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平成26年(行ケ)10027号「有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料、それを利用した有機エレクトロルミネッ センス素子及び有機エレクトロルミネッセンス素子用材料」事件

名称:「有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料、それを利用した有機エレクトロルミネッ
センス素子及び有機エレクトロルミネッセンス素子用材料」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所第3部:平成 26 年(行ケ)10027 号 判決日:平成 27 年 2 月 25 日
判決:請求認容(審決取消)
条文:特許法29条1項、2項
キーワード:引用発明の認定の誤り、進歩性
[概要]
発明の名称を「有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料、それを利用した有機エレクト
ロルミネッセンス素子及び有機エレクトロルミネッセンス素子用材料」とする特許について、審
決の引用発明の認定、相違点の認定及び相違点の判断に誤りがあるとして、審決が取り消された
事例。
[本願の請求項1(本願発明1)]
下記一般式(1)で表される非対称アントラセン誘導体からなる有機エレクトロルミネッセン
ス素子用発光材料。
[化1]
(式中、・・・(略)・・・。)
[引用文献1(甲1)の請求項1]
下記一般式(A)で表される新規芳香族化合物。
A-Ar-B (A)
〔式中、Arは、置換もしくは無置換のアントラセンディール基である。Bは、アルケニル基も
しくはアリールアミノ基が1置換した炭素数2~60の複素環基又は置換もしくは無置換の炭素
数5~60のアリール基である。Aは、・・・(略)・・・。〕※破線は争点となった箇所。
[事案の争点となった審決の理由]
審決では、甲1発明の上記破線の記載に関し、「Bは、アルケニル基もしくはアリールアミノ基
が1置換した炭素数2~60の複素環基又はアルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換し
た置換もしくは無置換の炭素数5~60のアリール基である。」と理解するのが自然であると判断
し、すなわち、「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した」との部分が「置換した置
換もしくは無置換の炭素数5~60のアリール基」との部分に係るものと認定し、これを前提に
本願発明1との相違点1を認定した。
[裁判所の判断]
<審決の認定について>
(イ)しかし、前記の発明特定事項の文言の構造上、「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が
1置換した炭素数2~60の複素環基」の部分と「置換もしくは無置換の炭素数5~60のアリ
ール基」との部分とは、「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した」の部分の後に特
に読点による区切りもなく、両部分が「又は」で並列的に記載されているものであって、「アルケ
ニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した」との部分が、「置換もしくは無置換の炭素数5~
60のアリール基」の部分に係るものではないと見るのが自然である。
このことは、甲1の請求の範囲の請求項1の記載を引用し、請求項1の下位概念であって、請
求項1の範囲を限定したものと解される請求項2の記載において、「前記一般式(A)において、
Bは、アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数2~60の複素環基又はアル
ケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数5~60のアリール基である請求項1に
記載の新規芳香族化合物」とされ、請求項1の記載と同様に、「アルケニル基もしくはアリールア
ミノ基が1置換した炭素数2~60の複素環基」の部分と「アルケニル基もしくはアリールアミ
ノ基が1置換した炭素数5~60のアリール基」の部分とが「又は」で並列的に記載される構成
とされているところ、「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した」との部分が「又は」
の前後において繰り返され、「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した」の部分が「炭
素数5~60のアリール基」の部分に係ることが明確にされていることの対比からも裏付けられ
る。
(ウ)さらに、審決が認定したように、「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した置
換もしくは無置換の炭素数5~60のアリール基である」と理解すべきであるとすると、「アルケ
ニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した」との部分と「無置換の」と部分が存在し、矛盾
が生じるものと解される。仮に、矛盾がないように「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が
1置換した(さらに)置換もしくは(その余は)無置換の」などと解するとすると、その文言上、
「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した」との発明特定事項のみでは、アリール
基の他の部分が置換しているか無置換であるかが限定されないため、これを限定する発明特定事
項を付加したものと解するほかないが、そうであれば、重ねて「置換もしくは無置換の」との同
内容の発明特定事項を加えることとなり不自然である。実際に、甲1の請求の範囲の請求項1の
「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数2~60の複素環基」の部分に関
し、複素環基には「置換もしくは無置換の」との文言は付されていないにもかかわらず、甲1の
明細書(8頁16行以下)の複素環基の例が記載された部分では、「Bの置換又は無置換の複素環
基としては、例えば、・・・」とされており、請求項1の複素環基は、何らの文言が付されていな
いのにかかわらず、「置換又は無置換」、すなわち、置換しているか無置換であるかが限定されな
いものであることが前提の記載となっている。
(エ)以上によれば、甲1の請求の範囲の請求項1の上記発明特定事項は、その記載上、「アルケ
ニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数2~60の複素環基」と「置換もしくは無
置換の炭素数5~60のアリール基」との双方を含むものと理解できるものと認められる。
・・・(略)・・・
そうすると、・・・(略)・・・本件発明1・・・(略)・・・は、甲1’発明1の「置換もしくは
無置換の炭素数5~60のアリール基」に包含されるものを含むものであり、上記一応の相違点
は、実質的な相違点ではないものというべきである。
以上によれば、審決の甲1発明1の認定には誤りがあり、この誤った甲1発明1の認定に基づ
いてなされた相違点1の認定にも誤りがある。
・・・(略)・・・
以上によれば、本件発明1が甲1発明1等に基づいて当業者が容易に発明し得たものとはいえ
ないとした審決の判断には誤りがある。
[コメント]
クレームで使用する接続詞(本事件では「又は」と「もしくは」、他にも「及び」と「並びに」)
や読点「、」は、発明の認定判断や権利解釈に影響を与えるため、本事件は、これらを正しく使用・
理解すべきことを示す事例といえる。

平成26年(行ケ)10027号「有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料、それを利用した有機エレクトロルミネッ センス素子及び有機エレクトロルミネッセンス素子用材料」事件

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