審決取消請求事件 » 平成25年(行ケ)10207号「認証代行装置」事件

名称:「認証代行装置」事件 審決取消請求事件
知的財産高等裁判所第4部:平成 25 年(行ケ)10207 号 判決日:平成 26 年 4 月 16 日
判決:請求容認(審決取消)
特許法第29条第2項
キーワード:進歩性 作用効果を失う構成変更の必要性 動機付け

[概要]
コンピュータシステム(CS)関連発明の拒絶査定不服審判の審決に対する審決取消訴訟
において、拒絶査定を維持するとした審決が、引用発明の作用効果を失う構成変更の必要性
がなく且つ動機付けも無いことから、取り消された事例。

[本件発明:請求項1] ※括弧内は筆者が記入。下線部が引用発明との相違点
A: リンク先情報(URL等)を登録しておくリンク先情報登録手段と,
B: 登録されたリンク先における利用者の認証情報(ID、パスワード等)であり該利用
者に通知された認証情報(ID、パスワード等)を格納する認証情報格納手段と,
C: 各リンク先毎に用意され,該リンク先で実行される認証処理で表示される画面構成に
対し,前記認証情報(ID、パスワード等)を埋め込むための認証処理用のひな形スクリプ
トを格納するひな形スクリプト格納手段と,
D: インターネットを介して前記利用者の情報閲覧手段(ブラウザ等)よりリンク先の指
定に関する情報を受信する手段と,
E: 該利用者の認証情報(ID、パスワード等)が登録されているリンク先が前記受信さ
れたリンク先の指定に関する情報により指定された場合に,前記リンク先情報登録手段から
該当するリンク先情報(URL等)を読み取り,当該利用者のそのリンク先における認証情
報(ID、パスワード等)を認証情報格納手段から読み出すと共に,前記ひな型スクリプト
格納手段から,該当するリンク先のひな形スクリプトを読み出して,該ひな形スクリプトの
変数として該リンク先における認証情報(ID、パスワード等)を指定して該リンク先で実
行される認証処理で表示される画面構成に対し前記認証情報(ID、パスワード等)を埋め
込むための認証処理スクリプトを作成し,上記リンク先情報(URL等)及び認証処理スク
リプトを,該利用者の前記情報閲覧手段(ブラウザ等)に前記インターネットを介して転送
する認証代行処理手段とを有することを特徴とする認証代行装置。

[審決での判断](判決P3~5、P43)
1)引用発明:アクセス可能なサーバー/アプリケーションのID/パスワードを登録して
おく登録手段と,
各サーバー/アプリケーションの種類ごとに用意され,ログイン操作を自動化するスクリ
プトを格納する格納手段と,
前記サーバー/アプリケーションのID/パスワードの束及び前記スクリプトをクライア
ント・モジュールに配布する手段と、を有するSSOサーバー。
2)相違点1:構成Bの下線部が引用発明では明らかでない点
3)相違点2:構成Dを有することが引用発明では明らかでない点
4)相違点3:構成Eに関し、引用発明では「前記サーバー/アプリケーションのID/パ
スワードの束及び前記スクリプトをクライアント・モジュールに配布する手段」である点
5)審決での進歩性の判断
「アクセス可能なサーバー/アプリケーションのID/パスワードの束」を受け取る具体
例が示されているが、ユーザがどの「サーバ/アプリケーション」にアクセスしたいかを指
定して、その指定された「サーバ/アプリケーション」の「ID/パスワード」を受け取る
ようにすることは、当業者が適宜なし得る。「インターネットを介して」、どの「サーバ/ア
プリケーション」にアクセスしたいかを指定する情報を「SSOサーバー」に送るようにす
ることも当業者が適宜なし得るから、構成Dを有するものにすることは、当業者が適宜なし
得ることである。

[裁判所の判断](判決 P44~46)
これに対し,引用発明は,(略),SSOサーバーにログインすると,アクセス可能なサー
バー/アプリケーションのID/パスワードの束と,各サーバー/アプリケーションの種類
ごとに用意され,ログイン操作を自動化するスクリプトが,SSOサーバーからクライアン
ト・モジュールに配布され,クライアント・モジュールは,ログイン操作を自動化するスク
リプトを実行するものである。ここで,アクセス可能なサーバー/アプリケーションのID
/パスワードの束とは,SSOサーバーにログインしたユーザーが,アクセスすることがで
きる全てのサーバー/アプリケーションのID/パスワードの組合せであると理解すること
ができる。
そうすると,引用発明においては,一度SSOサーバーにログインすれば,クライアント・
モジュールは,SSOサーバーにログインしたユーザーがアクセス可能な全てのサーバー/
アプリケーションのID/パスワードの組合せ,各サーバー/アプリケーションの種類ごと
のログイン操作を自動化するスクリプト,及び各サーバー/アプリケーションのリンク先情
報を受け取るから,それ以降,SSOサーバーとの通信を行う必要がなく,ログイン操作を
自動化するスクリプトを実行することで,シングル・サインオン機能を果たすとの作用効果
を奏すると認められる。しかるに,このような構成を採用する引用発明について,SSOサ
ーバーが「利用者の情報閲覧手段よりリンク先の指定に関する情報を受信する手段」を有す
るものとした上で,ユーザーがどの「サーバー/アプリケーション」にアクセスしたいかを
指定して,その指定された「サーバー/アプリケーション」の「ID/パスワード」を受け
取るように構成を変更するとすれば,利用者が情報閲覧手段よりリンク先の指定を行う都度,
クライアント・モジュールは,SSOサーバーとの通信を行い,その指定された「サーバー
/アプリケーション」の「ID/パスワード」を受け取り,上記指定された「サーバー/ア
プリケーション」へのログイン操作を自動化するスクリプトを実行することにより,シング
ル・サインオン機能を果たすことになる。しかし,それでは,一度SSOサーバーにログイ
ンすれば,クライアント・モジュールは,それ以降,SSOサーバーとの通信を行う必要が
なく,ログイン操作を自動化するスクリプトを実行できるとの引用発明が有する上記の作用
効果が失われることとなる。したがって,引用発明において,相違点2に係る本願発明の構
成に変更する必要性があるものとは認められない。
このように,引用発明について,(略)(相違点2に係る構成とすること)とした上で,ユ
ーザーがどの「サーバー/アプリケーション」にアクセスしたいかを指定して,その指定さ
れた「サーバー/アプリケーション」の「ID/パスワード」を受け取るように構成を変更
することについては,引用発明が本来奏する上記作用効果が失われるものであって,その必
要性が認められないから,引用発明における上記構成上の変更は,解決課題の存在等の動機
付けなしには容易に想到することができない。しかして,引用例には,引用発明について上
記構成上の変更をすることの動機付けとなるような事項が記載又は示唆されていると認める
ことはできない。

[コメント]
本事案では、引用発明の構成から導き出せる作用効果を認定し、当該引用発明から出発し
て本発明の構成へ変更すれば、上記作用効果が失われてしまうので、そのような構成変更の
必要性がなく、当該変更の動機付けとなる事項が示唆されていないから、容易想到ではない
と判断された。CS関連発明に限らず、主引例からの構成変更によって作用効果が失われる
場合の反論案の一つとして、参考になる。