IP case studies判例研究

平成25年(行ケ)10015号「コーティングされた巻上ロープを設けたエレベータ」事件

名称:「コーティングされた巻上ロープを設けたエレベータ」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 25 年(行ケ)10015 号 判決日:平成 25 年 10 月 30 日
判決 : 請求棄却
特許法29条2項
キーワード:引用発明の認定、図面に表示された寸法
[概要]
引用文献の図面は厳密な正確さをもって図示されたものでなく、引用文献の図面から読み
取った寸法を根拠として引用発明を認定した審決に誤りがあると判断された事例。
[特許請求の範囲(本願補正発明)(下線部:本件補正箇所)]
コーティングされた巻上ロープを設けた望ましくは機械室を有しないエレベータであって、
巻上機は駆動綱車を介して一連の巻上ロープに係合し、該一連のロープは実質的に円形の断
面を有するコーティングされた複数の巻上ロープを含み、該巻上ロープは、円形および/ま
たは非円形の断面を有する実質的に強靭なスチールワイヤで撚り合わせた負荷支持部を有し、
前記エレベータでは、前記一連の巻上ロープは、それぞれの経路を移動するカウンタウェイ
トおよびエレベータカーを支持しているエレベータにおいて、各巻上ロープのスチールワイ
ヤの断面積は約0.015mm2より大きく、約0.2mm2より小さく、前記スチールワ
イヤの強度は約2000N/mm2より大きく、スチールワイヤで構成された各巻上ロープ
のコアは直径が4~6mmであるとともに、該コアより柔軟で厚さが0.4~0.6mmの
被覆でコーティングされ、これによって前記巻上ロープの表面が形成され、
前記巻上ロープの被覆は、実質的に硬質のゴム、ポリウレタンその他の非金属材料で作ら
れていて、該材料の硬度は88~95ショアAであることを特徴とするエレベータ。
[審決が認定した相違点](相違点1~2、4~5は省略)
相違点3:コアの直径について、本願補正発明においては、「各巻上ロープのコアは直径が
4~6mmである」のに対して、引用発明においては、「各ロープ53の鋼製素線2を撚り合
わせた部分は直径が約5.0mmないし10mmである」点。
[原告の主張]
(引用発明の認定の誤り)
審決は、引用発明は「鋼製素線を撚り合わせた部分は直径が約5.0mmないし10mm
である」という構成を含むものとして認定している。しかし、この認定の根拠は、本願明細
書の第1図のみであるところ、第1図は、概略図にすぎないものである。審決は、各構成要
件の比率に基づいて鋼製素線2を撚り合わせた部分の長さを推定しているにすぎない。この
ような認定方法が誤りであることは明らかである。
[被告の主張]
(引用発明の認定について)
引用文献は、国際出願の公表公報であり、その図面は、米国特許商標庁においては、先行
技術として使用される可能性があるものであり、その第1図は、たとえ概略図であるとして
も、ある程度の正確性をもって記載されていると解し得るものである。そのため、審決は、
第1図から、各ロープ53の鋼製素線2を撚り合わせた部分の直径及びロープ被覆の厚さの
各寸法について、一応の数値(数値範囲)として読み取ったものである。審決は、かかる数
値(数値範囲)については、本願補正発明との対比において、相違点としており、本願補正
発明と引用発明とが実質的に相違する場合についても判断している。したがって、引用発明
の認定に原告主張の誤りがあるとしても、審決の結論に影響を及ぼすものではない。
[裁判所の判断]
(引用発明の認定の誤りについて)
一般に、特許出願の願書に添付される図面は、明細書を補完し、特許を受けようとする発
明に係る技術内容を当業者に理解させるための説明図であるから、当該発明の技術内容を理
解するために必要な程度の正確さを備えていれば足り、当該図面に表示された寸法について
は、必ずしも厳密な正確さが要求されるものではない。
引用発明は、素線及びワイヤロープ外周の双方を樹脂材料で被覆するという、ワイヤロー
プの構造自体に特徴があるものといえる。
そして、引用文献の第1図については、「図面の簡単な説明」の項に「第1図は、本発明の
ロープの第1実施例の断面概略図であり」と記載され、「発明を実施するための最良の形態」
の項に「第1図を参照すると、荷重支持部材であるワイヤロープ1は、鋼製の素線2を撚り
合わせてストランド3を構成し、さらに、ストランド3を撚り合わせて構成される。各素線
2は、素線被覆4が施され、ロープ1全体は、中間被覆材6で覆われ、さらに最外層はロー
プ被覆5が施される。」と記載されている。
以上によれば、引用文献の第1図は、引用発明の構成を示す概略図として記載されたもの
であることが明らかであり、このような図面の性質上、各部材の寸法ないし図示比率につい
ては厳密な正確さをもって図示されているものとは認められない。
したがって、第1図に示された素線2の直径とコア直径との図示比率を根拠として、コア
直径が約5.0mmないし10mmであるとする審決の認定は誤りである。同様の理由によ
り、第1図に示された素線2の直径とロープ被覆5との図示比率を根拠として、ロープ被覆
5の厚さが約0.56mmであるとする審決の認定も誤りである。
(相違点3の判断の誤りについて)
引用発明におけるコア直径は不明であるから相違点3は次のとおり認定されるべきである。
「コアの直径について、本願補正発明においては、「各巻上ロープのコアは直径が4~6m
mである」のに対して、引用発明においては、「各ロープ53の鋼製素線2を撚り合わせた部
分の直径は不明である」」点(「修正相違点3」)。
そこで、次に修正相違点3の容易想到性について判断する。
引用発明も本願補正発明と同様に、少なくとも、エレベータシステムの小型軽量化のため
に、シ-ブを小径化し、そのために素線2も小径化して、ロープのコア直径を小径化してい
るものである。また、引用発明は、ロープのコア直径を特定の大きさのものとすることに発
明の特徴があるわけではない。
そして、エレベータのワイヤロープとして、直径を4~6mmに設定することは、エレベ
ータの技術分野において普通に想定されていることであって、格別なことではない(JIS
G 3525:1998、、ISO4344、、特開平9-21084号公報)。
引用発明においては、エレベータシステムの小型軽量化のために、シーブを小型化し、そ
のために素線も小径化し、ロープのコア直径も小径化しているものであること、及び、JI
Sの規格において、ロープのコア直径が小径のものとして、公称径を4~6mmとしたもの
が記載されていることなどからすれば、引用発明において、ロープのコア直径を4~6mm
とすることは、引用文献に接した当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないといえる。
したがって、相違点3に係る審決の判断は、その結論において誤りではない。
[コメント]
図面に示された部材の寸法から引用発明が認定されることがある。このような認定がなさ
れた拒絶理由に対して反論する際に、参考となる事案である。

平成25年(行ケ)10015号「コーティングされた巻上ロープを設けたエレベータ」事件

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