審決取消請求事件 » 平成25年(行ケ)第10210号「leadless 表面実装パッケージ」事件

名称:「leadless 表面実装パッケージ」事件
拒絶審決取消請求事件
知的財産高等裁判所第4部:平成25年(行ケ)第10210号 判決日:平成26年9月3日
判決:請求棄却(拒絶審決を維持)
特許法49条6号、53条1項、36条6項2号
キーワード:手続違背(誤訳、原文新規事項)、補正却下の決定、発明の明確性

[事件の経緯]
原文にある技術用語「leadless」を「リード線の無い」と和訳すべきところを「無鉛」と誤訳
してしまったが、「無鉛」に基づき進歩性等を主張したため、特許法49条6号違反による拒絶理
由を通知せず審決をしても違法ではないと判断された事案。

[請求項1]
制御装置集積回路;
前記制御装置集積回路と結合するパワーMOSFET;
少なくとも1のインダクタを有する複数の表面実装受動素子;
を有する装置であって,
前記制御装置集積回路,前記パワーMOSFET,及び前記複数の表面実装受動素子は,機能
的に結合することで完全パワーマネージメントシステムを実装し,
前記制御装置集積回路,前記パワーMOSFET,及び前記複数の表面実装受動素子は,金属
リードフレームに直接実装され,かつ
前記制御装置集積回路,前記パワーMOSFET,及び前記複数の表面実装受動素子は,プラ
スチックで封止されることで,単一無鉛表面実装パッケージを形成する,
装置。

[拒絶審決の理由]
①本願補正発明は,本願優先日(平成17年7月1日)前に頒布された刊行物(特開2004
-228402号公報。以下「引用例」という。甲1)に記載された発明(以下「引用発明」と
いう。)及び本願優先日前の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたもので
あり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないもの
であるから,本件補正は,特許法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1
項の規定により却下すべきものである,②本願発明は,引用発明に記載された発明と同一である
から,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない,というものである。

[争点]
取消事由1:本願補正発明と引用発明との一致点の認定の誤り,相違点の看過
取消事由2:本件審決における手続違背

[裁判所の判断](取消事由2)
原告は,本願発明について,平成23年12月21日付けで拒絶査定を受けたため,平成24
年5月7日,これに対する不服の審判を請求し,併せて同日付け手続補正書のとおり,特許請求
の範囲を補正し,「無鉛」表面実装との構成を新たに付加した。
そして,原告は,同日付け審判請求書において,請求項1の下線部が施された補正事項は,明
細書[0017]乃至[0019]に記載されております。よってこの補正は当初明細書等の記
載事項の範囲内において行われたものであります。刊行物2(判決注:特開2004-1403
05号公報)は,パッケージが無鉛表面実装されることについて記載も示唆もしておりません。
しかも(ⅰ)受動素子が表面実装素子であること,及び(ⅱ)パッケージが無鉛表面実装される
ことは,明細書[0020]乃至[0022]に記載されたような有利な効果を奏しますが,刊
行物1,2ともに,そのような有利な効果について記載も示唆もしておりません。」と記載し,本
願補正発明の「無鉛」表面実装による有利な効果を主張した(甲12~14)。
これに対して,審判合議体は,平成24年8月23日付け審尋において,「表面実装素子である
受動素子は,引用例2(判決注:特開2005-142280号公報)に,パッケージが無鉛表
面実装される構造は,引用例3(判決注:特開2000-223638号公報)に,それぞれ記
載されるように周知であり,引用例1に記載された半導体パッケージにおいて,受動素子を表面
実装素子とし,半導体パッケージが無鉛表面実装される構成を採用することは,当業者が適宜な
し得たものといえる。」と記載し,これを原告に送付した(甲15)。
この審尋に対して,原告は,平成25年1月28日付け回答書において,「刊行物1に記載の発
明は,鉛の使用を必須とするものであるので,たとえ刊行物3に記載されているとしても,当業
者は,刊行物1の記載事項から,鉛を取り除いて本願発明に想到する動機付けを得ることはなか
ったと思料いたします。…よって本願発明は,刊行物1乃至3に基づいて当業者が容易に想到し
得たものではありません。」と記載し,刊行物1ないし3からは本願補正発明の「無鉛」表面実装
の構成に至る「動機付け」がない旨主張した(甲16)。
原告は,本願の国内移行書面作成の際及び平成24年5月7日付け手続補正書作成の際に,原
文にある技術用語「leadless」を「リードの無い」又は「リードレス」と和訳すべきところを誤
って「無鉛」と訳してしまったが,本願補正発明中の「無鉛」との技術事項は,本願補正発明の
課題や効果には何らの関連もなく,本願明細書等のどこにも,それに関連する技術的事項は記載
されていないから,不自然であることは明らかであって,審査官及び審判官は,PCT出願の原
文を参照すべきであったし,そうすれば,それが「leadless」の誤訳であることに気付いて,本
願補正発明の「無鉛」が原文新規事項に該当し特許法49条6号違反であり,又は,発明が明確
でないことから同法36条6項2号違反であることを理由とする拒絶理由を通知できたし,もし,
そのような拒絶理由が通知されていれば,原告は誤訳を訂正することにより,本願を特許へと導
くことができたにもかかわらず,審判合議体は,拒絶理由を通知することなく,いきなり補正却
下の決定を伴う拒絶審決をしたのであって,本件審決は,発明の保護に欠け,特許法の趣旨に反
することから,取り消されるべきである旨主張する。
原告は,平成25年1月28日付け回答書において,刊行物からは本願補正発明の「無鉛」表
面実装の構成に至る「動機付け」がない旨主張して,本願補正発明における「無鉛」表面実装の
構成を維持した前の時点において,鉛入りはんだ製品については廃棄による環境への鉛汚染の問
題が提起されていたこと,また,本願優先日当時,半導体の実装分野に限らず,はんだを使用し
て電気的な接続を行う技術分野では,はんだの無鉛化は不可避のトレンドであったと推認できる
ことの段落【0017】及び【0025】には「無鉛表面に実装されたパッケージ」の技術が記
載されていることから,審判合議体において,「無鉛」表面実装の構成を当初明細書に記載のない
新規事項と捉えることは困難であって,本件補正において「無鉛」表面実装の構成が付加された
ことが不自然,不合理であるとはいえないと認められる。
そうすると,審判合議体が,PCT出願の原文に当たらず,「無鉛」が「リード線のない」の誤
訳であることに気付かず,特許法49条6号又は同法36条6項2号違反による拒絶理由を通知
せずに補正却下の決定を伴う本件審決をしたからといって,その審理手続には何ら違法,不当な
点は見当たらず,ひいては本件審決が,発明の保護に欠け,特許法の趣旨に反するということは
到底できない。以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審決の
判断に誤りはないから,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。
[コメント]
誤訳があったとしても、その誤記に基づいて進歩性等を主張したり、明細書中に誤訳が明記さ
れていたりすると、特許法49条6号違反による拒絶理由を通知せずに補正却下の決定を伴う審
決がなされることもあるので、翻訳文のチェックはより慎重にした方が良い。特に本件の
「leadless」のように、全く異なる意味があるときは気を付けなければならない。