審決取消請求事件 » 平成26年(行ケ)第10145号「ローソク」事件

名称:「ローソク」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成26年(行ケ)第10145号、判決日:平成27年3月25日
判決:請求認容(審決取消)
特許法:134条の2第1項2号
キーワード:誤記の訂正

[概要]
(1)原告らは,本件特許の全ての請求項について無効にすることを求めて審判の請求をしたと
ころ,被告は,特許請求の範囲及び明細書についての訂正請求(訂正事項1~7)をした。
そのうち、訂正事項5、6の内容は以下のとおり。

訂正事項5
本件特許明細書の段落【0025】に「実施例2と同一方法でスチール製のつめ状具でこそぎ
落した」とあるのを,「刺抜きでこそぎ落した」に訂正する。

訂正事項6
本件特許明細書の段落【0025】に「先端部のワックスがそぎ落とされた燃焼芯の重量から先
端部に残ったワックスの被覆量を算出したところ,6本とも先端部のワックス被覆量は,燃焼芯
の先端部以外の部分に被覆されたワックスの被覆量の24%であった。」とあるのを削除する。
(2)審決は、訂正事項5及び6による訂正前の特許明細書による記載は,何れも平成23年5
月13日付け手続補正書(判決注:本件補正1)による補正によってなされたものであり,・・・
その残存量が24%である旨の記載もなされていなかったものである。このような審査段階での
補正の経緯を踏まえて特許明細書の記載を検討するならば,段落【0025】における,「ワッ
クスのそぎ落としの用具が『スチール製のつめ状具』である」旨の記載も,また,「そぎ落とし
後に先端部に残ったワックスの被覆量を算出した結果,先端部以外の被覆量の24%である」旨
の記載も,ともに錯誤によりなされた記載であることが明らかというべきである。」と判断し,
訂正前の記載に誤記は存在しているとはいえないとの原告らの反論に対しても,「いずれも,補
正前に記載されていた事項とは,明らかに技術的には相容れない事項に記載を変更するものであ
るといえるから,・・・手続補正前後の経緯を踏まえるならば,このような変更は錯誤によりな
されたというほかはないものである。」と述べて,本件補正1が錯誤によりされたものであり,
錯誤によりされた補正を,当該補正前の記載に戻すことを目的とする訂正事項5及び6は,「誤
記」の訂正として許される旨判断した。

[主な争点]
取消事由1:訂正の適否に関する判断の誤り(訂正事項5及び6は誤記の訂正に該当するか否
か)

[原告の主張]
被告は,本件補正1の際に提出した意見書において,段落【0025】についての補正が新規
事項の追加に該当しない旨を主張し,審査官も同様の理解をし,同補正を新規事項とは認識せず,
そのまま特許登録しているし,被告は,無効審判での答弁書においても,当該手続補正は新たな
技術的事項を導入するものではない旨主張している。したがって,当業者である被告も,上記補
正が補正前の記載事項と技術的に相容れない事項とはみなしておらず,訂正事項5及び6につい
て錯誤による訂正ともしていないのであるから,本件補正1のうち上記補正が錯誤によりなされ
たということはできず,審決の判断は誤りである。

[被告の主張]
訂正事項5及び6は,実質的に,錯誤により行われた本件補正1前の記載に戻すことを目的と
する訂正であるから,誤記の訂正と解されるべきである。

[裁判所の判断]
裁判所は、『誤記の訂正が認められるためには,まず,特許明細書又は特許請求の範囲に「誤
記」,すなわち,誤った記載が存在することが必要である。しかし,補正F1は,本件当初明細
書に,段落【0025】の各実験例の燃焼芯の作製方法について「(ワックスを)刺抜きでこそ
ぎ取った」と記載していたのを,「(ワックスを)スチール製のつめ状具でこそぎ落した」と言
い換え,実施例2とこそぎ落としの方法が同一であることを明瞭にしたものであり,補正F3は,
本件当初明細書には,段落【0025】の各実験例の燃焼芯からワックスをこそぎ取った割合(ワ
ックスの残存率)が明らかにされていなかったのを,ワックス残存率が24%であることを明ら
かにしたものであり,これらの補正内容自体が誤ったものであるとも,補正後の記載事項が,補
正前に記載されていた事項と技術的に相容れない事項であるとも認められないから,そもそも,
補正F1又は補正F3に係る補正後の記載内容(本件訂正前の記載内容)自体に,誤りがあると
は認められない。なお,訂正の経過をみても,被告は,本件訴訟に先立つ無効審判請求において,
原告らから,補正F1及びF3が新規事項の追加に当たるとの無効理由が主張されたのに対し,
当初これを争い,補正F1及びF3は新たな技術的事項を導入するものではない旨主張していた
ものの,審決の予告において,これらの補正が特許法17条の2第3項に規定する要件を満たし
ていないとの審判合議体の判断が示されたため,初めて,本件補正1後の記載を補正前の記載に
戻すために,訂正事項5及び6の訂正を請求するに至ったものであり,被告自身も,本件補正1
後の記載内容自体が誤っている,との主張をしているものではない。

そうすると,補正F1及びF3に係る補正後の記載を,補正前の記載に戻すための訂正事項5
及び6は,「誤記」の訂正に当たるとは認められず,審決の判断は,その前提において誤りがあ
るというべきである。』と判断して審決を取り消した。

[コメント]
今回の事件では、特許権者は新規事項の追加に当たるとの無効理由を回避するために、審査時
に行った補正(記載を明瞭にするための補正)を出願当初の記載に戻す「誤記の訂正」を行った
が、裁判所は、訂正の請求に係る訂正は、134条の2第1項各号に掲げる事項を目的とするも
のに限る、との条文を厳格に適用して、記載内容自体が誤っていない記載の訂正を2号に含める
ことはできないと判断した。134条の2第1項では、訂正の目的を限定列挙しているため今回
の裁判所の判断は妥当である。なお、当該裁判においては、当該訂正事項5及び6に係る審査時
に行った補正については新規事項の追加に当たらないと判断されているため、訂正請求する必要
がなかった。