審決取消請求事件 » 平成25年(行ケ)10266号「透明フィルム」事件

名称:「透明フィルム」事件
無効審決取消請求事件
知財高裁:平成25年(行ケ)10266号 判決日:平成26年9月25日
判決:請求認容(審決取消)
条文:特許法29条2項
キーワード:用途、含有量

[事案の概要]
本件は、発明の名称を「透明フィルム」とする特許の無効審判請求不成立審決について,
審決には,引用発明に対する本件発明の新規性及び進歩性についての判断に関して誤りがあ
り,この誤りは審決の結論に影響するとして,審決を取り消した事例である。

[請求項1](追記下線は特許査定時より訂正された箇所)
エチレン/酢酸ビニル共重合体,及び該共重合体中に分散された受酸剤粒子を含む透明フ
ィルムであって,
受酸剤粒子が,金属酸化物(ただし,Sn,Ti,Si,Zn,Zr,Fe,Al,Cr,
Co,Ce,In,Ni,Ag,Cu,Pt,Mn,Ta,W,V,Moの金属酸化物を除
く),金属水酸化物又はこれらの混合物であり,
受酸剤粒子の含有量が共重合体に対して0.01~0.5質量%で,且つ受酸剤粒子の平
均粒径が5μm以下であり,そして
エチレン/酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有率が20~36質量%であり,
エチレン/酢酸ビニル共重合体が,さらに架橋剤により架橋されており,さらに
当該透明フィルムは太陽電池用封止膜又はガラスと透明フィルムとの間に蒸着金属膜を挿
入した熱線反射用の合わせガラス用透明接着剤層として使用されることを特徴とする透明フ
ィルム。

[主な争点]
甲1発明に対する本件発明の新規性,進歩性判断の誤り認定の誤り(取消事由4)

[特許庁の判断(審決)](下線は筆者追記)
「相違点1:本件発明1は、「太陽電池用封止膜又はガラスと透明フィルムとの間に蒸着金
属膜を挿入した熱線反射用の合わせガラス用透明接着剤層として使用する」透明フィルムと
規定しているのに対し、甲1発明は、本件発明1で規定する用途を規定していない点。
相違点2:本件発明1は、受酸剤粒子の含有量を「共重合体に対して0.01~0.5質
量%」と規定しているのに対し、甲1発明は、フィルム中の受酸剤粒子の含有量が10pp
mを超えない点。
…上記の相違点1について検討すると、甲1発明の「重袋用」「農業用」なる事項は、「太
陽電池用封止膜」でも「ガラスと透明フィルムとの間に蒸着金属膜を挿入した熱線反射用の
合わせガラス用透明接着剤層として使用される」ものではない。また、「インフレーション用」
「ドライラミネーション用原反」なる事項は、用途ではなくフィルムの製造方法であり、「イ
ンフレーション用」「ドライラミネーション用原反」として製造される大部分のフィルムが「太
陽電池用封止膜」又は「ガラスと透明フィルムとの間に蒸着金属膜を挿入した熱線反射用の
合わせガラス用透明接着剤層」として使用されるとの事情も認められないことからすると、
「インフレーション用」「ドライラミネーション用原反」であることをもって、甲1発明が、
本件発明1が規定する「太陽電池用封止膜」又は「ガラスと透明フィルムとの間に蒸着金属
膜を挿入した熱線反射用の合わせガラス用透明接着剤層」に用いるフィルムとはいえない。
そうすると、本件発明1は甲1発明と相違点1において相違するものである。
また、本件発明1は甲1発明と相違点2においても相違するものである。
そうすると、相違点3~4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記
載された発明ではない。」

[裁判所の判断(本判決)](下線は筆者追記)
裁判所は,「審決には,甲1発明に対する本件発明の新規性及び進歩性についての判断に関
して誤りがあり(取消事由4),この誤りは審決の結論に影響するものであるから,審決は取
消しを免れないと判断する」と判示して,審決を取消した。

1.甲1発明の認定について
「しかるに,甲1文献の〔従来の技術〕の項には,審決が認定したほかに,「酢酸ビニル含
有量が1~40重量%程度のものが日用成形品として」との用途が記載されている上,そも
そも〔従来の技術〕の項に記載された用途はいずれも例示にすぎないから,この記載自体,
フィルムが他の用途に用いられることを排除するものではないと解される。
そうすると,甲1発明に係るエチレン/酢酸ビニル共重合体組成物を用いたフィルムが審
決の摘示した用途に用いられること自体は否定することができないものの,これらの記載か
ら,酢酸ビニル含有量毎に用途を限定的に認定するのは妥当であるとはいえない。むしろ,
甲1文献の全体の記載に照らしても,甲1発明に係るフィルムについて,特定の用途を認定
することはできないものというべきである。」

