載があると認定された点は、明細書の記載も勘案すると本件の場合には妥当と考え
られる。また、引用文献の実施例の投与態様は明らかでないが、明細書全体の開示も勘案した上
で、当業者は本願発明の構成を容易想到であるとした点に関し、より狭い数値範囲での顕著な効
果が示されない場合には進歩性なしの判断は妥当と考える。投与態様の相違による発明に進歩性
が認められる為には、引用発明から、効果増大、副作用減少、QOLの向上という効果のいずれ
かが非常に大きいか、一見QOLを低下させるかに見える態様が副作用の飛躍的な減少につなが
るか、などの意外性が必要かもしれない。

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