審決取消請求事件 » 平成25年(行ケ)10193号「ソレノイド駆動ポンプの制御回路」事件

名称:「ソレノイド駆動ポンプの制御回路」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 25 年(行ケ)10193 号 判決日:平成 26 年 3 月 25 日
判決:請求認容(審決取消)
特許法29条2項
キーワード:進歩性、相違点の判断

[概要]
原告は、発明の名称を「ソレノイド駆動ポンプの制御回路」とする特許第 4716522 号の特
許権者である。

被告が、当該特許の請求項1に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無効
2012-800050 号)を請求し、特許庁が、当該発明についての特許を無効とする審決をしたこ
とから、原告がその取消しを求めた事案。

[本件訂正発明(訂正後の請求項1)]
ソレノイド駆動ポンプのポンプを駆動するソレノイド(8)に,時間が一定で且つ周期的に発
生される駆動パルスに応じて駆動電圧を周期的に供給して,該ソレノイド(8)を駆動する駆動
回路(7)と,
電圧が異なる複数の交流電圧の電源(1)のうちの任意の交流電圧の電源(1)から整流され
て駆動回路(7)に提供される直流電圧を検出する検出手段(5)と,
該検出手段(5)で検出した直流電圧に基づいて,駆動回路(7)に提供された直流電圧を,
電源(1)の電圧に関わりなく一定の平均電圧をソレノイド(8)に供給するための所望の直流
電圧に変換すべく,該駆動回路(7)に制御信号を供給する演算処理部(6)とを具備するソレ
ノイド駆動ポンプの制御回路であって,
前記制御信号は,駆動回路(7)に提供される直流電圧をスイッチングし,前記駆動パルス内
におけるオン・オフのデューティを制御する信号であることを特徴とするソレノイド駆動ポンプ
の制御回路。

[争点]
相違点1に係る審決の判断

[相違点1]
コイルに関し,本件訂正発明は,コイルはソレノイド駆動ポンプのソレノイドであるから,ソ
レノイド駆動ポンプが制御対象であって,さらにソレノイド駆動ポンプはポンプを駆動するソレ
ノイドに,時間が一定で且つ周期的に発生される駆動パルスに応じて駆動電圧を周期的に供給し
て,ソレノイドを駆動するものであるのに対し,刊行物1発明は,コイルはトランスの一次コイ
ルであるから,トランスが制御対象である点。

[裁判所の判断]
本件訂正発明は,・・・ソレノイド駆動ポンプの制御回路に関する発明であり,ポンプの技術
分野に属するものであって,その課題は,ユーザーが電源電圧の選択を必要とせず,かつ,種類
が低減され,したがって,管理が容易なソレノイド駆動ポンプの制御回路を提供することである。

これに対し,刊行物1発明は,・・・パソコン等の電子機器に内蔵されたDC/DCコンバー
タの制御回路に関する発明であり,電子機器の技術分野に属する発明であって,その課題は,利
用者の経済的負担を軽減でき,設置面積が少なくて済み,かつ様々な電源に対応可能な電源供給
手段を備えた電子機器を提供することにある。

このように,刊行物1発明は,電子機器の技術分野に属するものであるのに対し,本件訂正発
明はポンプの技術分野に属するものであるから,両者の技術分野は明らかに相違する。しかるに,
審決は,・・・交流電源を用いる電気機器において,電源電圧が異なっていても同じ機器を使用
できるようにするとの課題は周知の課題であることを理由として,ソレノイド駆動ポンプにも上
記課題があるとする。しかし,これは技術分野を特定しない交流電源を用いる電気機器における
課題であって,ポンプの技術分野における課題ではないし,ポンプの技術分野において当然に要
求される課題であることを示す証拠もない。

そもそも,本件訂正発明が属するポンプの技術分野における当業者が,ポンプとは明らかに技
術分野が異なる電子機器に関する刊行物1に接するかどうかも疑問であり,また,仮に,ポンプ
の技術分野における当業者が刊行物1に接したとしても,刊行物1発明は,携帯型パーソナルコ
ンピュータ等の電子機器に関するものであり,刊行物1には,ポンプについての記載はなく,刊
行物1発明が技術分野の異なるポンプに対しても適用可能であることについてはその記載もなけ
れば示唆もない。したがって,携帯型パーソナルコンピュータ等の電子機器に関する刊行物1発
明をポンプに適用しようとする動機付けもないといわざるを得ない。

以上によれば,刊行物1発明を本件訂正発明の相違点1に係る構成とすることが容易想到であ
るとした審決の前記判断は誤りである。

したがって,本件訂正発明が容易想到であり,本件特許を無効とすべきものとした審決の判断
は誤りであるから,審決は違法なものとして取消しを免れない。

[コメント]
審決においては、刊行物1発明の「パソコン」と、本件訂正発明の制御対象である「ソレ
ノイド駆動ポンプ」とを、交流電源を用いる電気機器という同じ技術分野として、進歩性を
否定している。即ち、刊行物1発明の「パソコン」の適用対象を、「ソレノイド駆動ポンプ」
にすることで、本件訂正発明の進歩性を否定している。

確かに、回路における制御方法等は、広く汎用的に用いられるかもしれない。しかしなが
ら、その制御対象が異なれば、その制御方法を用いることで解決できる課題が異なることは
明らかである。そして、「パソコン」に係る技術分野の当業者と、「ソレノイド駆動ポンプ」
に係る技術分野の当業者とが異なることも明らかである。

審査上、技術分野を広く解釈されて進歩性を否定されることがよくある。しかも、本件に
係る無効審判においては、被告(無効審判における請求人)が主張していない無効理由で、
特許を無効としており、特許権者にとって到底受け入れがたい審決であろう。
それに対して、裁判所が適正な判断を行ったものと考える。