2.相違点の認定について
「ア 相違点1について
前記(2)のとおり,甲1発明に係るフィルムについて,特定の用途を認定することはで
きないから,相違点1は,「本件発明1は,「太陽電池用封止膜又はガラスと透明フィルムと
の間に蒸着金属膜を挿入した熱線反射用の合わせガラス用透明接着剤層として使用する」透
明フィルムと規定しているのに対し,甲1発明は,用途が限定されていない点。」(以下「相
違点1’」という。)と認定するのが相当である。したがって,審決による,これと異なる相
違点1の認定には,誤りがあるというべきである。」

「イ 相違点2について
…しかしながら,甲1文献は,〔課題を解決するための手段〕の項において,「本発明は,
上記の問題が,エチレン・酢酸ビニル共重合体に添加する塩基性金属水酸化物の粒子径に関
係し,特定の粒子径以下のものを用いることにより上記の問題を解決したものである。」とし
ており,専らエチレン/酢酸ビニル共重合体に添加する塩基性金属水酸化物の粒子径に着目
し,その平均粒子径を5μm以下とすることを問題の解決手段として提示している。
そして,…通常は,当該共重合体に対し10~5000ppm(重量基準),好ましくは1
5~4000ppmの添加が有効である。」と記載しており,対象共重合体中の遊離酢酸量を
基準としつつも,添加量の決定のための具体的手段は何ら開示せず,10ないし5000p
pmという相当に幅のある数値範囲を提示している。」

「この点,エチレン/酢酸ビニル共重合体中に発生する遊離酢酸量を的確に算定すること
は実際には困難であるというべきであり,そうすると,当該共重合体中に添加する塩基性金
属水酸化物の添加量を的確に定めることもまた困難であるといわざるを得ない…。
また,…審決が,フィルム成形後にはもはや酢酸を捕捉する必要はないと解しているのは
誤りというべきである。そして,加工後に新たに発生する遊離酢酸の量は,対象共重合体中
の酢酸ビニルの含有量や加工後に加えられる熱や力の程度に応じて異なるということができ
るから,これを捕捉するために必要な塩基性金属水酸化物の量を一律に定めることも困難で
あると考えられる。
…実際上は,その的確な算定が困難であることを踏まえ,対象共重合体中の遊離酢酸量に
かかわらず,平均粒子径5μm以下の塩基性金属水酸化物を10ないし5000ppm添加
することによって,発明の作用効果が奏せられることを開示するものである…。」

「そうすると,甲1発明に係るフィルム製造の際にエチレン/酢酸ビニル共重合体中に添
加する塩基性金属水酸化物の具体的な添加量次第では,本件発明1が開示する受酸剤粒子の
含有量の範囲内となるような量の塩基性金属水酸化物が,フィルム中になお残存することと
なる可能性は極めて高いというべきであり,これによれば,本件発明1と甲1発明との間に,
受酸剤粒子の含有量において重複する範囲が生ずることとなる。
以上によれば,審決が,甲1発明に係るフィルム中の塩基性金属水酸化物の含有量は一律
に10ppmを超えないと推認したのは誤りであり,これを前提とする審決による相違点2
の認定にも誤りがあるというべきである。」

3.進歩性判断の誤りについて
「甲2文献(甲2)や甲11文献(甲11)…が記載されており,これらの記載に照らせ
ば,太陽電池用封止膜の材料として,架橋された透明なエチレン/酢酸ビニル共重合体を用
いることは周知であったと認められる。
これに加え,太陽電池用封止膜が,甲1文献に示唆のある機器と接触する部材であること
に照らすと,甲1文献に接した当業者にとって,甲1発明のフィルムを,架橋された透明な
ものとして太陽電池用封止膜の用途に用いることは,容易に想到し得ることであるというこ
とができる。」

[コメント]
審決では、引用文献1の用途の相違と受酸剤粒子の含有量の相違に基づき特許維持審決が
なされていた。一方、判決では、上記各相違点の認定がいずれも誤りとされ、その結果、進
歩性も否定された。
なお、同じ原告(請求人)による、同じ特許権に対するもう1つの無効審決取消訴訟につ
いても、同日に判決(平成25年(行ケ)10339号)がなされ、そちらでは請求が棄却
(特許維持審決の維持)されている。