審決取消請求事件 » 平成25年(行ケ)10318号「ルミネセンス変換層を備えた発光ダイオード光源」事件

名称:「ルミネセンス変換層を備えた発光ダイオード光源」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 25 年(行ケ)10318 号 判決日:平成 26 年 9 月 11 日
判決:請求棄却
特許法第29条第2項,第70条第2項
キーワード:容易想到,明細書の参酌

[概要]
発明の名称を「ルミネセンス変換層を備えた発光ダイオード光源を製造するための方法」とす
る出願の拒絶審決に対して,原告が取消を請求した事案。

[本願補正発明](下線部は補正箇所,一部省略)
チップから放射される一次ビームの少なくとも一部がルミネセンス変換材料によって変換され
る,発光ダイオード光源を製造するための方法において,
(中略)
前記チップを前記ルミネセンス変換材料でもってコーティングする前に,個々のチップ間の切
断線に沿って溝を形成し,後に前記ルミネセンス変換材料でもってチップをコーティングする際
に,前記溝を少なくとも部分的に前記ルミネセンス変換材料でもって充填し,
前記チップのコーティング後に,前記発光ダイオード光源の色位置(CIEカラーチャート)
の調節を実施し,前記発光ダイオード光源の色位置を,前記ルミネセンス変換材料からなる層の
薄層化によって,該ルミネセンス変換材料からなる層の厚さを介して調節し,
続いて前記チップをウェハ結合体から発光ダイオード光源に個別化することを特徴とする,発
光ダイオード光源を製造するための方法。

[取消事由](一部抜粋)
個別化工程の順番の相違(取消事由1の1)
容易想到性の判断の誤り(取消事由2)

[原告の主張]<一部を抜粋して要約>
(取消事由1の1)
個別化する前に溝を形成する内容が記載されているのは,刊行物1の【0034】の箇所に留
まるが,この技術では補正発明の効果を得ることができない。なぜなら,補正発明と引用発明で
は,研磨面が相違しており,放射面側の反対側から,半導体基板10の厚みの半分程度の溝を形
成することになる。引用発明は,放射面側の反対側から放射光が放射されることはないので,反
対側から溝を半導体基板の半分の厚さに形成しても,縁部方向の変換光を得ることはできない。
一方,本願補正発明では,チップの縁部でも変換光が放射できるという効果が得られる。

(取消事由2)
引用発明の第1塗布工程とは,放射側とは反対側の面に対する透明樹脂28の塗布であり,研
磨工程とは,第1塗布工程によって電気的なコンタクトに塗布された透明樹脂を除去するための
研磨である。一方,刊行物2における研磨は,放射面の蛍光物質を含む樹脂材料を研磨している。
したがって,絶縁性の透明樹脂を除去するために,放射面と反対側を研磨する引用発明の研磨に,
放射面の樹脂材料の研磨である刊行物2を適用するとの判断は誤りである。

[被告の主張]
(取消事由1の1)<一部を抜粋して要約>
補正発明の特許請求の範囲には,「表側」が,放射光が放射される方向であることは記載されて
いない。また,本願明細書の【0036】には,「例えばチップの表側は,基板における半導体層
列側とは反対の側でも良く,…」との記載があるところ,補正発明においても,「電気的なコンタ
クト」が形成される側の反対側から,光を取り出すことになる。そして,特許請求の範囲によれ
ば,「電気的なコンタクト」は「表側」にあるとされているから,本願補正発明は,「表側」とは
反対側から放射光が放射されるものを排除するものではなく,放射光の放射される方向が「表側」
に特定されるものではない。

(取消事由2)
原告の主張は,本願補正発明の「表側」は,放射光が放射される方向であり,引用発明では,
放射側と反対側に電気的なコンタクトが存在することを前提とするものであるが,前提において
失当である。

[裁判所の判断]
(取消事由1の1)<一部を抜粋して要約>
明細書の記載を参酌すれば(特許法70条2項),原告の主張するように,本願補正発明におけ
る「表側」とは,電気的なコンタクトが存するというだけではなく,放射光が放射される面を意
味すると解するのが合理的である。被告は本願明細書の【0036】を根拠にフリップチップ実
装の場合には電気的なコンタクトがある側の反対側が光の放射面となるから,放射光の放射され
る方向が「表側」に特定されるものではないと主張するが,電気的コンタクトの存在するLED
チップの「表側」から放射光が放射されることを前提として,そのような構成が有する問題点を
解決課題とする発明であること,段落【0036】は1つの実施例について言及したものにすぎ
ず,その具体的実装形態も必ずしも明らかではないことからすれば,同段落の記載内容にかかわ
らず,同記載によって,「表側」について上記解釈と異なる解釈をすることはできず,被告の主張
を採用することはできない。

他方,原告は刊行物1の図9(a)においては,光電子部品の電気的コンタクト(接続電極)のあ
る面が放射光の放射側と反対側に存在することを理由として,引用発明においては,光電子部品
の電気的コンタクトがある面は,放射側と反対側であると主張するが,LEDチップの実装形態
としては,このような「フリップチップ実装」のほかに,電気的なコンタクト面を上にして,放
射光の主な放射面(取出し口)が電気的なコンタクトのある面となる実装形態(フェイスアップ
実装)も,当業者にとって周知の実装形態であり,引用発明により製造される「光電子部品」の
実装形態を,フリップチップ実装に限定することを示唆する記載は刊行物1にはなく,かえって,
引用発明により製造されたLEDチップは,すべての面から放射するという構造を有しており,
フェイスアップ実装にもフリップチップ実装にも適用できるものであるから,刊行物1に開示さ
れている実施例を根拠として,引用発明によって製造される光電子部品がフリップチップ実装の
みを想定して製造されるものと解することはできず,電気的なコンタクトの存する面が放射光の
放射される面とはならないということはできない。したがって,原告の主張を採用することはで
きない。

(取消事由2)<一部を抜粋して要約>
刊行物2の記載に接した当業者であれば,引用発明における光の放射面側に塗布された透明樹
脂を研磨して接続電極を露出させる工程である「研磨工程」が,接続電極を露出させることに加
えて,透明樹脂の層の厚さを調整して,所望の色度を得る手段にもなり得ることを理解するとい
え,同一の技術分野及び製造工程を有する引用発明においても,製造する光電子部品を任意の色
調とするために,「研磨工程」を行う際の研磨量を調整して色度の調整を行うことは,当業者であ
れば容易になし得ることであるといえる。また,刊行物2記載の技術は,フリップチップ実装用
の光電子部品について,その電気的コンタクト(接続電極)の存しない面(放射光が主に放射さ
れる側の面)を研磨するものであるが,このことが,引用発明の半導体基板表面(放射光の放射
される面)に刊行物2記載の技術を適用することについての阻害要因になるとも認められない(原
告からもその旨の具体的な主張はない。)。

[コメント]
結論としては原告の主張が退けられている。しかし,文言上は請求項の記載に含まれる内容で
あって,本願明細書に実施例の1つとして言及しているにも関わらず,本件発明が想定している
課題に鑑みれば当該構成は請求項の記載からは外れると裁判所が解釈して被告の主張も一部退け
ている点が興味深い。