審決取消請求事件 » 平成25年(行ケ)第10337号 「縁なし畳及びその製法」事件

名称:「縁なし畳及びその製法」事件(審決取消請求事件:無効審判)
東京高裁第2部:平成25年(行ケ)第10337号 判決日:平成26年9月29日
判決:審決取消(特許維持審決を取消)
特許法153条1項、157条2項、29条1条1号、2号
キーワード:手続違反(判断の遺漏)、公然実施、公知、公用

[概要]請求項3について、公然実施(第29条第1条第1号)であることを理由に請求人
が主張していたにも拘わらず、その理由を判断していないとして、手続違反(判断の遺漏)
により審決が取り消された事例。

[特許請求の範囲]
【請求項1】畳床の一面に畳表を四辺に余部を残して接着し,余部を他面に折り返して接着
した縁なし畳において,余部をホットメルト糊によって畳床の側面は全高にわたって非接着
状態に残して接着したことを特徴とする縁なし畳。
【請求項3】余部の畳床の辺と平行にカットした中に若干の非カット部分を残し,この非カ
ット部分または適宜畳表の小片を継ぎ足して畳表が畳床のコーナーの稜線で口を開けた部分
に押し付けて接着剤で固定した請求項1又は2の縁なし畳。
【請求項4】【請求項5】(縁なし畳の製造方法)。

(原告主張の無効理由:審決記載)
<無効理由1(進歩性欠如)>
本件発明1ないし3:甲1及び甲4、甲5から、特許法29条2項により特許を受けるこ
とができない。
<無効理由2(新規性欠如):審決記載>
本件発明1ないし3:甲6ないし9から、公知であり、特許法29条1項1号により特許
を受けることができない。
本件発明4及び5:甲10から、公然実施をされた発明であり、特許法29条1項2号に
より特許を受けることができない。

(審決の理由の要点)
<無効理由1(進歩性欠如):理由なし>
相違点2について:甲1と甲4は,共通の課題を解決したものといえるが,両発明の前提
とする畳床の材料を考慮に入れて更に技術的意義を検討すると,———,違いがある。した
がって,積極的に甲1発明に甲4発明を適用する動機はない。また,甲4発明の「変形部材
を挟み込まない辺」の具体的構成が不明であるから,甲4には,上記相違点2に係る構成が
記載されているとはいえず,甲1発明に甲4発明を適用しても本件発明1の構成に至らない。
仮に,甲4に記載された縁なし畳の「変形部材を挟み込まない辺」において,畳床と畳表6
が非接着状態にあるとしても,その技術的意味を当業者が理解することは困難である。
<無効理由2(新規性欠如)>
本件発明1ないし3:甲6は,——本件発明1ないし3と同一とはいえない。甲7ないし
9によって,—–本件発明1ないし3と同一の構成を備えるものとはいえない。
本件発明1ないし5:公然実施性:甲10の写真により,—–本件発明4及び5が公然実施
されたものというためには,本件発明4及び5の特徴である「ホットメルト糊」で接着し,
畳床側面は非接着状態にすることが,理解される状態にあったことが必要であるが,—–本件
発明4及び5の特徴に係る工程を観察することができないから,—-本件発明4及び5の特徴
を理解できない。本件発明4及び5が公然と実施されたものであるとはいえない。
(原告主張の審決取消事由の要点)
取消事由1-1(容易想到性判断の前提となる相違点2の認定の誤り)
取消事由1-2(容易想到性判断における相違点2の判断の誤り)
取消事由1-3(容易想到性判断における副引用例の認定及び引用発明との組合せの可否
についての判断誤り)
取消事由1-4(本件発明2についての容易想到性の判断誤り)
取消事由2-1(公知性判断の前提となる甲6ないし9発明の認定の誤り)
取消事由2-2(公然実施性判断の誤り)
取消事由3(判断の遺漏):原告は,無効審判請求において,本件発明3について,甲10
を根拠とした新規性欠如の主張をしているにもかかわらず,審決は,この点を何ら判断して
おらず,判断に遺漏がある。

[裁判所の判断]
(8) 審決 上記第2の3及び4のとおり,請求項3について甲10を引用例とする公然実施
に関する無効理由を原告の主張として整理しておらず,その点の判断もない。
2 検討 上記認定事実によれば,審判請求書(甲31)の「本件特許を無効にすべき理由」
欄に具体的な記載はないものの,審判請求書の「請求の理由の要約」欄には,請求項3につ
いて甲10を引用例とする公然実施に関する記載が明確に存在し,その後も,口頭審理陳述
要領書(甲33)別紙において同趣旨の記載があり,しかも,証拠の記載が一部追加されて
いることからして,同主張が維持されていることが明白である。—-そして,その後の審判手
続において同主張を撤回したと認められないことは,上記認定のとおりである。他方,被告
らも,請求項3について甲10を引用例とする公然実施に関する記載がないことを前提に反
論をしていたとは認められず,この点を審決が判断することが,被告らにとって不意打ちと
なるものではない。
したがって,無効審判手続において,請求項3について甲10を引用例とする公然実施に
関する主張があり,当事者双方でその点について攻防が尽くされたと認められるにもかかわ
らず,審決は,その点についての判断を何ら示さなかったことになる。 ——-
——-なお,審決は,原告が主張していない無効理由,すなわち,甲1を引用例とする請求
項3についての進歩性欠如の無効理由の審理判断をしており(上記第2の4(1)オ),これにつ
いての通知及び意見申立ての機会が付与されていないから,手続が適正になされたとはいい
難い(特許法153条2項参照)。
[コメント]申し立て理由に記載されており判断すべき理由を判断せず、一方、申し立て理
由に記載されていない理由を判断しているにも拘わらず被告(特許権者)に反論の機会を与
えていない手続きを経た審決の違背が指摘されている。判決では、審決の手続き不備ととも
に、審判請求書について請求項毎の理由と証拠が分かりにくいことを指摘しており、審判段
階において争点の整理が十分になされていないことを批判している。無効審判(今後の異議
申立)の請求書では当然のことばがら、整理された理由と証拠の記載を心掛けたい。なお、
甲10については請求項1等についての理由(新規性、進歩性)を主張しているとも考えら
れるので、本件特許が無効になる可能性はある。