審決取消請求事件 » 平成26年(行ケ)10153号「遊技機」事件 審決取消請求事件

名称:「遊技機」事件 審決取消請求事件
知的財産高等裁判所第2部:平成 26 年(行ケ)10153 号 判決日:平成 27 年 3 月 5 日
判決:請求認容(審決取消)
特許法第29条第2項
キーワード:進歩性、周知技術の認定

[概要]
特許無効審判の審決に対する審決取消訴訟において、周知技術の認定が誤っているとして、
特許維持となった審決が取り消された事例。

[本件発明1:請求項1] ※下線は争点、符号は判決文より追記した。
【A】前面扉を開放状態とすることにより操作可能となる設定変更操作手段(設定スイッチ
91)を備える遊技機であって,
【B1】遊技の進行を制御すると共に,遊技の進行状況に応じた制御情報を送信する遊技制
御手段(遊技制御基板 101)と,
【B2】前記遊技制御手段から送信された制御情報を受信し,該受信した制御情報に基づい
て少なくとも前記遊技に関する演出の実行を制御するものであって,書き換え可能な演出用
記憶手段を含む演出制御手段(演出制御基板 120)とを備え,
【C】前記遊技制御手段(遊技制御基板 101)は,
【C1】所定の入賞の発生を許容する旨を,所定の確率で事前に決定する事前決定手段と,
【C2】前記所定の確率に基づいて算出される払出率について設定された段階を示す情報を
記憶する特定領域(112-3)と,遊技の進行状況に関する情報を記憶する領域として記憶すべ
き情報の重要度に応じて分けられた特別領域(112-2)と一般領域(112-5~8)とを含む遊技
用記憶手段(RAM112)と,
【C3】前記前面扉が開放状態となっているか否かを検出する開放検出手段(窓開放センサ
95)と,
【C4】前記開放検出手段により前記前面扉が開放状態となっている旨が検出され,さらに
前記前面扉を開放状態とすることにより操作可能となる変更許可開始操作手段(設定キース
イッチ 92)が操作されることにより所定の設定変更許可条件を成立させて,設定変更期間を
開始させる変更期間開始制御手段と,
【C5】前記設定変更期間において,少なくとも前記設定変更操作手段が操作されることに
よって,前記特定領域に記憶された段階を変更する設定変更手段と,
【C6】前記設定変更期間が開始されたときに,前記遊技用記憶手段に情報が記憶されてい
る変更前の段階を表示手段に表示させる段階表示制御手段と,
【C7】前記設定変更期間が開始したときに,前記演出用記憶手段の記憶情報を初期化する
ことを指示する初期化制御情報を前記演出制御手段に送信する初期化制御情報送信手段と,
【C8】前記設定変更期間が終了したときに,該変更後の前記設定された段階に関する情報
を含む設定制御情報を送信する設定制御情報送信手段と,
【C9】前記設定変更手段による段階の変更の際に,前記遊技用記憶手段に含まれる領域の
うちの前記一般領域(112-5~8)に記憶されている情報を初期化する初期化手段とを備え,
【D】前記演出制御手段は,
【D1】前記初期化制御情報を受信することによって前記演出用記憶手段の記憶情報のうち
少なくとも演出の実行に関する情報を初期化し,
【D2】前記設定制御情報を受信することによって前記設定された段階に関する記憶情報を
前記演出用記憶手段に記憶する
【E】ことを特徴とする遊技機。

[審判での判断] ※下線は筆者が付した。
(1)相違点2:(遊技制御手段が備える変更期間開始制御手段に関し)
本件発明1は、構成C4:設定変更期間を開始させるもの、甲1発明:前面扉の開放検知
は、演出制御手段の開放検出手段であり、構成C4の変更許可開始操作手段及び変更期間開
始制御手段を備えるものではない。

(2)相違点6:(遊技制御手段が備える初期化手段に関し)
本件発明1は、構成C9:一般領域に記憶されている情報を初期化するもの、甲1発明:
演出制御手段で制御されるAボタンを操作すると、演出制御手段のRAMの遊技機データ記
憶領域の総合データがクリアされるが、総合データが遊技機データ記憶領域のどの領域であ
るか不明。

(3)相違点2に関し、甲5、甲16及び甲15について、主制御手段(遊技制御手段)と、
副制御手段(演出制御手段)とを有するものにおいて、主制御手段(遊技制御手段)で設定
値の変更を制御するものとは認められない、と認定し、周知技術ではないとした。

(4)相違点2に関し、仮に「前面扉の開放を制御条件とし、設定値の変更操作が可能にな
ること」が周知技術1であったとしても、
[1]甲1発明の扉開閉監視手段は、設定値の変更と無関係であるから、適用しても、適
用前と同様に設定値の変更と無関係に扉の開閉監視を行うだけの遊技機にしかならず、
[2]甲1発明は、本件発明1のように、前面扉の開放を条件とした変更許可開始手段の
操作を契機として、設定値の変更のみならず、設定値の表示や記憶情報の初期化につながる
ものではないから、甲1発明に周知技術1とされるものを適用することは技術的困難性があ
る。

