IP case studies判例研究

平成25年(行ケ)第10174号「回転角検出装置」事件

名称 :「回転角検出装置」事件
審決取消請求事件(無効審決取消請求)
知財高裁:判決日26年2月3日、平成25年(行ケ)第10174号
判決 :請求認容
キーワード:訂正請求、134条の2第1項但書1~3号、実質上特許請求の範囲を拡張す
る訂正、126条5項、6項、
[概要]
無効審判において訂正請求がなされ審決では特許維持されたが、訂正に係る請求項1が実
質上特許請求の範囲を拡張するものであるとして、審決が取り消された事案である。
[設定登録時の請求項1](ただし、符号を追記)
【請求項1】
磁石を有し,被検出物(スロットル弁2)の回転に伴って回転するロータコア(17)と,
このロータコア(17)の磁石の磁力を受けて前記被検出物(2)の回転角度を検出し同じ
配列の3つの端子を有し且つ同形状を有する複数の磁気検出素子(31、32)と,2つは
前記磁気検出素子(31、32)の出力を外部に取り出し,また1つは前記磁気検出素子(3
1、32)に電源電圧を外部から印加し,さらに1つは前記磁気検出素子(31、32)を
外部に接地するための,少なくとも4つの外部接続端子(40、41、42、43)とを備
えた非接触式の回転角度検出装置(5)であって,
前記複数の磁気検出素子(31、32)は,並列に180度逆方向で配置され,前記複数の
磁気検出素子(31、32)が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子(31、3
2)の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子は各磁気
検出素子(31,32)の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて前記外部
接続端子(40、41、42、43)のいずれかと接続されていることを特徴とする回転角
度検出装置(5)。
[訂正後の請求項1] (ただし、符号を追記)
【請求項1】
磁石を有し,被検出物(スロットル弁2)の回転に伴って回転するロータコア(17)と,
このロータコア(17)の磁石の磁力を受けて前記被検出物(2)の回転角度を検出し同じ
配列の3つの端子を有し且つ同形状を有する複数の磁気検出素子(31、32)と,2つは
前記磁気検出素子(31、32)の出力を外部に取り出し,また1つは前記磁気検出素子(3
1、32)に電源電圧を外部から印加し,さらに1つは前記磁気検出素子(31、32)を
外部に接地するための,少なくとも4つの外部接続端子(40、41、42、43)とを備
えた非接触式の回転角度検出装置(5)であって,
前記磁気検出素子(31、32)の3つの端子は,電源電圧を印加する信号入力用(40),
信号出力用(41,42),及び接地用の端子(43)であり,前記複数の磁気検出素子(3
1、32)は,並列に180度逆方向で配置されて3つの端子は前記磁気検出素子(31、
32)の同一面より引き出され,前記複数の磁気検出素子(31、32)が夫々有する前記
3つの端子の内の各磁気検出素子(31、32)の同一位置に配置された端子の少なくとも
2つの同一位置に配置された各端子であって前記信号入力用及び前記接地用の少なくともい
ずれかは各磁気検出素子(31、32)の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出
されて前記外部接続端子(40、41、42、43)のうち電源電圧を印加する信号入力用
端子(40)及び接地端子(43)の少なくともいずれかと接続されていることを特徴とす
る回転角度検出装置。
[審決取消事由](裁判所が判断した「訂正要件の判断の誤り」を示し他は省略。)
1、取消事由1
ア 設定登録時(本件訂正前)の請求項1では,「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前
記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位
置に配置された各端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出
されて」,磁気検出素子の2種類の各端子が端子毎に同じ方向へ引き出されるものであった
のが,本件訂正後の請求項1では,「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子
の内の各磁気検出素子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子であって前記信号入
力用及び前記接地用の少なくともいずれかは各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎
に同じ方向へ引き出されて」と訂正され,磁気検出素子の少なくとも1種類の端子が端子毎
に同じ方向へ引き出される態様のものも含み得ることになり,実質上特許請求の範囲を拡張
するものである。
また,別紙1の図5ないし7に記載されているのは,並列に180度逆方向に並べられた
磁気検出素子の一番内側の信号入力用端子同士のみの端子毎の同じ方向の引き出しであって,
磁気検出素子の真ん中の接地用端子を端子毎に同じ方向へ引き出すものではなく,本件明細
書には,接地用端子を端子毎に同じ方向に引き出して外部接続端子に接続する構成の記載が
ないから,この構成を請求項1に含める訂正事項aは,本件明細書に記載した事項の範囲内
のものではなく,新規事項の追加に当たり,本件訂正は,特許法134条の2第9項におい
て準用する同法126条5項に違反する。
[裁判所の判断]
裁判所の判断は以下の通りである。
「上記請求項1の記載によれば,「複数の磁気検出素子が夫々有する3つの端子の内の各磁
気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子」
にいう「少なくとも2つの同一位置に配置された各端子」とは,各磁気検出素子がそれぞれ
有する3種類の端子のうち,少なくとも2種類の各端子を意味し,本件発明では,磁気検出
素子の2種類の各端子が,端子毎に同じ方向へ引き出されて,4つの外部接続端子のいずれ
かと接続されていることを理解できる。
一方,本件訂正後の請求項1の記載は,・・文言によれば,磁気検出素子の「前記信号入
力用及び前記接地用の少なくともいずれか」の端子が,「前記外部接続端子のうち電源電圧
を印加する信号入力用端子及び接地端子の少なくともいずれか」と接続されていることを理
解できる。そして,「前記信号入力用及び前記接地用の少なくともいずれか」にいう「少な
くともいずれか」とは,「前記信号入力用」の端子及び「前記接地用」の端子の「少なくと
もいずれか一つの端子」を意味し,また,「前記外部接続端子のうち電源電圧を印加する信
号入力用端子及び接地端子の少なくともいずれか」にいう「少なくともいずれか」とは,「電
源電圧を印加する信号入力用端子」及び「接地端子前記信号入力用」の「少なくともいずれ
か一つの端子」を意味することは,文理上,一義的に明白である。
上記請求項1の記載によれば,本件訂正発明は,磁気検出素子の「信号入力用」及び「接
地用」の2種類の端子のうち,いずれ
か1種類の端子が,端子毎に同じ方向へ引き出されて,外部接続端子のうち電源電圧を印加
する信号入力用端子及び接地端子のいずれか一つの端子と接続されている構成のものを含む
ものと理解できる。そうすると,本件訂正前の請求項1では,磁気検出素子の2種類の各端
子が,端子毎に同じ方向へ引き出されて,4つの外部接続端子のいずれかと接続されている
構成であったのが,本件訂正により,本件訂正後の請求項1では,「信号入力用」及び「接
地用」の2種類の端子のうち,いずれか1種類の端子が,端子毎に同じ方向へ引き出されて,
外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子のいずれか一つの端子
と接続されている構成を含むものとなり,磁気検出素子の「信号入力用」及び「接地用」の
2種類の端子のうち,いずれか1種類の端子が端子毎に同じ方向へ引き出される態様のもの
も特許請求の範囲に含み得ることになった点において,本件訂正は,本件訂正前の請求項1
について,実質上特許請求の範囲を拡張するものであると認められる。
[コメント]
実務として、特許請求の範囲を訂正する際に、実質的拡張・変更、限定的減縮の要件を満
足するように十分注意する必要がある。

平成25年(行ケ)第10174号「回転角検出装置」事件

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