審決取消請求事件 » 平成25年(行ケ)10019号「食品及び飼料サプリメントとその使用」事件

名称:「食品及び飼料サプリメントとその使用」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成25年(行ケ)10019号 判決日:平成25年12月5日
判決:請求認容(審決取消)
特許法29条2項
キーワード:(数値範囲の)臨界的な技術的意義

[本願補正発明]
「健康及びパフォーマンスの改善用の、ビタミンを含有する食品及び飼料サプリメントにお
いて、当該サプリメントが、基礎成分として蟻酸、乳酸、クエン酸、プロピオン酸、アスコ
ルビン酸、フマル酸、酢酸、ラク酸、及び安息香酸である少なくとも1つのC 1~8 カルボン
酸及び/又はその塩と、前記サプリメントの乾燥重量1g当たり10~50mgの量のビタ
ミンB 6 、B 9 及びB 12 であって、その量が少なくとも、前記カルボン酸のCOOH基の代謝
中に消費されうる量に相当する量のビタミンB 12 及びB 9 であって、ビタミンB 6 、B 9 及び
B 12 の量が、前記サプリメント中の純カルボン酸の含有量の乾燥重量1g当たりそれぞれ、
0.5~30mg、0.1~10mg、及び1~1500μgの範囲であり、前記サプリメ
ントの乾燥重量1g当たり5~25mgのFeと、0~1重量%の酸化防止剤とを含み、前
記サプリメントを水に溶解させたとき、前記塩及びカルボン酸の量が、2.0~6.0のp
Hを与えることを特徴とする食品及び飼料サプリメント。」

[被告の主張]
本願補正発明においては、「サプリメントの乾燥重量1g当たり10~50mgの量のビタ
ミンB 6 、B 9 及びB 12 」と特定されている。しかし、本願明細書には、本願補正発明のビタ
ミンB 6 、B 9 及びB 12 を上記の濃度で配合することの作用効果や技術的意義についての記載
はなく、その上限と下限についての臨界的な技術的意義を示すデータや記載事項はない。

引用発明は、運動パフォーマンスを向上させるための各栄養素の目安となる最低摂取量と
その栄養素の特徴を生かす配合比が規定されているものであるから、引用発明において、運
動量の多いスポーツ選手のパフォーマンスを向上させる目的で、運動量に合わせ最適化を図
り、本願補正発明のように「サプリメントの乾燥重量1g当たり10~50mgの量のビタ
ミンB 6 、B 9 及びB 12 」という程度の濃度の高いものとすることは、当業者が適宜なし得る
範囲内のことである。

[裁判所の判断]
本願補正発明においては、「サプリメントの乾燥重量1g当たり10~50mgの量のビタ
ミンB 6 、B 9 及びB 12 」と特定されている。他方、引用発明におけるサプリメントの乾燥重
量1g当たりのビタミンB 6 、B 9 及びB 12 についてみると、引用発明中の、ビタミンB 6 、
B 9 及びB 12 の各含有量をサプリメントの乾燥重量1g当たりに換算すると、引用発明では、
ビタミンB 6 、B 9 及びB 12 は各50mg均等配合されており、かつ、・・・引用発明におけ
るサプリメントの乾燥重量は、「アミノ酸…合計1300mg」、「ビタミン…合計500mg」、
「ミネラル…合計100mg」、「抗酸化成分…併せて100mg」、「糖質…合わせて20g」
及び「1日のクエン酸摂取量6.25g」の合計28.25gであるから、50mg/28.
25g=1.77mgとなり、本願補正発明におけるビタミンB 6 、B 9 及びB 12 の量である
サプリメントの乾燥重量1g当たり10~50mgの範囲内にはない。

被告は、この点について、本願補正発明においては、「サプリメントの乾燥重量1g当たり
10~50mgの量のビタミンB 6 、B 9 及びB 12 」と特定されているが、本願明細書にはビ
タミンB 6 、B 9 及びB 12 を上記濃度で配合することの作用効果や技術的意義の記載も、その
上限と下限の臨界的な技術的意義の記載もなく、それどころか、実施例のレース結果やびら
んの治癒効果等の本願補正発明の効果は、上記で特定された濃度によりもたらされたものと
は必ずしもいえない旨主張する。しかしながら、要は、引用発明におけるサプリメントの乾
燥重量1g当たり各1.77mgのビタミンB 6 、B 9 及びB 12 という濃度を、本願補正発明
の「サプリメントの乾燥重量1g当たり10~50mgの量のビタミンB 6 、B 9 及びB 12 」
との濃度の範囲内とすることが容易に想到できるかどうかが問題であって、本願明細書にビ
タミンB 6 、B 9 及びB 12 を上記濃度で配合することの作用効果及び技術的意義の記載並びに
その上限と下限の臨界的な技術的意義の記載がないことや、実施例に見られる本願補正発明
の効果が本願補正発明により特定された上記ビタミン類の濃度によりもたらされたものなの
かどうかは、上記容易想到性の判断とは関係のない事項であるから、被告の上記主張は失当
というほかない。

また、被告は、引用発明は、運動パフォーマンスを向上させるための各栄養素の目安とな
る最低摂取量とその栄養素の特徴を生かす配合比が規定されているものであるから、引用発
明において、運動量の多いスポーツ選手のパフォーマンスを向上させる目的で、運動量に合
わせ最適化を図り、本願補正発明のように「サプリメントの乾燥重量1g当たり10~50
mgの量のビタミンB 6 、B 9 及びB 12 」という程度の濃度の高いものとすることは、当業者
が適宜なし得る範囲内のことである旨主張する。

しかし、・・・引用発明は様々な栄養素を含む飲料及び栄養補助食品であるところ、引用発
明に含まれる様々な栄養素の中で、ビタミンB 6 、B 9 及びB 12 が、その効果の発現に寄与し
ていることは引用例には記載も示唆もされていないし、引用発明における栄養素の中で、ビ
タミンB 6 、B 9 及びB 12 を殊更に選択して増量する動機付けも引用例には何ら記載されてい
ない。

[コメント]
本願発明および引用発明の構成上の差異は、ビタミンB 6 、B 9 及びB 12 の全量および各量
の数値範囲のみであるところ、数値範囲の差異のみが相違点である場合、新規性は認められ
ても、得られる効果が引用発明の延長線上にあるに過ぎない、つまり数値範囲の臨界的意義
が無いと判断され、進歩性が否定される場合が多い。今回の裁判例では、引用発明の数値と
本願発明の数値範囲とがかなり離れていたため、裁判所が臨界的意義は不要と判断した可能
性があるが、裁判所は「数値範囲を設定することが容易想到であるかどうかが(進歩性判断
の)問題」との判示を行っており、この点は特許庁の考え方よりも出願人側に有利な考え方
のように思われる。

化学分野においては、数値範囲を特許性主張の根拠とする場合も多く、その意味で注目す
べき判決であると思われる。