(5)相違点6に関し、甲4,11,12は、いずれも本件発明1と異なり、遊技制御手段
の遊技記録手段内に特定領域、特別領域、一般領域を有するものではなく、本件発明1が設
定値変更の際に初期化しない特別領域について言及するものではない。とすれば、相違点6
の構成が、甲4,11,12に記載されておらず、周知技術ではない。

[裁判所の判断]
1.取消事由1(相違点2の判断の誤り)
(1)周知技術の認定
甲5発明及び甲16発明は,前面扉を開放状態とすることにより,その開放を検出する手
段(前面扉開閉センサ35)により前面扉が開放状態となっている旨が検出され,設定信号
判定部44(甲5発明)又は信号判定部36(甲16発明)による判定を受けて操作可能と
なる操作手段(シリンダ29,設定キー28,電源スイッチ23)により,設定変更が可能
となり,この状態において設定変更手段(設定変更ボタン30)を操作して設定を変更する
ものである。

甲15記載の技術事項は,前面扉を開放状態とすることにより,その開放を検出する手段
(ドアスイッチ44)により前面扉が開放状態となっている旨が検出され,ドアスイッチ4
4による検出を受けて操作可能となる操作手段(キースイッチ43)により,設定変更が可
能となり,この状態において設定変更手段(ドアスイッチ44)を操作して設定を変更する
ものであるといえる。

以上のように甲5発明,甲16発明及び甲15記載の技術事項が,いずれも技術思想及び
構成として同等といえる上,特定の操作を回避して次の操作をさせないためには,特定の操
作の有無を検出して,その操作がある場合にのみ次の操作を有効とすればいいことは,技術
的に自明であるから,開放検出手段により前面扉が開放状態となっている旨を検出し,前面
扉が開放状態の場合にのみ操作可能となる変更許可開始操作手段により所定の設定変更許可
条件を成立させて,これにより設定変更期間を開始するとすることは,周知技術であると認
めるのが相当である。

(2)開放検出手段の制御
スロットマシン等の遊技機の制御回路の各種機能を,メイン制御基板とサブ制御基板とに
分けてそれぞれに割り振るようにすることは,適宜の選択に応じてされる単なる設計事項と
いえる(甲2・・・)。
メイン制御基板とサブ制御基板の制御機能の割振りが適宜になす設計事項であれば,これ
を制御機能からみて遊技制御機能と演出制御機能と言い替えても同等であるから,開放検出
手段を,遊技制御手段に備えさせるか又は演出制御手段に備えさせるかも,当業者が適宜な
す設計事項といえる。

(3)容易想到性
以上(1)(2)によれば,上記(1)に認定の周知技術は,遊技制御手段についても,演出制御手段
についても等しく適用可能なものであって,甲1発明において,設定変更の不正対策を万全
なものとするために,上記(1)に認定の周知技術を適用し,前面扉の開放検出手段を遊技制御
手段に設けるとして相違点2に係る本件発明1の構成とすることは,公知技術に周知技術を
適用しただけであって,当業者であれば容易に想到できるものというべきである。

2.取消事由2(相違点6)
(1)審決の判断
・・(略)・・構成【C9】により初期化されるとされたのは一般領域のみであり,特定領
域や特別領域の初期化の有無については,構成【C9】は何ら限定を付すものではない。
前記の審決は,相違点6が,一般領域の初期化に係るものであるのにもかかわらず,上記
各刊行物記載の発明が,「特定領域」「特別領域」「一般領域」の区分という相違点1に係る事
項を有しないことと,特別領域の初期化という相違点6とは関連のない技術事項を有しない
ことを理由とし,上記各刊行物に相違点6に係る本件発明1の構成の記載がないと判断した
ものであって,合理的根拠を欠くことが明らかである。

(2)容易想到性
(甲2、甲4、甲11、甲12を参酌して)、設定変更の際に、遊技制御手段が備える遊技
用記憶手段に含まれる領域(一般領域)に記録される情報が初期化されることが記載されて
いるといえる。

以上のとおり,相違点6に係る本件発明1の構成は,周知技術であるから,甲1発明にこ
の周知技術を適用して相違点6に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到
し得たものと認められる。

[コメント]
本件発明1の請求項は、機械的構成及び制御的構成で特定されている。このような特定の
場合には、一つの目的を達成するために無数の構成が考えられる。本事案に関し、厳密に言
えば、甲1と他の文献の構成を組み合わせても本件発明1の構成にならないと考えられると
ころ、その相違点を埋めるために、その技術思想及び構成が同等として、「特定の操作を回避
して次の操作をさせないためには,特定の操作の有無を検出して,その操作がある場合にの
み次の操作を有効とすればいいことは,技術的に自明である」とし、相違点を周知技術とし
て認定している。

特許異議申立や無効審判において、無数の組み合わせが考えられる機械的構成及び制御的
構成によって一つの目的を達成する場合には、本発明の判断を参考にした主張ができるかも
しれない。