審決取消請求事件 » 平成25年(行ケ)第10229号「靴下及びその編成方法」事件

名称:「靴下及びその編成方法」事件
平成25年(行ケ)第10229号 審決取消請求事件
知的財産高等裁判所第2部
判決日:平成26年4月21日
判決:審決取消
関連条文:特許法第29条第2項
キーワード:進歩性、阻害要因

[概要]
進歩性を否定した特許庁の無効審判における審決が取り消された事案。

[本件発明]
【請求項1】
口ゴム部から身部ついで足部へと編成していく靴下において(構成A),踵部の外側すなわち着
用者の第五趾側は減らし目ついで増やし目を行いながら編成し(構成B),踵部の内側すなわち
着用者の第一趾側は減らし目,増やし目,減らし目ついで増やし目の順に編成して,踵部の内側
に形成されるゴアライン2aの全幅L1が,踵部の外側に形成されるゴアライン2bの全幅L2
よりも小さくなるようにすると共に(構成C)外側方向にウェール数を多めに編成することを特
微とする靴下の編成方法(構成D)。

[審決の内容]
(一致点)
口ゴム部から身部ついで足部へと編成していく靴下において,踵部の外側すなわち着用者の第五
趾側は減らし目ついで増やし目を行いながら編成し,踵部の内側すなわち着用者の第一趾側は減
らし目,増やし目,減らし目ついで増やし目の順に編成する,靴下の編成方法。
(相違点2)
本件発明では,踵部の外側方向にウェール数を多めに編成しているのに対し,甲1発明では,そ
のような特定がない点。

<相違点2の判断>
まず,「踵部の外側方向にウェール数を多めに編成」することの技術的意義について検討すると,
本件発明においては,本件明細書の段落【0024】及び図4に示されているように「シリンダ
4の半周よりも踵部外側編成方向に大きめに編成範囲をとっている」ものではあるが,靴下は踵
を基準として着用するのが一般的であり,特開2004-218131号公報(甲11)に記載
されているように,シリンダの往復回転により編成されたコースの中心は踵部から爪先部に延び
る足部中心線と重なることは技術常識であることからすると,踵部の外側方向にウェール数を多
めに編成」することは,踵部の外側方向にウェール数を多く編成した分だけ,踵部の面積を全体
として大きくすることを技術的に意味すると認められる。

そして,甲2には,踵部を編成するウェール数を多くすることにより踵部の面積を大きく(多く)
することが記載され,また,踵部の面積は,靴下の履き心地等を考慮して当業者が適宜に決め得
る事項と認められること,さらに,実願平5-44717号(実開平7-12410号)のCD
-ROM(甲3)及び特開2003-239103号公報(甲4)に記載されているように,シ
リンダの回転角度を左右いずれにも自在にシフトして編成範囲を設定し得る靴下編機は周知であ
って,シリンダにおける編成範囲の設定は当業者が適宜に決め得る事項と認められることから,
甲1発明において,靴下の履き心地等を考慮して踵部の面積を大きくするために,編機のシリン
ダにおける編成範囲を踵部の外側方向に対応する側に大きめにとり,上記相違点2の本件発明の
ようになすことは,当業者が適宜になし得たものである。
[裁判所の判断]
(2)甲1発明と甲2発明の組合せの可否について
ア甲1発明の「まち部20」は,踵部の内側を,減らし目,増やし目,減らし目ついで増やし目
の順に編成する,すなわち,減らし目及び増やし目工程を二工程ずつ行うことで形成されるが,
甲1の段落【0008】【図1】のとおり,減らし目,増やし目,減らし目ついで増やし目の順に
編成することは,ゴアラインをY字状に形成することと同じである。そして,「まち部20」は,
歩く際に,内側に力が加えられることによって踵部の内側の生地が引っ張られて緊張する程度を,
緩和するものである(段落【0007】。)

よって,上記(1)で認定した甲2発明と対比すると,甲1発明の「まち部20」と甲2発明の「ウ
ェール数を多めに編成すること」は,靴下という同じ技術分野において,靴下のはき心地を良好
にするという同じ技術的課題に対する解決方法であり,歩行時における編地の緊張を緩和すると
いう同じ技術的効果を奏するものであるといえる。

イ他方,審決が認定するとおり,シリンダの回転角度を左右いずれにも自在にシフトして編成範
囲を設定し得る靴下編機は,周知技術であり(甲3,4),かつ,課題の解決のためにシリンダの
回転角度を調整することは,当業者にとって格別困難な事柄ではないから,ウェール数をどの程
度多めに編成するかについては,甲2発明に記載がなくとも,当業者が自由に調整できる設計事
項である。

ウしたがって,甲1発明の踵部の内側において,「まち部20」に代えて又はこれに加えて,甲2
発明の「ウェール数を多めに編成する」構成を適用することは,当業者が容易に想到し得るもの
である。

(3)甲1発明と甲2発明の組合せの結果について
アところで,甲2発明において,「ウェール数を多めに編成する」のは,あくまでも甲1の「まち
部20」と同じ効果をもたらすためであるから,当業者が,靴下の内側又は外側に対し,甲2発
明の構成を適用しようとするのは,甲1発明の「まち部20」が形成されるのと同じ側,すなわ
ち踵部の内側である。

したがって,甲2の「ウェール数を多めに編成する」構成を甲1発明に適用したとしても,それ
は,減らし目及び増やし目工程を二工程ずつ行う側とウェール数を多めに編成する側とが踵部に
おいて同じ側になることが明らかであり,両方の側が互いに反対となる本件発明の構成,踵部の
内側すなわち着用者の第一趾側は減らし「目,増やし目,減らし目ついで増やし目の順に編成・・・
すると共に外側方向にウェール数を多めに編成する」には至らないから,相違点2を解消できな
い。

イ仮に,「まち部20」が形成される側と反対側,例えば,踵部の内側に「まち部20」を形成し
つつ,踵部の外側の「ウェール数を多めに編成」した場合には,相違点2そのものは解消される
ことになる。

しかしながら,かかる構成を採用した場合,踵部の内側に「まち部20」による余裕ができる一
方で,踵部の外側に「ウェール数を多めに編成」することによる余裕ができてしまい,踵部の両
側に余裕ができることになるため,踵部の内側と外側とが対称形に近づいてしまい,踵部が左右
非対称形に形成された靴下を提供するという甲1発明の目的や課題に反することとなってしまう。

したがって,「ウェール数を多めに編成すること」を甲1発明の「まち部20」が形成される側と
は反対側に適用することには,阻害事由があるということになる。