審決取消請求事件 » 平成24年(行ケ)10433号「太陽電池用平角導体」事件

名称:「太陽電池用平角導体」事件
拒絶審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 24 年(行ケ)10433 号 判決日:平成 25 年 8 月 22 日
判決:請求認容
特許法29条の2
キーワード:実質同一、除くクレーム

[概要]
先願基礎明細書に記載の発明と実質同一として拒絶審決を受けた原告がその取消を求めた
のに対し、請求認容判決がなされた事案。

[本件発明]
体積抵抗率が50μΩ・mm以下で,かつ引張り試験における0.2%耐力値が90MP
a以下(ただし,49MPa以下を除く)であることを特徴とする太陽電池用平角導体。

[審決が認定した一致点及び相違点]
ア 一致点
体積抵抗率が50μΩ・mm以下で,かつ引張り試験における0.2%耐力値が90MP
a以下である太陽電池用平角導体
イ 相違点
本願発明は,引張り試験における0.2%耐力値について,「(ただし,49MPa以下を
除く)」とされている点

[争点]
本願発明と先願基礎発明との実質的同一性に係る判断の誤り

[裁判所の判断]
1 一致点の認定について
ア 先願基礎明細書には,芯材の耐力を,「JIS Z 2241に規定の方法」である引張
試験により測定することが記載されているが,当該芯材の降伏点に関する記載はない。

そして,「JIS Z 2241に規定の方法」である金属材料引張試験方法により測定され
る耐力は,オフセット法,永久伸び法,全伸び法のいずれかにより算出されるものであるが,
永久伸び法は耐力が規格に合格するか否かを決めるだけでよい場合に用いられ,全伸び法は
全伸びλ%が明らかである場合に用いられる方法であって,引張試験において降伏点が明瞭
でない材料では,一般的にはオフセット法が用いられ,特に規定のない場合には,永久伸び
の値を0.2%とするものとされている。

したがって,先願基礎発明における耐力は,「JIS Z 2241に規定の方法」において,
降伏点が明瞭でない材料に対して一般的に採用される,永久伸びの値を0.2%としたオフ
セット法により算出した耐力,すなわち,本願発明と同様に,「引張り試験における0.2%
耐力値」であるということができる。

イ 原告は,この点について,「JIS Z 2241」では,耐力はオフセット法,永久伸
び法,又は全伸び法のいずれかの方法によって算出するとされており,0.2%耐力値は,
オフセット法の備考欄に耐力の式によって例示されているのみであるから,「JIS Z 22
41」に規定された方法の引張試験で測定した耐力が0.2%耐力値であるとは限らないと
主張する。

しかしながら,前記のとおり,降伏点が明瞭でない材料に対しては,一般的にオフセット
法における0.2%耐力値が用いられるとされている以上,先願基礎明細書に接した当業者
は,0.2%耐力値が用いられるものと理解するというべきである。

2 相違点の認定について
ア 本願発明と先願基礎発明とは,体積抵抗率が23μΩ・mm以下である太陽電池用平角
導体である点で一致するにすぎず,引張り試験における0.2%耐力値については,本願発
明は90MPa以下で,かつ49MPa以下を除いているため,先願基礎発明の耐力に係る
数値範囲(19.6~49MPa)を排除している。

したがって,本願発明と先願基礎発明とは,耐力に係る数値範囲について重複部分すら存
在せず,全く異なるものである。

イ 先願基礎発明は,耐力に係る数値範囲を19.6ないし49MPaとするものであるが,
先願基礎明細書には,太陽電池用平角導体の0.2%耐力値を,本願発明のように,90M
Pa以下(ただし,49MPa以下を除く)とすることを示唆する記載はない。また,半導
体基板に発生するクラックが,半導体基板の厚さにも依存するものであるとしても,耐力に
係る数値範囲を本願発明のとおりとすることについて,本件出願当時に周知技術又は慣用技
術であると認めるに足りる証拠はないから,先願基礎発明において,本願発明と同様の0.
2%耐力値を採用することが,周知技術又は慣用技術の単なる適用であり,中間層の構成や
半導体基板の厚さ等に応じて適宜決定されるべき設計事項であるということはできない。

したがって,本願発明と先願基礎発明との相違点に係る構成(耐力に係る数値範囲の相違)
が,課題解決のための具体化手段における微差であるということはできない。

ウ 本願発明は,耐力に係る数値範囲を90MPa以下(ただし,49MPa以下を除く)
とすることによって,はんだ接続後の導体の熱収縮によって生じるセルを反らせる力を平角
導体を塑性変形させることで低減させて,セルの反りを減少させるものである。

これに対し,先願基礎発明は,耐力に係る数値範囲を19.6ないし49MPaとするこ
とによって,半導体基板にはんだ付けする際に凝固過程で生じた熱応力により自ら塑性変形
して熱応力を軽減解消させて,半導体基板にクラックが発生するのを防止するというもので
ある。

そうすると,両発明は,はんだ接続後の熱収縮を,平角導体(芯材)を塑性変形させるこ
とで低減させる点で共通しているものの,本願発明は,セルの反りを減少させることに着目
して耐力に係る数値範囲を決定しており,他方,先願基礎発明は,半導体基板に発生するク
ラックを防止することに着目して耐力に係る数値範囲を決定しているのであって,両発明の
課題が同一であるということはできない。

[コメント]
先願基礎発明の数値範囲を除くクレームにて排除することで実質同一との認定を覆した事
案である。審査基準では、実質同一について「請求項に係る発明の発明特定事項と引用発明
特定事項とに相違がある場合であっても、それが課題解決のための具体化手段における微差
(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)
である場合(実質同一)は同一とする。」とされている。従って、除くクレームにて実質同一と
の認定を覆すには、本事案のように、引用発明との重複がないこと、及び課題(作用効果)
が異なることを説明する必要がある。

なお、裁判所も「両発明は,はんだ接続後の熱収縮を,平角導体(芯材)を塑性変形させ
ることで低減させる点で共通している」と述べ、両発明の課題解決のメカニズムの共通性を
認めている。このような場合、進歩性判断では反論が困難なことがあるが、実質同一との認
定の際には範囲が重複しないことを前提として解決課題が相違すれば覆し得るといえる。実
質同一と進歩性との間の法的判断の相違に基づくものであろう。