IP case studies判例研究

平成26年(行ケ)10187号 「帯電微粒子水による不活性化方法及び不活性化装置」事件

名称:「帯電微粒子水による不活性化方法及び不活性化装置」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成26年(行ケ)10187号 判決日:平成27年3月11日
判決:請求棄却(審決認容)
特許法第29条第2項および第36条第6項第1号および2号
キーワード:引用発明の認定
[請求項1(本件訂正発明1)]
「大気中で水を静電霧化して、粒子径が3~50nmの帯電微粒子水を生成し、花粉抗原、
黴、菌、ウイルスのいずれかと反応させ、当該花粉抗原、黴、菌、ウイルスの何れかを不活
性化することを特徴とする帯電微粒子水による不活性化方法であって、前記帯電微粒子水は、
室内に放出されることを特徴とし、さらに、前記帯電微粒子水は、ヒドロキシラジカル、ス
ーパーオキサイド、一酸化窒素ラジカル、酸素ラジカルのうちのいずれか1つ以上のラジカ
ルを含んでいることを特徴とする帯電微粒子水による不活性化方法。」
[原告主張の取消事由]
審決には、粒子径に関する明確性要件の判断の誤り(取消事由1)、粒子径に関するサポー
ト要件の判断の誤り(取消事由2)、静電霧化手段に関するサポート要件及び実施可能要件の
判断の誤り(取消事由3)、甲10を主引例とする進歩性の判断の誤り(取消事由4)及び甲
11を主引例とする進歩性の判断の誤り(取消事由5)があり、これらの誤りは審決の結論
に影響を及ぼすものであるから、審決は取り消されるべきである。
[裁判所の判断]
(取消事由1)粒子径に関する明確性要件の判断の誤り
本件特許明細書の【0024】の記載及び【0042】の記載に照らすと、本件訂正特許
発明における粒子径及び粒子数は、微分型電気移動度計測器(DMA)により計測されるも
のであることが理解できる。そして、本件特許明細書においては、長寿命化ないしは不活性
化の効果の有無について、粒子径の大きさに着目した記載がなされている(【0013】、【0
024】、【0052】。・・・甲10には・・・これらの記載に照らすと、静電霧化により発
生した粒子の粒径分布は、非常に狭く、単分散性が高いことは周知の事項であると認められ
る。以上の本件特許明細書【0052】及び甲10の記載を踏まえると、上記の本件特許明
細書の実施例に示された帯電微粒子水の粒子径は、いずれもそれぞれの粒子径が「3~50
nm」の範囲内にあることを前提としたものと理解することができる。そうすると、本件特
許の特許請求の範囲の請求項1ないし4の「粒子径が3~50mm」との記載は、静電霧化
により発生した粒子のうち、DMAによる計測の結果、その粒子径が3~50nmのものを
意味するものと明確に理解することができる。
(取消事由2)粒子径に関するサポート要件の判断の誤り
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記
載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細
な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決
できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出
願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か
を検討して判断すべきである。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、長寿命化については、帯電微粒子水の粒子径が
3~10nm及び30~50nmの範囲についても定性的にではあるがその作用が存在する
ことが記載されており、また、粒子径が3~50nmの範囲について不活性化の作用効果が
存在することが記載されているものと認められるから、本件訂正特許発明は、発明の詳細な
説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決で
きると認識できる範囲のものであるということができる。
(取消事由3)静電霧化手段に関するサポート要件及び実施可能要件の判断の誤り
本件特許明細書には、対向電極を有する静電霧化装置の構成等が開示されることにより、
発明の詳細な説明に本件訂正特許発明の実施ができるように明確かつ十分に記載されている
ものといえる。また、本件訂正特許発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の
詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとさ
れているということができる。したがって、実施可能要件及びサポート要件はいずれも充足
されているものというべきであり、対向電極を有しない構成が開示されていないからといっ
て直ちに、実施可能要件ないしはサポート要件が充足されないものとすることはできない。
(取消事由4)甲10を主引例とする進歩性の判断の誤りおよび(取消事由5)甲11を主
引例とする進歩性の判断の誤り
本件訂正特許発明1と甲10発明1について
相違点10c
「本件訂正特許発明1では、帯電微粒子水は、ヒドロキシラジカル、スーパーオキサイド、
一酸化窒素ラジカル、酸素ラジカルのうちのいずれか1つ以上のラジカルを含んでいるのに
対して、甲10発明1では、帯電微粒子の液滴が、そのようなラジカルを含んでいるか不明
である点」
甲5ないし7には、水を静電霧化して帯電微粒子水を生成し、同帯電微粒子水にラジカル
を含んでいるようにするという技術事項は記載されていないから、水を静電霧化する甲10
発明1に甲5ないし7の記載事項を組み合わせる動機付けがあるということはできないし、
仮に、甲10発明1に甲5ないし7の記載事項を組み合わせたとしても、相違点10cに係
る構成を導き出すこともできない。
原告は、甲5ないし7に記載されたイオンに含まれるO2-(スーパーオキサイド)は、
不対電子をもつイオンであって、ラジカルを意味しているから、甲5ないし7には、不活性
化を行うイオンとしてラジカル(O2-)を用いることが示唆されており、甲10発明1の
イオンを含む帯電液滴を、周知技術である不活性化の方法に用いる際に、当該帯電液滴に含
まれるイオンとしてO2-(スーパーオキサイド)を用いることは、当業者において容易想
到である旨主張する(前記第3の4ア)。しかし、仮に、イオンにより菌等を不活性化するこ
とが周知技術であり、甲10発明1にこの技術を組み合わせたとしても、前記イないしオの
説示のとおり、甲5ないし7に記載されたものは、いずれも水を静電霧化したものではなく、
水微粒子とラジカルの関係については開示がない以上、甲5ないし7の記載をもって、高電
圧により大気中で水を静電霧化して生成された帯電微粒子水にラジカルが含まれると当業者
が認識することの根拠とすることはできないし、その示唆があるということもできない。し
たがって、甲10発明1に甲5ないし7の記載事項を組み合わせたとしても、相違点10c
に係る構成を導き出すことはできない。
[コメント]
粒子径に関するサポート要件に関し、被告は「当該上限、下限値が課題目的を達成し、顕
著な作用効果を奏する臨界的意義を有する数値というわけでない以上、具体的な測定結果を
もって裏付けられている必要はない。」との反論を行っているが、数値範囲限定でなくその構
成自体に特許性が見いだせる場合、このような反論が認められるのは妥当と思われる。審査
段階で徒に実施例数を要求される場合もあるため、このような反論は参考にしたい。

平成26年(行ケ)10187号 「帯電微粒子水による不活性化方法及び不活性化装置」事件

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