審決取消請求事件 » 平成25年(行ケ)第10255号「芝草品質の改良方法」事件

名称:「芝草品質の改良方法」事件(審決取消請求事件:拒絶不服審判)
東京高裁第4部:平成25年(行ケ)第10255号 判決日:平成26年9月24日
判決:請求認容(審決取消)
特許法第29条第2項
キーワード:進歩性、用途、発明特定事項

[概要]
審決では、本願発明と主引例とは同じ材料を同じ手段、方法で用いていることから、新規
性、進歩性を否定したが、判決では、用途に係る発明特定事項の記載から、新たな用途を認
定して、審決が取消された。

[特許請求の範囲](請求項1)
芝草の密度,均一性及び緑度を改良するためのフタロシアニンの使用方法であって,銅フ
タロシアニンを含有する組成物の有効量を芝草に施用することを含み,ただし,(i)該組成
物は,亜リン酸もしくはその塩,または亜リン酸のモノアルキルエステルもしくはその塩の
有効量を含まず,(ii)該組成物は,有効量の金属エチレンビスジチオカーバメート接触性
殺菌剤を含まない,方法。

審決:<刊1、2との一致点と相違点>
一致点:銅フタロシアニンを含有する組成物の有効量を芝草に施用する点。
(一応の)相違点:刊1、2発明では「芝草の密度」を改良するための使用として特定され
ていない点。

[争点]
<取消事由1>:刊1発明に基づく新規性及び容易想到性の判断誤り/「芝草の密度,均一性
及び緑度を改良」の意義について/ 新しい用途を提供する点について
<取消事由2>:刊2発明に基づく新規性及び容易想到性の判断誤り/ フタロシアニンの用
途について/新しい用途を提供する点について

[裁判所の判断]
<取消事由1>:「芝草の密度,均一性及び緑度を改良」の意義について/本件審決は,—–
刊1発明の「均一な緑色に着色」を本願発明の「均一性」及び「緑度」に相当すると認定し,
本願発明と刊1発明は,芝草の均一性及び緑度を改良するためのフタロシアニンの使用方法
である点で一致するとした。 しかしながら,—–,本願発明の「芝草の密度,均一性及び緑
度を改良する」とは,芝草に対して生理的に働きかけて,芝草の品質を良くすることを意味
すると認められ,この点については,本願明細書において,芝草の植物としての品質を生理
的に改良することがもっぱら記載され,着色などの人工的な加工については記載されていな
いことからも明らかである。

一方,—-刊1発明の「芝生を全体にきれいな緑色に着色」は,—自然現象で薄茶色に変化
する芝生を美しい緑に見せるために,緑色顔料又は青色顔料と黄色顔料の組み合わせを含む
着色剤を芝生の表面に散布して,全体的に緑色を着けることを意味することは明らかである。
そうすると,刊1発明–と,本願発明の「芝草の均一性及び緑度を改良するためのフタロシ
アニンの使用方法」とでは,技術的意義が異なることは明らかである。 ——以上によれば,
刊1発明と本願発明は「芝草の均一性及び緑度を改良」する点で一致するとした上で,「芝草
の密度,均一性及び緑度を改良」の意義が3つの要素のうちの少なくとも1つを改良するこ
とを意図していると解釈し,本願発明と刊1発明とで実質的な差異はないと判断した本件審
決の認定判断には誤りがある。

「芝生の緑が常に美しい」ことの意義について/刊1発明でいう「芝生の緑が常に美しい」
ということが,芝草に対して生理的に働きかけて,芝草の品質を良くすることを意味しない
ことは明らかである。本願発明と刊1発明に実質的な差異がないということはできない。

新しい用途を提供する点について/本願発明は「芝草の密度,均一性及び緑度を改良する
ためのフタロシアニンの使用方法」であるから,「芝草の密度,均一性及び緑度を改良するた
めの」は,本願発明の用途を限定するための発明特定事項と解すべきであって,銅フタロシ
アニンを含む組成物の有効量を芝生に施用するという手段が同一であっても,この用途が,
銅フタロシアニンの未知の属性を見出し,新たな用途を提供したといえるものであれば,本
願発明が新規性を有するものと解される。 —本願発明における芝草の「密度」,「均一性」及
び「緑度」の内容は必ずしも一義的に明らかではないものの,本願発明は,刊1発明と同一
であるということはできないものと認められる。

<取消事由2>:刊2発明におけるシアニングリーンの用途について/本件審決が根拠とする
刊行物2の記載についてみると,—,実施例1は緑色を保持していたのに対し,比較例1は
色が褪せて枯れ芝色に近い色となっていた。—比較例1は,実施例と異なり,芝生に対して
生理作用を有さない着色剤として,それを具体的に示すデータを伴って記載されたものと解
される。–本件審決が刊行物2には,「フタロシアニンを使用しない無処理の芝草に比べて,
フタロシアニンを使用した比較例1の芝草の方が,色褪せが少なく,枯れも少ないという作
用ないし効果が記載されている」とした認定には誤りがあり,それを前提とした新規性判断
にも誤りがある。

新しい用途を提供する点について /刊2発明は,刊行物2に記載された発明と比較するた
めに,むしろ成長調整剤としての効果を有しないものとして銅フタロシアニンを着色剤とし
て用いるものであって,刊行物2には,銅フタロシアニンに成長調整剤としての効果がある
という本願発明の用途を示唆する記載は一切ない。

容易想到性の判断誤りに対する判断/本件審決は,刊行物2,7,8及び周知例(甲10)
を引用して,銅フタロシアニン等の青色顔料の使用によって,芝草などの光合成をする植物
の育成促進効果や老化防止効果が得られることは,当業者にとって技術常識となっていたと
認められるから,刊2発明の「シアニングリーン・・・を含む緑色着色剤を高麗芝に散布処
理する」という工程を含むことにより,芝草の密度,均一性及び緑度を改良するという作用
効果が得られることは,当業者が容易に予測可能なことである旨判断した。

しかしながら,—-刊行物2においては,むしろ銅フタロシアニンは芝草に対する生理作用
を有さないものとして記載されているのであるから,刊行物2の記載をもって,芝草などの
光合成をする植物の育成促進効果や老化防止効果が得られることが当業者にとって技術常識
になっていたと認めることはできない。

刊行物7には,—-,金属フタロシアニン自体が植物病原菌に対する防除作用を有するとい
うよりは,金属フタロシニアンを添加した後に微生物を接種して発酵させて得た有機質肥料
が防除効果を有することを主に開示しているにすぎず,金属フタロシアニンが植物に直接作
用して生理機能を活性化することについては記載も示唆もないと認められる。

刊行物8は,植物体を覆って,植物にあたる光の波長を制御して植物の成長を抑制するた
めの「フィルム等の被覆材料」に関する文献で,従来,「被覆材料」に添加していたフタロシ
アニン化合物の代わりに,より安価な金属フタロシアニン化合物を用いるというものである
から,金属フタロシアニンを植物に直接施用することは,記載も示唆もない。

[コメント]同じ材料を同じ施法で行う場合であっても、目的、課題に対する機序の相違に
よって、用途発明として認定されることが示されている。化学分野では用途(または機能)
以外は同じ発明特定事項を記載して特許出願する場合があり、方法発明(または用途発明)
の権利取得に参考になる。