審決取消請求事件 » 平成25年(行ケ)10228号 「光触媒体の製造法」事件

名称:「光触媒体の製造法」事件
審決取消請求事件
知財高裁:平成25年(行ケ)10228号 判決日:平成26年5月29日
判決:請求認容(無効審決の取消)
条文:特許法38条、123条1項2号
キーワード:共同発明者、行政の技術指導

[事案の概要]
本件は、特許法38条違反を理由とする無効審決の取消しが認容された事案である。技術
指導した行政への特許を受ける権利ないしは特許権の一部帰属の有無が争点となっていた。

[請求項2](請求項1は前訴で無効確定)
基体上に、光触媒によって分解されない結着剤からなる第一層を設け、該第一層の上に、
光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとの混合物を用いて調製した第二層を設けること
を特徴とする光触媒体の製造法。

[主な争点]
共同出願要件違反に関する審決の認定判断の誤り(取消事由)

[特許庁の判断(審決)]
審決では,「本件特許に係る発明の完成にはCの技術指導に関与があったことが認められ,
Cの技術指導とは無関係に本件特許に係る発明がなされたものということはできず,本件訂
正発明は本件確認書第1条の「技術指導関連発明」であるとし,さらに,本件確認書第2条
の「当該発明を独自に行ったことについて事前に知事の同意を得るものとする。」との規定に
よれば,原告らは,本件特許は,技術指導関連発明でありセンターとは無関係に独自に発明
を行ったと主張する以上,第2条の規定により事前に知事の同意を得なければならないこと
になるのに,原告らは,知事の同意が得られたことについては証明してこなかったとし,佐
賀県が本件訂正発明について特許を受ける権利を有し,少なくとも本件特許の出願人である」
旨を認定判断した。

[裁判所の判断(本判決)]
裁判所は,次のように判示して,審決を取消した。
1.「技術指導関連発明」の意義について
「そうすると,本件確認書における「技術指導関連発明」とは,単に技術指導に関連して
得られた発明を意味するものにすぎないと解するのが相当である。
…そして,証拠…によれば,本件訂正発明はCによる技術指導に関連したものと認められ
るので,本件訂正発明は,本件確認書の「技術指導関連発明」に該当し,本件確認書の適用
を受けるものであるといえる。」

2.Cが本件訂正発明の発明者であるかどうかについて
「そうすると,本件訂正発明が,上記 認定のとおり本件確認書の「技術指導関連発明」
に該当するとしても,本件訂正発明の発明者が誰であるかによって,適用されるべき本件確
認書の条項が異なることとなる。」

「以上によれば,本件明細書には,アモルファス型過酸化チタンゾルの製造方法やアモル
ファス型過酸化チタンゾルからの酸化チタンゾルの製造方法の記載もあるものの,本件訂正
発明の特徴的部分は,光触媒を基体に接着させるためのバインダーとしてアモルファス型過
酸化チタンゾルを用い,これにより,光触媒粒子をあらゆる基体上に,その光触媒機能を損

なわせることなく,強固に,かつ,長期間にわたって担持させることができる点にあるもの
と認められる。」

「他方,…Cを発明者とする発明に係る特許公報やCらの論文等には,アモルファス型過
酸化チタンゾルをバインダーとして用いることに関する記載も示唆もない。」

「…,Cの証言によっても,Cが技術指導をした内容は,あくまでPTA溶液(アモルフ
ァス型過酸化チタンゾル)やPAゾル(アナターゼ型酸化チタンゾル)を製造し,これらを
利用して光触媒(酸化チタン膜)を製造する方法やそのコーティング方法,及び,せいぜい
PAゾルにおいて,アナターゼ型の酸化チタンの結晶が,PTA溶液に分散しているものが
存在することなどにとどまり…,基体に対する高い接着力を実現するという課題の解決のた
めに,アモルファス型過酸化チタンゾル(PTA溶液)を光触媒と混合して用いること,す
なわちバインダーとして用いることまでは及んでいないものと解される。」

「…なお,…上記記載及び証拠に照らすと,上記公報にはアモルファス型過酸化チタンゾ
ルを調製する方法が記載されているものと認められる。そうすると,アモルファス型過酸化
チタンゾル及びその製造方法自体は本件特許の出願前から公知であったものと認められる。
また,C自身も,…アモルファス型過酸化チタンゾルの製造方法について発表した旨証言し
ている。したがって,Cは,アモルファス型過酸化チタンゾルの存在やその製造方法に関し
ては,公知の物及び方法について指導したにすぎないものと認められる。」

「そうすると,上記発明特定事項は,単に本件訂正発明9における光触媒としての酸化チ
タンゾルについて,本件特許の出願前のみならず,Cによる技術指導以前に既に公知となっ
ていた製法により得られるものとして特定したにすぎず,しかも,これを用いることにより
顕著な作用効果をもたらすものとも認められない。したがって,上記の発明特定事項は,本
件訂正発明9の特徴的部分に該当するということはできず,上記事項がCの発明でありかつ
Cが同事項につき技術指導をしたとしても,Cは本件訂正発明9の特徴的部分の完成に創作
的に寄与したものとはいえず,したがって,同発明の共同発明者であるとはいえない。本件
訂正発明5についても,…Cが本件訂正発明5の共同発明者であるとはいえない。」

3.本件確認書第2条の解釈について
「上記 認定のとおり,Cは本件訂正発明の発明者とは認められないので,本件訂正発明
の発明者はB(及びA)であり,Bは被指導企業の者であるから,本件訂正発明に係る特許
を受ける権利のうちBの持分については,本件確認書第2条の適用があることとなる。そし
て,原告らは,本件特許の出願に当たり,事前に佐賀県知事の同意を得ていない…。
…以上の佐賀県の行動状況に照らすと,本件確認書第1条の規定における第2条に該当す
る場合とは,佐賀県知事の同意を得なかった場合を意味するものではなく,むしろ被指導企
業の者が独自に行った技術指導関連発明に関する場合を意味するものと解釈するのが合理的
である。このように解すると,…特許法の原則とも整合的である。
そうすると,原告らが本件特許を出願するに当たり,佐賀県知事の同意を得なかったから
といって,それにより直ちに本件訂正発明について特許を受ける権利ないしは本件特許権が
佐賀県知事に帰属することとなるということはできない(本件確認書第2条に定める佐賀県
知事の同意を得るとの手続に違反したかどうかの問題が残るだけである。)。」

[コメント]
審決では確認書規定中の同意の欠如を理由に形式的に判断していたが、本判決では、確認
書の規定や指導者の関与の程度について発明の内容に踏み込んで実質的に判断し、審決を取
消した。なお両当事者間での本件絡みの特許係争は米国や台湾等でも生じている模様である。