審決取消請求事件 » 平成25年(行ケ)10109号「経路広告枠設定装置」事件

名称:「経路広告枠設定装置」関連技術審決取消請求事件
知的財産高等裁判所 平成25年(行ケ)10109号
判決日:平成25年12月25日
判決:請求認容(審決を取り消す)
特許法29条2項
キーワード:引用例の記載事項,容易想到性

[概要]
補正後の「経路広告枠設定装置,経路広告枠設定方法及び経路広告枠設定プログラム」に係る本件発明
について、『引用例1発明,引用例2に記載された発明及び周知事項に基づいて,当業者が容易に発明をす
ることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない』とした
本件審決の判断が否認され、当該判断の誤りを主張した審決取消の請求が認容された事例。

[特許請求の範囲](特願2008-4123;下線部補正後)
〔請求項1〕
通信ネットワークを介して接続された広告主の端末から、地図上の経路に関する線描写によって前記端
末で設定された経路情報を受信する経路情報受信手段と、
前記経路情報受信手段により受信した前記経路情報に広告枠を設定し、記憶部に有する経路データベース
に記憶する広告枠設定手段と、
前記経路情報に広告枠が設定された後に、ユーザの端末の位置情報を取得する位置情報取得手段と、
前記位置情報取得手段により取得された前記位置情報を含む前記経路を、前記経路データベースから特定
する経路特定手段と、
前記広告枠に対応する広告情報を記憶する広告データベースから、前記経路特定手段により特定された前
記経路に関連する広告枠の広告情報を抽出して前記ユーザの端末に送信する広告情報送信手段と、
を備える経路広告枠設定装置。

[取消事由]
(取消事由1)手続違背
(取消事由2)引用例1発明の認定の誤り
(取消事由3)一致点及び相違点の認定の誤り
(取消事由4)引用例2の記載事項の認定の誤り
(取消事由5)容易想到性の判断の誤り

[裁判所の判断]
特許庁が不服2011-27507号事件について平成25年3月4日にした審決を取り消す。審決に
は,引用例2の記載事項の認定及び容易想到性の判断(取消事由4,5)には誤りがあると判断する。そ
の理由は,以下のとおりである。
(1)本願発明の解決課題及び解決手段について
(1-1)解決課題
車等の移動体に搭載されたナビゲーション装置を介して,移動体が走行する経路等の周辺の施設等に関
する広告情報を提供する移動体広告システムにおいて、配信する広告情報が地図上の各エリアに対応付け
られていたため,移動体が所定の経路を外れても,エリア内であれば,エリアに対応付けられた広告情報
が配信されてしまう。エリアに代えて地図上の経路に応じて広告情報を配信可能な経路広告枠設定装置を
提供することを目的とする。
(1-2)解決手段
上記請求項1の構成において,広告主は,地図上の様々な経路に広告枠を設定することができるとする
ものである。そして,ユーザの端末からユーザの位置情報を取得し,当該位置情報を含む経路を特定して,
当該経路に関連する広告枠の広告情報をユーザの端末に送信する。
(2)容易想到性の有無
(2-1)引用例1発明
広告枠を地図上のエリアに設定し,広告主が供給する広告情報と地図上のエリア情報の対応関係をデー
タベースに記憶し,現在位置が含まれる地図上のエリアに対応した広告情報をデータベースから読み出し
て,ナビゲーション装置に送信するという,移動体広告システムの発明であり,本願明細書が言及すると
おり,移動体が所定の経路を外れても,エリア内であれば,エリアに対応付けられた広告情報が配信され
てしまうとの未解決の課題を残した発明である。
(2-2)引用例2
車載ナビゲーション・システム等を使用した,位置に基づく広告の提供方法に関する発明を記載したも
のである。引用例2には,広告メッセージを伝えることができる位置として,通行可能な道路沿いの特定
位置を「仮想広告掲示板」の位置として指定し,ナビゲーション・サービス・プロバイダは広告主との契
約に基づき,設けられた「仮想広告掲示板」の位置を通過するエンドユーザに広告メッセージを伝えると
の技術事項が記載開示されている。引用例2に記載された上記技術は,通行可能な道路沿いの特定位置を
通過するユーザに対して,広告メッセージを伝えるものであり,広告メッセージが送信されるのは,ユー
ザが特定の位置を通過した時点である。
(2-3)引用例1発明と引用例2の記載事項の組み合わせ
広告枠を地図上のエリアに設定し,広告主が供給する広告情報と地図上のエリア情報の対応関係をデー
タベースに記憶し,現在位置が含まれる地図上のエリアに対応した広告情報をデータベースから読み出し
て,ナビゲーション装置に送信するという発明である引用例1発明と,通行可能な道路沿いの特定位置を
「仮想広告掲示板」の位置として指定し,位置を通過するエンドユーザに広告メッセージを伝えるとの引
用例2に記載された技術事項を組み合わせたとしても,本願発明における地図上の経路に広告枠を設定す
るとの構成に至ることはない。また,引用例1発明に引用例2の記載事項を組み合わせても本願発明にお
ける上記構成に至らない以上,経路を線描写によって設定することが周知事項であったとしても,引用例
1発明に引用例2の記載事項及び上記周知事項を組み合わせることにより本願発明の上記構成に至ること
はない。
(2-4)審決の判断について
広告枠を地図上の経路に対して設定することが引用例2の段落【0060】及び【0061】の記載並
びに図11から出願前公知であるとして,経路を線描写によって設定することが周知事項であることを考
慮し,引用例1発明の地図上のエリアとして引用例2の記載事項にあるような道路区間(経路)を採用し,
相違点の構成とすることが当業者において容易になし得ることであるとした審決の判断には誤りがある。
(3)被告の主張に対して
(3-1)被告の主張
引用例2における「道路区間」は本願発明における「経路」に相当し,引用例2には「道路(経路)に
対して広告を設定すること」が記載されているのであるから,引用例1発明に引用例2に記載の技術事項
を採用して,相違点に係る構成に至るのは容易である。
(3-2)被告の主張に対して
引用例2に記載された「道路区間」の語は,仮想広告掲示板を設定する「道路区間」沿いの位置を特定
する文脈の中で用いられたものであって,広告枠を設定する対象を意味するものとして用いられた語では
ない。したがって,引用例2における「道路区間」と本願発明における「経路」とは,技術的意義におい
て相違する。引用例2においては,移動体が当該道路区間上を移動中であったとしても,当該特定位置に
至らない限り,広告メッセージは配信されないのであるから,「広告枠を経路情報に設定」することが記載
されているとはいえず,被告の主張は失当である。
(4)小括
審決の引用例2の記載事項の認定及び容易想到性の判断には誤りがある。