IP case studies判例研究

平成26年(行ケ)10030号 「印刷物」事件

名称:「印刷物」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 26 年(行ケ)10030 号 判決日:平成 26 年 10 月 20 日
判決:請求棄却
特許法29条1項、29条2項
キーワード:引用発明の認定,相違点の認定
[概要]
甲1に記載された第1実施形態に係る発明と第2実施形態に係る発明との組み合わせによ
り本件発明は新規性及び進歩性がないとの主張が認められず、特許無効審判請求を不成立と
する審決が維持された事例。
[本件発明1]
左側面部と中央面部と右側面部とからなる印刷物であって,
中央面部(1)は,所定の箇所に所定の大きさの分離して使用するもの(4)が印刷され
ていること,
左側面部(2)の裏面は,当該分離して使用するもの(4)の上部,下部,左側部の内側
及び外側に該当する部分(5,6)に一過性の粘着剤が塗布されていること,
右側面部(3)の裏面は,当該分離して使用するもの(4)の上部,下部,右側部の内側
及び外側に該当する部分(7,8)に一過性の粘着剤が塗布されていること,
当該左側面部(2)の裏面及び当該右側面部(3)の裏面が,前記中央面部(1)の裏面
及び当該分離して使用するもの(4)に貼着していること
当該分離して使用するもの(4)の周囲に切り込みが入っていること,
からなることを特徴とする印刷物。
[裁判所の判断](筆者にて適宜要約のうえ、下線を引いた。)
2 取消事由1(甲1発明の認定の誤り)について
(2) 以上のとおり,甲1においては,第1実施の形態として,段落【0013】~【0020】,
図1~6において,用紙2の裏面2aに通信情報を表示した後,裏面2aに透明シート4を
接着剤6で接着し,用紙2及び透明シート4を中央8で二葉10,12に折り曲げて,二葉
10,12の透明シート4,4同士を重ね合わせ,両透明シート4,4を剥離可能に接着剤
14で密着して形成した重ね合わせ郵便はがき1において,二葉10,12のうちの一方の
片葉10の隅部10aにミシン目状等のカットライン16を入れて隅部10aを一方の片葉
10から切離し可能としたものが記載され,第2実施の形態として,段落【0021】~【0
024】,図7~9において,通信情報を表示した用紙32の裏面32aに透明シート4を接
着剤33で接着し,透明シート4を接着した用紙32の中央部分34を郵便はがきの大きさ
に確保し,その両側36,38位置で各二葉40,42を折り曲げ,その二葉40,42の
先端40a,42aを突き合わせた状態で,二葉40,42の透明シート4,4を中央部分
34の透明シート4に剥離可能に密着して形成した重ね合わせ郵便はがき30において,隅
部40b,42bにミシン目状等のカットライン44,46を入れて各々の隅部40b,4
2bを二葉40,42から切離し可能としたものが記載されている。
ところが,第2実施の形態において,「カードサイズ紙片」を加えた構成について,本文中
の記載及び図面にも直接的に記載したものはなく,これを窺わせる記載も存在しない。
そして,甲1発明の目的は,上記(1)アに記載したとおり,重ね合わせた部分が不必要時に
は不用意に開封しないようにして,かつ,必要なときには重ね合わせた部分を容易に開封で
きるようにした重ね合わせ郵便はがきを提供することであり,発明の効果として,隅部にカ
ットラインを入れて,隅部を切り取ることなく一方の片葉に残したために,従来技術のよう
に段差を形成することはないため,重ね合わせ郵便はがきに他の郵便はがきが引っかかって
不用意に開封されることがなく,剥がすときには,片葉あるいは二葉の両端に形成した隅部
をカットラインから切離して取り除くことにより段差を形成することができ,その段差から
一方の片葉を容易に引き剥がすことができる(【0026】~【0029】)と記載されてい
るのみである。これらの記載から見て,甲1の請求項に記載された発明の本質的部分は,隅
部にカットラインを入れた構成に存するものであることは明らかである。
したがって,第1実施の形態に記載された「カードサイズ紙片」は,甲1全体を通じて理
解される技術思想であるとは理解できず,単に,用紙を中央で二葉に折り曲げて,二葉同士
を重ね合わせ,剥離可能に接着剤で密着して形成した重ね合わせ郵便はがきを第1実施の形
態とし,その一例の構成として示されたものにすぎない。よって,第1の実施の形態におけ
る「カードサイズ紙片」は,第2の実施の形態と関連性を有するものではなく,第2の実施
例において「カードサイズ紙片」を設けることが自明であるとも,記載されているに等しい
ものと認めることもできない。
(3) 原告は,段落【0021】の記載から,カードサイズ紙片20が設けられた第1実施の形
態の重ね合わせ郵便はがき1と用紙の折る位置だけを異ならせた重ね合わせ郵便はがき30
には,重ね合わせ郵便はがき1のカードサイズ紙片20と同じカードサイズ紙片が設けられ
ていることを示唆したものであると主張する。
しかし,段落【0021】は,「第2実施の形態図7~9に基づいて,第2実施の形態の重
ね合わせ郵便はがき30について説明する。」としているところ,図7~9には,第1実施の
形態における「カードサイズ紙片」を窺わせる記載は一切なく,続く段落【0022】,【0
023】において具体的な構成と効果が,段落【0024】において開封方法が記載されて
いるが,これらのいずれについても,第1実施の形態で示されたような「カードサイズ紙片」
に関する記載がないこと,前記のとおり,「カードサイズ紙片」は,第1実施の形態において
付加された,甲1に記載された発明の特定事項とは異なる構成であることからすれば,「第1
実施の形態の重ね合わせ郵便はがき1と用紙2の折る位置だけを異ならせた」という記載に
よって,「カードサイズ紙片」の構成を第2実施の形態が含むことを示唆するものと解するこ
とはできない。
3 取消事由2(甲1の2を主引例とする進歩性判断の誤り)について
(1) 原告は,第1実施の形態と第2実施の形態の構成は,段落【0021】にあるとおり,折
り方(折る位置)が異なるだけであるから,甲1に接した当業者は,当然に,重ね合わせ郵
便はがき1(第1実施の形態)に示された発明(技術的事項)であるカードサイズ紙片20
(相違点1に係る構成)を重ね合わせ郵便はがき30(第2実施の形態)の発明に適用する
ことを考え,前者を後者に適用する動機付けは十分にあると主張する。
しかし,前記2のとおり,甲1の第2実施の形態には,カードサイズ紙片20が設けられ
ていることを示す記載はなく,甲1には,その示唆もない。前記のとおり,甲1の1発明と
甲1の2発明は,甲1に記載された請求項1及び2にそれぞれ対応する発明の別実施例であ
り,甲1に記載された発明の課題,目的は,カードサイズ紙片とは関連しないものであるか
ら,甲1の2発明において,甲1の1発明の「カードサイズ紙片」を組み合わせる動機付け
はない。
[コメント]
審査において、1つの引例に記載された複数の実施形態を組み合わせることにより本願発
明の新規性又は進歩性が否定されることがある。このとき、本審決及び本判決のように、組
み合わせることが引例に記載又は示唆されていないこと、引例の課題、目的の観点から組み
合わせの動機付けがないこと等を主張するのが有効であろう。

平成26年(行ケ)10030号 「印刷物」事件

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