審決取消請求事件 » 平成25年(行ケ)10155号「車椅子」事件

名称:「車椅子」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 25 年(行ケ)10155 号 判決日:平成 26 年 1 月 27 日
判決:請求認容
特許法29条2項、50条
キーワード:進歩性

[概要]
本件は,特許無効審判請求不成立審決の取消訴訟である。争点は,①引用発明認定の誤り
の有無,②本件発明と引用発明との相違点認定の誤りの有無及び③当該相違点判断の誤りの
有無である。

[裁判所の判断](筆者にて適宜要約のうえ、下線を引いた。)
2 取消事由1(引用発明認定の誤り)について
引用発明の軸受パイプ41は,サイドフレーム部材21に沿った方向に配設されている軸
を介して軸受ブロック42に枢着されていると認定するのが相当であり,前記明細書(訳文)
の記載を前提として,引用例の図面に接した当業者も,そのように理解するものといえる。
したがって,審決が,引用発明の構成について「各軸受パイプ41の端部は,軸受ブロッ
ク42に枢着され(る)」と認定した部分は,誤りであり,この点において審決は取り消され
るべきである。

ただし,事案にかんがみ,上記の点を改めて引用発明を認定した上で,本件発明と引用発
明とに相違点が認められるか否かについて,更に検討することとする。

3 取消事由2(相違点認定の誤り)について
審決が認定した本件発明と引用発明との相違点は,下側杆の枢支態様と下側杆の支持態様
の観点から整理すると,次のとおりである。

【相違点①】
下側杆の枢支態様が,[1]本件発明は,左右側枠に沿った方向に配設されている枢軸を介し
てなされるものであるのに対し,[2]引用発明は,軸受パイプ41を2つの軸受ブロック42
に掛け渡して枢支するものであって,引き抜き可能に挿通支持する枢軸を介して枢支を行う
ものでない点。

【相違点②】
下側杆の支持態様が,[1]本件発明は,枢軸を支持するための軸穴を下側杆取付部に複数個
上下に相対して配列して設け,下側杆を該前後一対の下側杆取付部間に位置させて,該軸穴
に該枢軸を引き抜き可能に挿通支持させるものであるのに対し,[2]引用発明は,軸受パイプ
41(下側杆に相当)を枢支する軸受ブロック42を,サイドフレーム部材間に延在する保
持コンソール36に上下に配列して設けられた複数の穴38の一つに,例えばねじによって
固く着脱可能に接続するものである点。

ところで,上記2に認定判断のとおり,引用発明の軸受パイプ41は,サイドフレーム部
材21に沿った方向に配設されている軸を介して軸受ブロック42に枢着されていると認定
するのが相当であるから,上記相違点①は,引用発明との相違点ではなくなり,審決の相違
点認定には誤りがある。

そして,相違点②は,引用発明の軸受パイプ41がサイドフレーム部材21に沿った方向
に配設されている軸を介して軸受ブロック42に枢着されていると認定されたことを前提と
すると,次のとおり修正される。

【相違点②´】
[1]本件発明は,枢軸を支持するための軸穴を下側杆取付部に複数個上下に相対して配列し
て設け,下側杆を該前後一対の下側杆取付部間に位置させて,該軸穴に該枢軸を引き抜き可
能に挿通支持させるものであるのに対し,[2]´引用発明は,軸受パイプ41(下側杆に相当)
に挿通される軸を枢支する軸受ブロック42を,サイドフレーム部材間に延在する保持コン
ソール36に上下に配列して設けられた複数の穴38の一つに,例えばねじによって固く着
脱可能に接続するものであり,また,軸受パイプ41に挿通した軸は引き抜き可能かどうか
不明である点。

以上のとおりであり,審決の認定した相違点には誤りがあり,その限りで取消事由2には
理由があるが,進歩性の有無の観点から,上記に認定した本件発明と引用発明との新たな相
違点について,更に検討を加えることとする。

4 取消事由3(相違点判断の誤り)について
上記3に認定判断したとおり,審決の認定した相違点①は存在せず,相違点②´のみが存
するので,以下,相違点②´(相違点①に係る部分を改変したことを前提にした相違点②)
の容易想到性の有無について検討する。

甲46刊行物及び甲81刊行物には,両端部に縦貫する穴を有する部材を穴を有する対向
二片部間に配置するとともに,対向二片部の穴に軸を通してナット等で着脱可能に接続する
ことで,対向二片部の穴がその間に挿入された穴を有する部材を回動可能に支持する構造が
開示されている。このことからも明らかなように,穴のある軸受部材に着脱可能な軸を接続
して軸受部材間に配置された別部材を回動可能に支持する構造は,本件特許の出願当時,広
く一般的に用いられている周知技術であると認められる。

そうすると,引用発明における軸受支持構造に代えて,部品数を低減させて同等の構成を
実現した上記周知技術の軸受支持構造を採用し,相違点②´に係る本件発明の構成とするこ
とは,当業者が容易に想到し得るものといえる。

被告は,引用発明の構成を本件発明の構成に改変するには,3段階の改変が必要である旨
を主張する。

しかしながら,改変された部分を更に改変することが複数段階の改変に該当するのであり,
改変された部分の数をもって複数段階の改変というものではないところ,被告の主張する改
変1(軸受ブロック42を廃すること)と改変2(保持コンソール36に軸穴を対向して設
けること)とは,改変1又は改変2の改変部分に対して更に改変2又は改変1の改変を適用
するものではなく,一方が改変された場合にはおのずと他方も改変されるという関係にある
から(それゆえに同一の相違点に含まれるものとして整理されているものである。),被告の
上記主張は採用することができない(なお,改変1に係る主張は前記までの認定判断のとお
り前提を欠くので,失当である。)。

以上のとおりであるから,本件発明が容易想到ではないとした審決の判断には誤りがある。

[コメント]
審決では、引用発明の軸受パイプ内に、軸受パイプを枢動可能に支持する枢軸を設けるこ
とは容易であるが、その枢軸は、軸受ブロックを介して支持され、軸受ブロックはサイドフ
レーム部材に着脱可能に固く接続されているため、本件発明のように、軸受ブロックを廃し、
枢軸を直接支持するための穴をサイドフレーム部材の保持コンソールに設けることまでは容
易ではないと判断した。

一方、本判決では、穴のある軸受部材に着脱可能な軸を接続して軸受部材間に配置された
別部材を回動可能に支持する構造は周知技術であり、引用発明における軸受支持構造に代え
て、部品数を低減させて同等の構成を実現した上記周知技術の軸受支持構造を採用し、本件
発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものと判断した。部品数の低減という
課題は本件発明や引用発明に記載されていないが、裁判所は、部品数の低減は周知な課題で
あり、引用発明に周知技術を適用することは容易であると判断したようである。