IP case studies判例研究

平成26年(行ケ)10219号「管状格子パターンを有するゴルフボール」事件

名称:「管状格子パターンを有するゴルフボール」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 26 年(行ケ)10219 号 判決日:平成 27 年 4 月 13 日
判決:請求認容(審決取消)
特許法29条2項
キーワード:一致点及び相違点の認定
[概要]
本件発明と引用発明の一致点及び相違点の認定には誤りがあるとして審決が取り消された
事例。
[本件発明1]
表面を有し,4.06cm~4.32cm(1.60in~1.70in)の範囲の直径
を有する内側球体と,
前記内側球体の表面から延びる格子構造であって,該格子構造は複数の相互に連結した格
子部材からなり,各格子部材は,第1の凹部分と第2の凹部分と,前記第1の凹部分と第2
の凹部分の間に設けられた凸部分を有する曲線の断面を持ち,前記凸部分は頂部を有し,前
記格子部材の底部から前記頂部までの距離が0.0127cm~0.0254cm(0.0
05in~0.010in)の範囲であり,
前記第1の凹部分と第2の凹部分は0.38cm~0.51cm(0.150in~0.
200in)の範囲の曲率半径を持ち,前記凸部分は0.07cm(0.0275in)~
0.0889cm(0.0350in)の曲率半径を持ち,
前記相互に連結された格子部材の頂部はゴルフボールの最外部であり,
前記複数の格子部材は互いに辺を共有して連結された複数の6角形状の領域と,複数の5
角形状の領域とを形成し,前記複数の5角形状の領域は前記複数の6角形状の領域の一部と
互いに辺を共有して連結されている,
ディンプルを伴わないゴルフボール。
[裁判所の判断](筆者にて適宜要約。)
当裁判所は,原告主張の各取消事由のうち,取消事由1-1及び1-3並びに2-1及び
2-3には理由がある(なお,取消事由3には理由がない。)から,その余の取消事由につい
て判断するまでもなく,審決にはこれを取り消すべき違法があるものと判断する。その理由
は,以下のとおりである。
1 取消事由1(甲第1号証発明を主引例とする進歩性判断の誤り)について
(エ)a 被告は,本件発明1のゴルフボールは,「表面を有する内側球体と内側球体表面から延
びる格子構造」を備えるものであるから,本件発明1のゴルフボールの具体的構造は,内側
球体の表面から延びる格子構造と格子構造の間に現れる内側球体の表面とにより形成される
のであり,この点は,従来のいかなるゴルフボールとも構造上異なるから,本件発明1は,
甲第1号証発明とは着想において異なるばかりでなく,その異なる着想が具体的な構造に具
現化されており,審決が,「両者の構造や概念は,全く異なるものである」とした点に誤りは
ない旨主張する。
しかし,本件発明1における「格子構造」及び「格子部材」についてみると,これらは,
「内側球体の表面から延びる格子構造であって,該格子構造は複数の相互に連結した格子部
材からなり,・・・」(本件請求項1)として特定されているが,「内側球体の表面から延びる格
子構造」とは,ゴルフボールの中心から外側へ向かう方向に内側球体の表面から格子構造が
高くなっていることをいうと解され,この格子構造が格子部材からなるものである。
そして,本件訂正明細書【0049】の記載に照らすと,従来のゴルフボールにおいては,
ディンプルが飛んでいるゴルフボールの表面の空気の境界層を捕捉し,より大きい浮揚と流
体抵抗を抑制するように設計されているのに対し,本件発明1では,管状格子構造が空気の
境界層を補足するものであることが理解できる。そうすると,ゴルフボールの表面に設けた
凹凸であり,空気の境界層を補足するという観点でみれば,従来のゴルフボールのディンプ
ルも本件発明1の格子構造も同じ作用効果を奏するものであるということができる。
なお,本件発明1では「格子部材」は二つの凹部分とこの凹部分の間に設けられた凸部分
を有する曲線の断面を持ち,格子部材の底部から頂部までの距離,2つの凹部分と突部分が
持つべき曲率半径,更には格子部材の頂部がゴルフボールの最外部であり,複数の格子部材
が互いに辺を共有して連結された六角形状と五角形状の領域を形成することが特定されてお
り,これにより,前記(イ)において説示した相違が存在することとなるが,これらの相違は,
甲第1号証発明と本件発明1の相違点と認定した上で,その容易想到性の有無が判断される
べきものである。
よって,被告の上記主張は採用することができない。
b 被告は,甲第1号証発明のディンプルとディンプルとの間の部分が,本件発明1の格子部
材に相当することにはならない,甲第1号証発明の「隆起」は,本件発明1の「第1凹部分
と第2の凹部分の間に設けられた凸部分を有する曲線の断面を持ち」に相当しないなどとし
て,審決の一致点及び相違点の認定に誤りはない旨主張する(前記第4の1(1)イ)。
しかし,前記(ア),(イ)及び(エ)aにおいて説示したところに照らすと,被告の上記主張は
採用することができない。
(オ) 以上によれば,審決の本件発明1と甲第1号証発明の一致点及び相違点の認定には誤り
がある。そして,この誤りは,本件発明1につき,甲第1号証発明記載の発明に基づいて当
業者が容易になし得たものとはいえないとした審決の判断の結論に影響を及ぼす可能性があ
るものである。
そうすると,本件においては,両当事者による前記の相違点①ないし③の存在を前提とし
た主張立証が尽くされているとはいえない以上,審決を取り消した上で,審判において上記
の点の審理を行うべきである。
2 取消事由2(甲第10号証発明を主引例とする進歩性判断の誤り)について
(ウ) 以上によれば,審決の本件発明1と甲第10号証発明の一致点及び相違点の認定には誤
りがある。そして,この誤りは,本件発明1につき,甲第10号証発明に基づいて当業者が
容易になし得たものとはいえないとした審決の判断の結論に影響を及ぼす可能性があるもの
である。
そうすると,前記1(1)ウ(オ)において説示したのと同様の理由により,審決を取り消すべ
きである。
[コメント]
審決では、本件発明1が、内側球体と内側球体表面から延びる格子構造とを備えるものに
対して、甲第1号証発明および甲第10号証発明はボール表面にディンプル、すなわち窪み
を形成したものであり、両者の構造や概念は全く異なるものであると判断された。
一方、判決では、本件発明1と甲第1号証発明および甲第10号証発明とは、球体表面に
形成された格子構造である点で一致すると判断された。本件発明1には「内側球体の表面か
ら延びる格子構造」、「ディンプルを伴わない」等の記載があるものの、本件発明1の格子構
造は、実際には従来のゴルフボールのディンプルと同様の構造であって同様の作用効果を奏
するものでもあり、裁判所の一致点の認定は妥当であると思われる。

平成26年(行ケ)10219号「管状格子パターンを有するゴルフボール」事件

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